すべてを手に入れたとしても
彼女がそばにいないのなら
それは無意味なものでしかなくて彼女がそばにいるのなら
すべてを失っても構わないとさえ
考えていた
Truth 〜 obvious 〜
「ダメだなぁ…」
ぽつりと呟いて、彼女は手を離す。
その声はとてもはっきりしていて。
もう泣いてはいないことを、俺に知らせてくれる。
それに、腕を緩めて、顔を上げれば。
彼女は笑ってた。
眉根を寄せれば。
「君の前じゃ、嘘吐けない」
そう言って。
大きく、両手を広げた。
それに、改めて腕を回して、ゆっくりと抱き締めれば。
彼女はやっぱり、笑っていて。
それでも、背中に手を回してくれて。
触れるだけのキスを何度もして。
けれどそれでも。
彼女は笑ってた。
「どうした?」
「聞いていい?」
「? ああ」
「何人、この腕に抱いたの?」
「………」
「わたし、何人目?」
別に怒らないから、言ってみ?
くすぐったいとか、嬉しいとか。
笑っているのが、そういう理由なのかと思えば。
彼女からは、そんな問い。
もちろん、答える気なんて、俺にはなくて。
「忘れた」
彼女の首筋に唇を近づけながら言えば。
「忘れた、だって。かわいそうに、葉月くんに抱かれた、女性の皆さん」
そう言いながら、俺の頭を遠ざけようと、腕を突っぱねてくれた。
そんな話よりも、俺は早く…。
考えながら、彼女を見れば。
まだ、笑ってた。
確かに、急いでも仕方がないかもしれない。
相手は彼女。
「そんなに聞きたいのか?」
「何となく」
「おまえは?」
「? 何が?」
「俺は…何人目?」
本気で、忘れていたこともあって――というより、考えたくもなかったから――、俺の方は、そうやって流したけれど。
彼女のことが気になったから、彼女と同じ言い方で、口にした。
彼女の笑いは消えて。
じっと、表情を無くして、俺の瞳を見て。
「こんなの、相手にしてくれる人見るの、初めて」
「……?」
「つまりね、わたし、彼氏いない暦、二十三年ってこと」
「………」
「よかったねー、玲ちゃん、バージンだよ?」
「……おまえな」
また、彼女は笑い出す。
彼女の肩に額を付ければ。
こつんと、彼女が頭をぶつけてくる。
そうであったら、とても嬉しいとか、考えていたくせに。
彼女の言い方に、脱力して。
呆れの方が、大きくて。
「嬉しくない? ずっと…好きだったってことなんだし」
「………」
「それとも、誰かにもらわれてた方がよかった?
遊んでた方が……よかった?」
「嫌だ」
「やっぱり、わがまま」
笑って、彼女は言って。
その笑いが消えるのと同時に、強く、抱き締められた。
そういう部分が、とても彼女らしくて。
愛しいと思う。
遠慮のない行動が。
「大丈夫だよ。結構、麻衣に聞いて、知ってるし。それに、怖くないし」
「本当か?」
「本当。自分でも、びっくりしてる。かなり冷静」
「……無理…」
「してない。本当に」
怖がらせたくはないし。
だからと言って、俺も、遠慮したくはない。
彼女の表情を見れば、静かで。
冷静だと言ったその言葉に、嘘はないのかもしれない。
「キスは?」
「……あれが初めて」
「………」
「でもって、昨日のが、久しぶり」
「……そうか」
「嬉しい? ファーストキスも、バージンももらえて」
「嬉しい」
彼女に触れられるのは、俺だけ。
それを許されているのは、俺だけ。
嬉しくて。
その話をしていたからか。
触れるよりも先に、唇を重ねたくて。
顔を落とす。
彼女は瞼を閉じてくれて。
唇を重ねて、それで終わることが、できなくて。
先へと急ぎそうなになる心を、必死に押さえて。
啄ばんで。
口がわずかに開いたのに、舌を差し入れた。
探るように、歯の裏をなぞって。
わずかに触れた舌を追いかけて、絡めた。
甘い…。
それが正直な感想。
そうして、離れれば。
彼女は大きく、息を吐き出して。
呼吸して。
俺はそれに、笑みを零す。
「反応が初々しい」
「…しょうがないでしょ……」
乱れた息で、彼女は綴って。
顔を逸らした。
頬がほんのりと、赤くて。
その頬に、キスを落として。
「どうした?」
耳のそばでそう聞けば。
彼女は肩を震わせた。
俺のしたことで謙虚に反応を返してくれることが、嬉しくて。
楽しくて。
笑う。
俺の服をきつく握る手に。
