| 終わりははじまり そんな言葉がある
信じられなかったけれど
彼女と 二度目の再会を果たした
今は
今は
Truth 〜 dusk 〜
出来た!
なんて言葉と共に手渡されたそれは。
確かに、彼女らしい言葉で綴られたもので。
読んでいけばいくほど、それは『俺』自身だった。
彼女の中の俺は、こんなにも『俺』で。
理解してくれていることが、ただ単純に、嬉しかった。
そうして、微笑っていれば。
「…何笑ってんの?」
と、聞かれてしまって。
俺はやっぱり、嬉しいから、としか、答えられなかった。
「嬉しいって、何で?」
「『俺』だから」
「…当然じゃん?」
「?」
「だって、君のことがわかってなかったら、わたしはここにはいないって」
どこか自信ありげに、彼女は言って。
それから。
「恋に恋してるわけじゃ、ないですし」
と、俺を驚かせてくれた。
「君のことをきちんと理解して。そのあとで、好きになったんだもん。理想の『葉月珪』を創り上げたわけじゃないもん」
ごくごく当然のことのように言って。
俺の方が、恥ずかしかった。
そうして、CF撮りはうまくいって。
案の定、公開されたときは、結構話題にもなってくれた。
だからか、忙しくもなってきたけれど。
ミノリのおかげで、そんなに堅くなることもなかった。
何においても、パートナーがいるっているのは、ありがたい。
そう、思っていた。
「いいな」
「何が?」
ポツリと言葉を落とせば、彼女は後ろを向いて。
俺を、その瞳に映してくれて。
それに俺は、ソファから腰を上げた。
何がと聞かれれば、いろんなことが。
まとめて言うなら、今という、その時間。
――かもしれない。
順調な仕事とか。
誰にもじゃまされずに――俺の家なのだから、じゃまも何も、ないとは思うけれど――彼女とこうして、二人きり。
そんな時間を、過ごせている、『今』とか。
「幸せって、こういうことなのかもなって」
「……なるほど」
包丁を手にしている彼女を横目に、火の上に乗っている鍋を覗き込む。
かき回してて。
なんていう、彼女の言葉に、従って。
おたまを手にして。
「そういえば」
「うん」
「月宮、何だって?」
「結婚式?」
「ああ」
「六月だって。ジューンブライドだそうです」
「………」
「幸せになりたいんだって。今だって充分じゃんねぇ?」
ぷくっと頬を膨らませた彼女に、俺はくすくすと笑って。
それでも、聞きたいことを口にする。
言わなければ届かない。
聞きたいことは、なお。
「月宮が出て行ったら、どうするんだ?」
言いたいことがあるから、聞いたに過ぎないのだけれど。
それでもこれは、その言いたいことを言うまでに、必要なステップ。
「前にも言った。一人で暮らす」
「………」
「姫もいるし。でも、姫…機嫌悪いんだよねー、ずっと」
答えは、想定内。
けれど、出された存在は、少し忘れていて。
でも。
「今は麻衣にばっかり甘えてて、何か悔しいんだよねー」
という言葉に、少しほっとしてた。
彼女に近づかないなら。
月宮のそばに、いるのなら。
手段はあるから。
「…そうか」
「それどころか、光太さんが来ると、光太さんのそばから離れないんだよ?
どうして? って思わない?」
「べつに」
「…もう。姫を最初に口説いたのは僕なのにさー」
「……禁止」
手を伸ばして。
包丁を置いた彼女を捕まえて。
後ろから抱き締めれば。
そうされるとは思ってなかったのか、彼女は一瞬、黙り込んで。
発された言葉も。
「な、何が?」
どもってた。
「それ」
「…『僕』?」
「ああ」
腕の中に閉じ込められたことが嬉しくて。
耳に口付ければ。
すかさず、彼女の手が、俺の額を叩いてくれた。
それでも、彼女を放すことができなくて。
「お鍋吹いちゃうから、ダメです」
「……止めればいいだろ?」
「夕飯は?」
「終わってから」
「却下!」
強く言われて。
彼女の前に回していた俺の手に、自分の手をかけてはくれるのに。
「早く離れて」
そう、強く言われたら、従うしかない。
ため息を吐いて、彼女から離れて。
また、鍋の前へ。
彼女はそんなを俺を横目で見て、微笑ってた。
「考えてみれば、麻衣との生活もあと少しかー。結局、料理しなかったな、あいつ」
今からでもやらせようかな?
