会ったら
言いたいことがあった会えたなら
伝えたいことが あった
とりあえず
恨んでいいか? なんて
まずは……聞いてみたい
Truth 〜 reveive 〜
俺がまた、ひとりになったのは、彼女が離れていったから。
なんて。
自分勝手な理由を付けてしまおうかと、何度思っただろう。
それでも、彼女のことを思い出せば。
自然と、笑みが浮かんでいたから。
そんなことは、できなかった。
そうして過ごした時間は、俺にしてみれば、長くて。
でも。
一般的に見れば。
たった――五年半。
「あ、来たみたいだね」
ちょっと、席、外します。
考えながら、必死に笑みを押し込めた表情を上げれば。
諸岡さんは席を立って、応接室を出て行くところだった。
それを追うように。
俺の視線は、彼の背中を離れて。
俺がここに来た時にはいなかった人物の姿を捉える。
その人物を逃がさないように、視線をセットしたまま。
ソファから立ち上がって。
その人物に見つからないことを祈りながら。
ゆっくりと。
目の高さのブラインドを、指で抑えた。
彼女だと、そう思った。
そう思わざるを得なかった。
薄い赤茶の髪は、幼い頃とも、高校の時とも、変わらなくて。
その髪を後ろで纏めてる赤いゴムも、高校の時のものと、変わらないように思う。
発色のいい、真っ赤なゴム。
服装は、高校の時に、一緒に出かけた時に着ていたものと変わらない、スポーティ系のもので。
彼女の好みが変わっていないことを、物語っていた。
そして、性格も。
きっと…あまり、変わってないんだろう。
そう、推察できた。
その彼女は、俺から離れるみたいに、真っ直ぐに、向こうへと歩いていって。
時々、周りの人とあいさつ程度の言葉を交わしているようだった。
けど。
「おっはよう! AKIRAちゃん」
「あ、おはようございます!」
部屋から出た諸岡さんに呼び止められて、彼女は振り返る。
瞬間、俺の瞳に飛び込んできたのは、蒼。
蒼い――彼女の、瞳。
その瞳に、今映っているのは、諸岡さんで。
その瞳には、好奇の色が浮かんでいた。
ちらりとこちらを見て。
少しだけ、首を傾げてから。
「どうかした?」
って、聞かれて、首を振る。
直後に浮かべたのは、笑み。
高校の時と、同じ――笑み。
「これ、今回のです」
「じゃ、見せていただきます」
下手に出た諸岡さんに、彼女はくすくすと微笑う。
微笑いながら、持っていた茶色い封筒を諸岡さんに渡してた。
ほんの少し、らしくない、と思うのは、この場所だから、なのか。
それとも、少し変わってしまったからなのか。
俺には、わからないけど。
「AKIRAちゃんさ、彼氏、出来た?」
彼女から受け取った原稿に視線を落としていた諸岡さんの問いに。
ブラインドを押さえ続けていた俺の指が、一瞬震える。
「出来てません!」
けどすぐに、力いっぱい、そう答えてくれた彼女に、ほっと息を吐いた。
再会できたとしても、入り込めないのなら。
俺のこの想いは、永遠に封印するしか、術はない。
彼女の姿を、こうして見られたからこそ。
俺は、彼女への自分の想いを、再確認できてた。
やっぱり。
そばにいてほしいと。
できれば、そばにいたいと。
笑みを見て。
いろんな表情を見て。
触れて。
――抱き締めて、しまいたい。
思えば思うほど、ここから出ていって。
彼女の目の前へと、出ていきたい。
けれど、それはできないから。
ぎゅっと拳を握って、耐えてた。
「でも、どうしてですか?」
「んー? こんなに優しい文章書くのに、どうして恋人いないのかなーって」
「……いつもと同じ理由ですか?」
「そう」
笑みでの応えに、大袈裟なくらい、大きく息を吐いて。
そのあとで、彼女は微笑う。
少しだけ、苦いものを宿して。
彼女がそんな表情をする時は。
半分ぐらい、言い当てられてしまっている時。
思い出して、目を細めれば。
「欲しいんですけどねー。誰も相手にしてくれなくて」
と、彼女は綴った。
相手にするやつなら、ここにいる。
そう、大声で言いたい。
思いながら、ぎゅっと固めた手に、力を込めた。
「勿体無い」
「あ、本当にそう思ってくれます?」
「もちろん。家事全部こなしてるんでしょう?