頬に触れていた唇を、首筋へと降ろした。
きつく吸い上げて、痕を残して。
鎖骨の辺りも、同じように、痕を刻んで。
彼女は俺の。
その印を刻む。
服の裾から手を差し入れて、触れた、彼女の素肌は。
あたたかくて。
そうして手を上げて。
「何か、ずる……っ」
「どうして?」
「わたし、何も知らな…から」
「そうか」
「…んっ」
背中のホックを、何とか外して。
触れた、彼女の胸は。
柔らかくて。
触れたかったものに、触れられた。
それが嬉しくて。
彼女の手が、シーツに落ちる。
固く尖った胸の中央。
それに掠めたことで気づけたそれを、指の腹で押して。
きつく閉ざされた瞼を見て。
俺は笑みを零した。
今、こうしていること。
何度も夢に見たけれど。
本当にこうできるとは、思わなかったから。
けれど。
「それ、禁止」
手の甲を口へと当てた彼女の手を取って。
俺の背へと回す。
手の代わりにと、唇を押し当てて。
深いキスを送って。
触れたいと願った、彼女の心と、身体。
その両方に触れられたことが、とても嬉しくて。
彼女の身体を、もっとよく見たいと、服を脱がそうと、手を動かした。
たくし上げて、腕を抜かせて。
唇を離して、頭の上へ。
彼女は抗うとか、恥じらうとか、なくて。
簡単に、その肌を俺に晒してくれた。
嬉しくて。
唇を重ねて、深くして。
手はまた、胸をつかむ。
彼女の手は、俺の首に、回されて。
キスをねだるみたいに、後頭部に添えられて。
それでも、すぐに。
その手は俺の背中に下りて。
服をつかんだ。
手繰り寄せていくそれに、身体を起こして。
彼女の望むままに、上着を脱いだ。
それから、彼女の身体を見ていれば。
彼女の呼吸は落ち着いていって。
胸の上下は、静かに、なくなって。
傷も、何の痕もないそこに、俺は目を細める。
「綺麗だな」
「…初々しくて?」
「ああ」
「誰にも蹂躪されてませんから」
「……どこから覚えてくるんだ?
そういう言葉」
「わたしの職業、作家」
「……そうだったな」
少しばかり、強張っている表情に、額にキスを落として。
唇で、彼女の顔の輪郭を辿っていく。
逸らされる首筋をゆっくりと降りて。
鎖骨を辿って。
彼女の背中に回した手で、身体を反らせて。
柔らかい胸に、顔を埋めた。
手放しそうになる理性と。
先へと、早くに進みたくなってしまう思いを、必死に押さえて。
冷静にと、自分に言い聞かせて。
「あ、んん……!」
胸の先を、唇で挟み込む。
舌で転がして。
彼女の声を聞いて。
煽られそうになるのを、必死で、押え込んで。
わずかに動いた彼女を、見れば。
枕をつかんでいて。
逆の手はまた、甲の方を、口に当てていた。
声がくぐもったのは、このせいか、なんて、考えて。
「禁止って言った」
手を取って。
わずかに浮かぶ涙をすくうように、目尻に唇を押し当てる。
取った手を、ぎゅっと握って。
シーツの上で、繋いで。
「だって……」
「ん?」
「何か…ヘン」
「それが普通」
手を離して、彼女がつかんだ枕を、彼女の頭の下へと敷けば。
その縁を、彼女はぎゅっと、つかんだ。
知らなかったものを知る時は、誰でも怖いと思う。
それは、彼女の、枕をつかんだ手が、物語っていて。
落ち着かせるように前髪をかき上げれば。
彼女の呼吸は、整っていった。
その中で。
彼女は指先で、俺の胸に触れた。
俺に触れる面積は、指先から手になって。
広く、なって。
そのあたたかさを、感じ取れば。
彼女の目は、細められた。
「好きだな、やっぱり」
「そうか」
「うん…。自覚したのね、高三の秋」
「秋……?」
「温水プール、行ったでしょう? 文化祭の、準備が始まる、ちょっと前」
「ああ、行ったな。二週間、拘束されるから…その前に遊びに行こうってことになって」
「うん。それまで何度か、君の身体、見てたのに……きちんとは、見たことなくて。でね、その日…ちゃんと見たの。肩幅広くて、胸板、きちんと厚くて。やっぱり、男の人なんだなって思った」
手が滑って、彼女は俺の肩から腕のラインを辿っていく。
「そう思ったら……何か、恥ずかしくなった。それまでは…友達だったのに、その時から突然、異性として……見るようになっちゃって。こんな自分、気づかれたくなくて。そうしたら、お姫様役でしょう?
