ひとりで生きていけないから
自分に 本当に必要な人を
見極めていく
彼女のそんな生き方を聞いて
その部分に
俺は?
なんて
答えのわかり切っている問いを
投げたかった
Truth 〜
conpanion 〜
高校の時は、よく見ていたと思う。
すっと。
本当に真剣な、そんな顔。
今、目の前の彼女は、無言で視線を落としていて。
紙の上に、落としていて。
時折、眉根に縦皺を刻んだりしている。
頼んだアイスティーには、一切手をつけずに。
俺が差し出したそれを、一心に。
それは、作家という彼女の顔で。
俺が見たことなくて当然だと。
そんなことを考えながら、コーヒーのカップを傾けていた。
静かな喫茶店に、ページをめくる音がわずかに響く。
そろそろ、高校生が来るかもしれない。
時計に視線を向けて、思えば。
「――何ですか? これは」
と、彼女の呆れた声が、俺の耳に届けられた。
視線を戻せば、彼女の表情も、呆れを浮かべていて。
「だから、CFの」
「マジで?」
「マジで」
「本気で?」
「本気で」
「………」
わたしが考えてたのと、重なってる部分がまったくないです……。
なぜか肩を落として、彼女は言う。
声も、尻すぼみになって。
べつに、彼女が悪いことをしたわけでもないのに。
「書き直してもらったんだ。一回」
「…で、これ?」
「それ」
「………」
「玲?」
「珪じゃない」
呟くように言って、彼女は脚本をぽんとテーブルの上に、放るように置く。
それから、うーと唸って。
「あのね? 聞いていい?」
「? ああ」
「珪の…ブランドって。中心モチーフは、決めてるの?」
聞かれてる意味はわかる。
わかるけれど、実はこれというものを決めていなかったりして。
俺は視線を、テーブルの上で、無意味に走らせて。
「珪?」
それから、行き当たったのは、彼女の手。
左手。
薬指。
そこに収まっている――指輪。
「……クローバー?」
視線に気づいたのか、彼女は俺に、よく見えるように、その指輪を掲げてくれて。
けれど、その微笑みは、どこか苦くて。
俺はそれに、ゆるく首を振る。
「?」
「今、スタッフに言って、作ってもらってるのは、違うやつ」
「今?」
「ああ。植物だけど、クローバーじゃなくて」
「何?」
「スターチスと、ヘリクリサム…」
「??」
わからないらしくて、彼女は首を傾げて。
それでも、「名前は聞いたことあるんだけど」と、零して。
「ウチにも花の辞典はあるのにー!」
なんて、声を上げてた。
それにくすくすと笑ってから。
「ドライフラワーの方が有名だから」
そう、付け足せば。
彼女はまた、考え込んで。
「スターチスは、紫色のやつ」
「あの、花のいっぱい付いてる?」
「ああ」
「…難しくない?」
「そこをあえて」
「………」
「で、ヘリクリサムは、丸い感じの、オレンジ色のやつ」
「………」
わからないのか、彼女の言葉は、聞こえなくて。
俺はそれでもよかったから、頬杖を突いて、笑ってた。
「帰ったら調べます」
「はいはい」
「それじゃ、植物?」
話を元に戻されて。
今度は俺が、唸る番。
植物ばかりを作っていくってことは、ないと思う。
まぁ、どこのブランドも、同じものばかりをっていうんじゃ、ないし。
だから、それに限定してもいいのかもしれないけれど。
「聞き方変えようか?」
「?」
「何を思って、それにしたの?」
両手で頬杖を作って。
そこにあごを乗せながら、彼女は言う。
何を、思って?
考えても、答えは一つだったから。
俺はすっと、彼女の顔を、指差した。
「?」
「おまえ」
「はい?」
「花言葉。『永遠に変わらず』とか『永遠の愛』って言うのが、スターチス」
「……ヘリクリサムは?」
「『永遠の思い出』」
守村から教わった、言葉は、二つ。
でも、彼女に届けたのは一つだけで。
なのに彼女は、顔を赤くすることもなく、ただ腕を組むだけ。
当てが外れた。
そう思う。
「えーと。んじゃ、まず初めは、それでいくの?」
「たぶん」
「でも、君が考えていくんだよね?」
「当面は。もう一人、デザイナーはいるけど…」
「いるんだ?」
「ああ。でも、そいつはもう少し、勉強したいって、言ってるから」
「なるほど。じゃあ、『愛する人に贈りたい』っていうので、どう?」
「?」
「キャッチ」
言われて、ああと思う。
なるほどな。
考えて、笑みで答えを送れば。
「そうなるとですね。この脚本、まったく役に立たなくなるのです」
そう、話を本筋へと、戻された。
「無理矢理入れようとすれば出来るかも、だけど。何かそれも、どうなんだろ?
って感じじゃん?」
「…ああ」
「書き直してもいいけど」
「あるのか? お前の中に」
「……」
「CFの、構成」
はっきりと問えば、彼女はまた、少し唸って。
それでも、頷いてくれた。
わずかに。
「じゃ、おまえが書けばいい」
「…言うと思った」
「それに、お前に頼みたかったし、俺。本当は」
「………」
「?」
「それって……」
「? ああ」
「褒められた…の、かな?」
「そう」
笑いを止められなくて。
含み笑いで、そう、肯定すれば。
彼女はありがとうございます、なんて、頭を下げる。
それから。
「今、忙しいのか?」
「実は、それほどでも。やるのって言っても、連載のやつぐらいだし」
「じゃあ、頼んでもいいか?」
「報酬は?」
聞かれて、思考が止まる。
そう、これはプライベートの話じゃない。
仕事の話。
今俺は、一人のデザイナーで。
依頼人で。
彼女は作家で、請負人。
だから、彼女が口にしたのは、当然のことで。
「珪?」
「…その辺の相場、わからないから……俺」
「……だろうね。わたしもわかんないし」
「だから、諸岡さんに、聞いてもらって、いいか?」
「オッケー。でも、個人的に珪からも欲しいんですけど」
「?」
眉根を寄せれば、彼女はにこっと笑って。
それから。
「あのねあのね? チェーンを一本、買ってやってください」
「チェーン?」
「ネックレスの」
「どうして?」
問えば、彼女は手を上げて。
「これ、実はちょっと、サイズが大きい」
「………」
「落ちるってことはないんだけど、不安になったりもするんで」
「…造りなおしてやる」
「ありがとう」
少し、憮然として。
それでも、彼女の想いは、嬉しかった。
落ちる不安はないけれど。
落として、どこかに行ってしまったら。
そう考えたから、彼女はチェーンに通して、首に下げておこうとでも、思ったのかもしれない。
いつでも、身に着けていたいから。
考えて。
それに行き当たって。
俺は笑みを浮かべる。
アイスティーに、ようやく口をつけられていた彼女は。
そんな俺を見て、軽く、首を傾げてた。
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