そんな女の子、めったにいないからね」
「ですよね? やっぱり、性格かなぁ…」
「それは問題ありそうだ」
「酷いですよ、諸岡さん!」
投げられた言葉に反応して、噛み付いて。
やっぱり子猫だって、確認すれば。
笑みを零せた。
――性格だって。
俺は彼女なら、受け入れられる。
高校の時と、きっと……変わっていないだろうと思える、ガラス一枚隔てた向こうの、彼女に。
言ってしまいたかった。
腕を取って、繋ぎ止めたい。
それが本心だけれど、できないから。
「じゃ、また一ヶ月後、連絡入れます」
「待ってます」
「ファンレターもあとで郵送するね? 多くて、手渡しは出来そうにないからさ。ダンボール箱抱えて、電車に乗りたくないでしょ?」
「はい……。それじゃ、待ってますね」
その言葉を残して、彼女は去っていく。
扉の向こうに消えるまで、俺は彼女の姿を追いかけて。
引き止めたいのを、必死に、押え込んで。
視線で追いかけるだけに、留めて。
扉が閉まってしまうと、俺はそこから、瞳を外した。
――時間にしたら、十分足らず。
けれど彼女は、確実にここにいて。
そして、俺に気づかずに去っていった。
俺の記憶の中の彼女と。
変わらない笑顔。
変わらない声。
そして――性格を持って。
「ごめんね?」
そう謝罪の言葉を述べながら、諸岡さんは戻ってくる。
開けられた扉に、「いえ」と短く返して。
俺は、彼よりも先に、ソファへと腰を下ろした。
そして、目の前へと座ってくる、その人を待つ。
見ていたことは、隠さない。
諸岡さんが勧めたんだから。
そうしてほしかったんだろうし。
だからこそ、彼はにこにこと、笑っているんだと、思う。
「ご感想は?」
この問いも、見ていたことを、知ったから。
笑顔で問われて、視線をゆっくりと、外へと向けた。
ここから下は見えないけれど。
見えていたら――確実に、彼女の姿を追っていた。
彼女は今、このビルの前を歩いているんだろう。
駅に向かって、真っ直ぐに。
いろんなものに、興味を引かれながらも。
時間に、間に合うように。
歩みは基本的に、止めずに。
高校の時は、そうだったから。
今もきっと――…。
「変わって…ないなって」
「?」
「高校。一緒だったから、あいつと」
「ああ。そういえば君も、はば学だったもんね?
友達だった?」
聞かれて、頷いた。
俺は好きだったけど。
と、心の中で付け足して。
今もまだ…、好きだけど。
その言葉は、お茶と共に、喉の奥へと、流し込む。
テーブルの上に置けば。
諸岡さんは、嬉しそうに笑ってた。
「メルアド、教えておこうか? パソコンの方。何なら、HP、覗いてみるかい?」
「HP」
「AKIRAちゃん、声優の真似事みたいなこともしてるんだ。友達とHP作って、脚本書いて、台本に直して、自分たちで演技して。で、流してる。半分趣味みたいなものだって、本人は言ってたけどね」
「へぇー」
声を上げれば、諸岡さんは、資料の中から、アドレスを見つけてくれて。
HPと、メール。
その二つを聞いて、メモを取って。
俺は腰を上げた。
いろんなことが、今日起こった。
そのすべてが、いいことでしかなくて。
そのすべてが、あとへと続くもの。
俺の努力次第で、だけど。
そのチャンスをくれた人だから。
俺は深く、頭を下げた。
そうしたいと、心の底から、思ったから。
「いい記事にしよう。CFの方も、手配しておきます」
「お願いします」
「それと、キャッチコピー。AKIRAちゃんで行くなら、そう連絡してくれると嬉しいな。別の人間にするにしても……だけどね」
「はい」
応えて、もう一度、頭を下げて。
諸岡さんをそこに残して、俺は応接室を出る。
また、たくさんの視線が刺さったけど。
それよりも、これからのことで、頭がいっぱいで。
帰ったらとりあえず、HPを覗いてみようか。
とか、考えた。
思い出すのは、彼女と過ごした多くの時間。
そんな、懐かしい想いをたくさん抱えたまま。
俺はエレベーターへと、乗り込んだ。
家への帰路へと、着くために。
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