冗談って、思った」
「玲…」
「綺麗で、そばにいられるだけでいいって思ってたのに。君に、彼氏が欲しいって言っておきながら、葉月くんのことは、別の扱いしてた。友達だった。男の子って、わかってたのに。つもりでしかなかったんだって、自覚した。でも……葉月くんのこと、男性として見始めたら、欲しいなって。彼氏として欲しいなって、そう考えるようになった。そうしたら…あれでしょう?
嬉しかったけど、君はやっぱり、綺麗で。わたしとは、違ったから。どうしても、怖くて」
「言っていいか?」
「何?」
「俺のこと、名字で呼ぶのも禁止」
変わらない呼び名に、少しだけ、嫌になって。
早口で綴って、彼女の胸。
そこに、もう一つ、印を作る。
「んっ。どうしてそうなるかな?」
「友達じゃないから」
話を聞いてはいたけれど。
それはただただ、嬉しかった。
けれど。
名前と、自分の心。
先へ、先へ。
進みたくて、どうしようもなくて。
彼女がはいているGパンに、手をかけた。
もちろん、先へ進むために。
「何て呼んで欲しい?」
彼女の声に、恥じらいはなくて。
脱がしていく俺の手にも、抗うことはなくて。
「名前」
それがなぜかを考えながら、答えを口にする。
下肢に触れれば、くすぐったかったのか、彼女は身を捩る。
そうして、笑いながら。
「けーくんって?」
また、問い。
子供の頃なら、許したけど。
今の声で、呼んではほしくなくて。
俺は一番触れたかった場所に、下着の上から触れた。
探すために、軽く、指を滑らせて。
「んっ」
返った反応に、手を止める。
「禁止」
少しだけ強く、そこを押して。
シーツをつかむ彼女の手が白くなっていくのを見る。
「昔は、そう呼んでた…っ!」
「これからは禁止」
「あ、ん…っ」
かわいい…。
思って。
彼女に瞳を向け続ける。
子供が、好きな子をついいじめてしまう感覚は。
こんな感じなのかもしれない。
自分がしたことで、いろんな反応を見せてくれるから。
それがとても、嬉しくて。
楽しいと思ってしまう。
枕に顔を埋めて。
きつく、瞼を下ろして。
強すぎる…のかもしれない。
それでも、やめる気はなくて。
彼女が俺の名前を、呼んでくれるまで。
そう、決めてしまったから、やめられなくて。
「や…、ダメっ……!」
「じゃあ、呼んで」
「あっ、やぁ…」
「玲?」
「いじ、わ…る…、んっ」
「いいから」
呼べばいいだけのこと。
それは、彼女にもわかっているはずで。
「ヤ、ダぁ…!」
涙が零れたことに、わずかに手を離す。
目尻にキスをして。
やっぱり少し、強すぎたかと、そう思う。
だから、触れるのを軽いものにして。
俺は彼女を促していく。
「玲」
「っ、…んんっ」
「呼んで」
「…ヤ、メ……っ!」
「呼んで、玲」
「ヤ、もう…、け、い……!」
「合格」
しっかりと離れれば、彼女の身体は、酸素を欲した。
大きく息を吸い込んで。
けれどすぐ。
彼女は自分の身体を抱き締めるみたいに、丸くなる。
中途半端に、熱くさせられたから。
中途半端に、快感を与えられたから。
その波に、耐えるために。
こうなることをわかっていたから、俺は少し笑って、ベッドから降りた。
「どうした?」
振り返れば、睨み付けられて。
俺はそれにも、笑う。
「いじわる」
「かもしれない」
