| 彼女の手を引いて歩く そのことに なぜか
ほっとしてた
安堵して
安心して
そう
隣りに 彼女がいること
そのことに
それをまた 手にできたこと
それがただただ
嬉しかった
Truth 〜 congeniality
〜
「とりあえず、ほとんど任せてくれていいから」
そう言ったのは諸岡さんで。
笑みでのそれに、妙に説得力とか、そういったものがあって。
俺ははい、と、答えてた。
第一、その方がありがたかったし。
とりあえず、質問されたことに答えればそれでいいからって言われたことに、頷いておいた。
それから。
「風石くんは、何で?」
「俺が……」
「葉月さんに呼ばれたんですよ。おまえも来いって」
「…?」
「オレ、逃亡癖があるから。それを見抜かれたみたいです」
小さく舌を出して、そう紡いで。
ミノリは俺に、笑みを向けてくれた。
それに、やっぱりって、そう思う。
微笑というより、不敵な笑み。
それに。
それからすぐに、香野さんは会場の方を見に行って。
諸岡さんは、スタッフと話しはじめて。
俺は、ミノリの寄せられた眉に、微苦笑を浮かべてた。
「…言ってないんですか」
「言ってない」
そんな風に、発しながら。
「オレ、葉月さんって、まっすぐな人かと思ってたんですけど。違ったんですね」
「…そうか」
自動販売機のボタンを押して。
そうしながら、ミノリは口を開く。
紙コップに注がれる、ホットコーヒーを、中腰で見て。
「そうですよ。かなりの策士。腹黒いとでも言うか」
「………」
「美弥に教えてやろうっと」
「…どうして?」
「オレが葉月さんの話、してるからですよ」
多分、驚きますよ。
くすくす笑って、紙コップを取り出して。
それから、くるりと、ミノリは身体を反転させる。
真後ろに座ってた俺に、向き合って。
自動販売機に、寄りかかって。
「で? オレにそれを言ったってことは、不安…なんですか?」
「……少しだけな」
言い当てられて、そう言うしかなくて。
俺に向けられてるのはまた、どこか不敵な笑み。
それから、大きく息を吐き出して。
「バカじゃないすか?」
なんて、呆れた表情で、言ってくれた。
「?」
「好きだって言って、同じ答えもらって。なのに何で、不安なんですか?」
「…違うだろ? それとこれとは……」
「同じですって!」
身体を起こして、彼は俺の隣りに腰かける。
それを見ていれば、にっと、笑われて。
「だって、ここは繋がってるじゃないですか」
と、胸を軽く、手の甲で叩かれた。
目を見開けば、手は離れて。
彼の目線は、天井へと、向けられる。
「葉月さんが言いたかったこととか、言わなかったこととか。そういうの、全部わかってると思う。何で言わなかった、とか。そういうのも。だって、心は繋がってるじゃないですか。それとも、AKIRAさんのこと、信じられないんですか?」
問われて、ふぅと、息を吐いて。
そうだな、と。
短く、答えを吐き出した。
「オレだって、美弥に言ってないこと、ありますよ?
でも全部、美弥は許してくれる。言わなかったのは、理由があるから。理由がなくて、言い忘れてただけ、とかだったら、軽く怒られますけど。っていうか、からかうためとかでも、ダメですけど。でも、葉月さんが黙ってたんだから。それ相応の理由、あったんでしょう?」
「……まぁな」
「だったら、大丈夫ですよ。許してもらえますっって!」
軽く肩を叩かれて。
それに少しだけ、前のめりになれば、ミノリは立ち上がる。
誰も、隠しごとはするなって言ってないじゃないっすかー!
とか、言いながら。
それに少しだけ、笑ってた。
「あれですよ。正義のヒーローとか、テレビでやってるじゃないですか。子供番組」
「? ああ」
「でも、そのヒーローだって、隠しごとしてるじゃないですか。自分がヒーローだってこと」
「………」
「それにだって、理由はあるでしょう?
知ったら、そいつが狙われるんじゃないかとか。そういう風に、相手のことを考えてのこと。もしくは、それが広まって、敵が知ったら、自分が危うくなるから。自分を守るために。そうやって、理由があるじゃないですか」
「…ああ」
「だから別に、言わなくてもいいんですよ。理由があるなら」
ポケットに手を入れて、片手で紙コップをあおって。
そのあとで、ミノリは微笑を、俺にくれた。
「にしても、葉月さんの好きな人が、これにかかわる予定の人だとは思いも寄りませんでした。普通にOLとかやってる人なのかなーって、勝手に思ってたから」
「どうして?」
「どうしてだろ? 何となく、かなぁ?
作家っていうのが、ピンと来なかったっていうのも、あるのかな?」
腕を組んで、考え込んで。
「おまえの彼女は?」
「はい?」
「今…何やってるんだ?」
「大学行ってますよ。短大。で、もうすぐ卒業」
「そうか」
「就職決まってて。OL、やる予定です。このまま行けば」
「………」
「オレ、美弥の手料理好きだから。料理関係に進めばいいのにって、勧めたことあったんですけどねー。そうしたら、首を横に振られたんですよ。嫌だって」
「…どうして?」
「ま、簡単な理由だったんですけど。接客とか、そういうの、苦手なんだって。一人で黙々と仕事できる方がいいとか、言ってた」
「逆だな」
「そうっすね。でも、ほとんど、ないものねだりじゃないですか。恋愛って」
「……」
「オレは、オレが持ってなくて、美弥が持ってるもんに惹かれたし。美弥だって、そうだったし。葉月さんだって、そうじゃないですか?」
問われて、考えて。
くすくすと笑い出す。
「そうだな」
言いながら立ち上がって。
少し、歩き出せば。
「…最初、何の話でしたっけ?」
そんな問いに、また俺は笑ってた。
「とにかく、記者会見ですね!」
「…ああ」
「フォロー任せてくれてもいいですよ?
葉月さん、誰かに似てるなーって思ったら、高校の時の生徒会長に似てるんですよ。だから」
「生徒会…長?」
「そ。オレ、その補佐役だったから」
「………」
「で、ついでに美弥の幼馴染」
「……」
「でもなぁ…、諸岡さんがまとめ役だし、黙ってようかな、オレ」
「フォローは、ありがたいけど」
「けど?」
「………」
話がべつの方向に行くのだけは、やめてほしい。
考えながら、息を吐き出して。
「おまえは、彼女に似てるよ」
「彼女って?」
「玲」
「…えぇ!?」
その反応に、俺はまた、笑みを発して。
「まぁ…、仲良くなれそうだし、いいですけど」
と、また少しふてくされたような、ものの言い方に。
俺は隣りで、笑い続けてた。
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