材料をまな板の上に置いて。
彼女はまた、包丁を手にする。
それを、ある程度の大きさに切りそろえて。
俺へと、差し出してくる。
それが意味することは、わかっているから。
俺はそれを受け取って、鍋の中に、入れた。
「六月か」
「そう。わたしね、雨の中の花嫁さんって見てみたいな」
「…?」
「銀の糸が降り注ぐ中、純白のドレスを着た女性がいるの。綺麗だと思うんだけど…ダメかな?」
「風邪ひくな」
「……そうかも」
率直な意見を言えば、彼女は肩を落とす。
気持ちは…わからないでもない。
俺自身、そういう光景を見たことはないけれど。
けれど、考えれば、わかること。
天気雨だったら、なおさらかもしれない。
薄曇りの、柔らかい光と。
ライスシャワーとは違う、銀糸。
その中で、静かに微笑む花嫁は、確かに綺麗だろう。
でも。
俺が聞きたいこと――言いたいことは、それじゃない。
「で?」
「で、って何?」
その短い一言で、話を元に戻そうと思ったのだけれど。
彼女にはうまく、伝わらなかったらしい。
だから。
「おまえは?」
そう言葉を付け加えた。
彼女は少し、大きく目を見開いて。
「だから、一人で……」
「ここに来る気は?」
「………」
聞いてはいるけれど。
問いを投げてはいるけれど。
もうすでに、決定事項。
ひとりでなんて、そんなこと、させない。
二人の時間が、どれだけ緩やかで、あたたかなものかを知ってしまったのに。
なのにひとりでなんて。
させられるわけがない。
心配なんていうのは、建前だから。
そんなこと、彼女はすぐに、見破ってくれるだろうから。
だったら、素直に、率直に、その想いを届けた方がいい。
彼女は、ますます大きく、目を見開いて。
蒼を、俺へとさらして。
向けて。
固まってた。
そんな彼女に、俺はくすくすと笑う。
「来る気なくても、俺が行くけど」
「ちょっ、待ってよ!」
「待たない」
「選択肢はないわけ?」
「やった。こっちかあっち」
「違う! 一人っていう選択肢」
「ない。俺の家か、おまえの家。それだけ」
たぶん、彼女のこと。
ここにという選択肢を取るだろう。
俺だって、きちんと彼女のことを理解して。
好きになったのだから。
それぐらいは、理解している。
頃合いを見ながら、材料を入れていれば。
彼女は大きく、ため息を吐いて。
「姫は?」
なんて問い。
それもまぁ、思い出してからは、考えてた。
答えももう、俺の中にはあったから。
「月宮に引き取ってもらう」
そう口にした。
「理由は?」
「おまえを取られるから」
「……相手、猫だよ?」
「それでも」
二人の時間に、ほかはいらない。
そんな気持ちで、言葉を紡ぐ。
彼女は眉根を寄せて、俺へと向き直って。
俺は、渡されていたものを、かたわらへと置いてから、視線を向けた。
「言っていい?」
「何だ?」
「…独占欲、強すぎ」
「……べつにいい」
「子供」
「何とでも」
「勝手」
「…またか」
「わがまま」
「それで?」
「いじわる」
「知ってる」
「強情」
「あとは?」
「………」
右から左に、彼女の不満を聞き流してはいたけれど。
不意に止まった言葉に、俺は彼女の顔を覗き込む。
うつむいてしまった、彼女の顔。
彼女が視線を向けていた場所には。
キッチンに敷いていた、マットと。
それよりも前には、彼女の左手。
少しだけ開かれて、視界の中には、入っているはずで。
「玲?」
気づいていないのかもと、声をかければ。
彼女の瞳は、俺に向けられた。
不安そうに揺れている瞳に、吸い込まれそうで。
何も、言えなくなって。
「……好き」
「………」
囁きのようなそれに、唇を重ねた。
静かに。
静かに。
離れても、視線は逸らせなくて。
「答えは?」
綴った声は、少し、掠れたようで。
それでも。
「……考えとく」
「わかった」
振り切るように、身体を起こして。
彼女の頭を、ポンッと叩く。
危ない…。
思いながら、ちらと、彼女を見れば。
嬉しそうに。
なぜか嬉しそうに笑っていて。
それに俺も、嬉しくなって。
煮込んでいるその間だけと。
彼女の身体に、腕を回した。
彼女のこと、守れるといい。
約束を、果たせるといい。
そう…思いながら。
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