| あと もう一歩 考えて 笑みが零れた
俺の目の前には
俺が望んでいた形のゴール
あとはそこに
彼女の姿があれば
それで…いい
Truth 〜 affection 〜
シーツの上に、手を滑らせて。
ごろんと、寝返りを打つ。
…それから。
何かがおかしいと気づいて、ゆっくりと、瞼を上げた。
部屋いっぱいに満たしていたのは、朝の陽射しで。
俺はぼんやりと、それを見続ける。
彼女の部屋なのは、わかっていて。
そう。
わかっているから、こそ。
…どこ、行ったんだ?
上半身を上げて、隣りを見る。
けれどもちろん、そこに、彼女の姿はなくて。
さっき、手を滑らせることができたのだから、当たり前で。
それから、閉じられている扉の向こうへ、視線を向けた。
ベッドから抜け出して。
彼女がたたんでくれたんだろう、俺の服を。
月宮の恋人のものではない、洗濯された、俺自身の服を。
また、下だけまとって。
俺は髪をかき上げる。
彼女は、このドアを開けた向こうに、いるだろうか?
考えながら、手をかけて。
そして、手前に引いた。
そこには、ほしかった姿があって。
俺は思わず、抱き締めてた。
それが、許されているはずだから。
抱き締めて。
「お、おはよう」
「おはよう」
彼女の言葉に、同じ言葉を返す。
何だか少し、恥ずかしそうで。
そんな彼女が、何だか新鮮で。
愛しくて。
抱き締めて。
そうしていれば、背中に、彼女の手が触れた。
いつも通りの、あたたかい手。
「寒くない?」
「寒くない。暖かい」
「そか。……聞いていい?」
「ん?」
「今日…仕事?」
「ああ」
「何時から?」
「…一時」
「じゃ、まだ平気か」
「平気だな」
思い出して。
でも、離れたくなくて。
彼女を抱き締めていた腕に、力を込めた。
そうすれば、彼女は俺の肩に、額を付けてくれて。
腕にも、力を込めてくれて。
嬉しくて。
それで、昨日のあれは、夢ではないのだと、自覚できた。
だから。
心配なのは、彼女のこと。
「おまえは?」
「何?」
「平気か? 身体」
「……大丈夫」
強がりであることは、わかってた。
でも、放すことは、できなくて。
結ばれていない彼女の髪に、指を埋めた。
梳くように、撫でて。
軽く、引っ張って。
彼女の顔を、すぐそばで、見て。
「まだ寝てていいよ? ご飯出来たら、起こしてあげる」
「いい。起きる」
「…無理しなくていいって」
「してない」
「強情…」
言葉を止めるために、唇を重ねて。
応えてくれたのに、それもすぐに、胸を押し返されてしまって。
彼女を見れば、ほんの少し、怒った風。
「だったら、シャワー浴びてきなさい」
「………」
「それと、一回、家に帰った方がいいね。服、変えた方がいいし」
「…玲」
「ん?」
笑みを見せてくれた彼女の左手を取って。
ポケットに忍ばせていたそれを、薬指にはめた。
彼女は目を丸くして。
俺が手を離したあとも、じっと、左手のそれを見ていた。
「珪?」
「嫌か?」
「そうじゃなくて……いいの?」
「いいって言った」
もう一度、手を取って。
ようやく、彼女の左手の薬指にはめることができたそれに、唇を押し当てて。
それから、改めて手を離す。
と、彼女はその手を掲げて。
高い位置に上げて、下から見上げてた。
きらきらとした笑みは、嬉しさから来るもの。
それにつられるようにして、俺も笑みを浮かべてた。
「綺麗だね。珪が作ったの?」
「ああ。本当は…五年前、渡そうと思ってた」
「……そうなんだ」
胸の高さまで下げて。
彼女はそれを、しっかりと見つめる。
それから、俺がしたように。
リングのクローバー部分に、口づけた。
吐き出した息は、安堵から。
よかったと、本気で思う。
まだ、リングを見続けている彼女を、そこに残して。
俺はさっき、彼女に言われたことをするために、足を動かしはじめた。
けれど。
「あ、珪!」
「ん?」
「朝ご飯、何食べたい?」
呼び止められて。
それでも、足を止めなかったのだけれど。
その問いに、俺は足を止める。
首だけ回して、彼女を見て。
眉根を寄せても、彼女はただただ、答えを待っているだけ。
でも、答えなんかなくて。
「何でもいい」
結局、俺は、そう答えるだけ。
「あのね、それが一番嫌なんだよ? 作り手としては」
「…おまえ、料理上手だし」
「当たり前。この家の食生活支えてたんだから。それに、高校の時も、珪にお弁当作ってあげたことあったし」
「覚えてる。あの時も、美味かった」
「それで?」
「………」
思いつかなくて。
逃げることもできなくて。
身体の向きを、彼女に対して横にして、考え続けていれば。
彼女の口から漏れたのは、嘆息。
「聞き方変える。和と洋、どっちがいい?」
「中華」
「あのね…。作ってもいいけど、朝には向かないよ?」
「冗談。昨日、洋だったから」
「和ね。時間かかるかもしれないけど、いいよね?」
「ああ」
答えて。
小さく手を振って。
振り返されてから、洗面所へと、歩を進める。
この会話が、毎日続くようになればいい。
彼女の笑みを、毎日。
すぐそばで、見られるように、なればいい。
それができたら。
今度はずっと。
それが続くように、努力するだけ。
思って。
考えて。
俺は大きく、息を吐き出した。
かまえることはない。
きっと、大丈夫。
考えても、どうすれば一番いいか、なんて。
今この時点で、わかるはずもなくて。
それなのに、頭はそればかりを考えてしまって。
そのすべてを振り払うように、俺は軽く、頭を振って。
風呂場への、その扉を開けた。
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