「かもじゃない。珪はいじわる」
「…そうだな」
楽しいんだから、仕方がない。
確認しながら、俺も服を脱いでいく。
それから、ベッドの上に戻って。
涙を溜めた目で、まだ俺のことを睨んでたから。
その涙を、舌ですくい取ってみた。
そうすれば、そんな小さなことにさえ、彼女はピクンと、反応を見せてくれて。
今の彼女には、どんなことでも、快感に摩り替わってしまうのかも、しれなくて。
そんな彼女が、どうしようもなく、愛しくて。
それでも。
彼女のことを第一に考える。
それだけは、俺の中で、決まっていたから。
急がないことだけを、気を付けて。
足を伸ばさせて、下着を取り払って。
他人の目に触れたことがないだろう場所を、露にすれば。
その時だけは、彼女の身体は、拒否の色を見せた。
「玲」
呼んで、顔が上げられたことに、安心して。
唇を重ねる。
怖いかもしれない。
怖いとは、思う。
だから、怖くないと言っても、それが取り払えるとは、思えない。
なら。
少しでも不安を感じさせないように。
ただただ、俺のしていることで、感じてくれるように。
考えながら、手を下へと持っていく。
腰のラインを辿って。
中心へと、触れて。
「んっ」
寄せられた眉に、首筋へ、唇を落とした。
「濡れてる」
「いじわ、る…したからっ、でしょう……!」
「そうか」
「は、ぁっ」
足を開かせて。
蜜で滑る指で、きちんと彼女に、快楽を伝えていく。
肩に痛みが走って。
そこにあるのは、彼女の手だと、わかっていたから。
何も、したくはなくて。
「玲」
彼女なのだと、確認するように、名を呼んで。
キスをする度に、呼んで。
「け、い…」
呼んでくれる声は、彼女のものでしかなくて。
嬉しくて。
「あっ、ん……んんっ!」
ゆっくりと、中へと侵入を試みる。
初めてだから、俺を受け入れる準備は、もちろん、できていなくて。
少しずつ、奥へと進む。
一度、奥まで入ったからと。
抜いて。
今度は一気に、奥まで。
「んー!!」
彼女の身体は大きくのけぞって。
それでも徐々に、中は柔らかくなってくる。
入り口を広げるために、少し乱暴に、動かして。
水音を、立てて。
彼女の呼吸に合わせて、指の数を増やしていく。
「ダ、メェ…!」
続けていけば、彼女は逃げていく。
けれど、逃がすはずはなくて。
「け、いっ…、も、ダメ……!」
急に、頬に手を添えられて。
引き寄せられて。
彼女からの、キス。
舌が伸ばされて、絡まって。
何が起きたのかわからなくて、固まっていれば。
「珪…」
泣きそうな声と、涙の溢れる瞳で、俺の前を呼んで。
彼女はまた、キスをしてくる。
「珪、おねが……」
これ以上は、耐えられないのかもしれない。
両腕が、俺の首に回されて。
しっかりと、彼女は俺の唇に、自分のそれを、重ねてくる。
それに応えるために、指を引き抜いて。
しっかりと、キスをして。
膝裏に、手を差し入れて。
重ねたまま、上へと上げて。
俺のそれを、入り口へと当てた。
「んっ、んんっ!」
本当はもう少し。
そう思っていた。
今、俺が彼女に与えているのは、痛みだけで。
それに耐えるために、彼女の腕の力は、強くなる。
謝罪と。
彼女を宥めるため。
舌を絡めて。
ゆっくりと、彼女の中に侵入っていく。
「大丈夫か? 玲」
根元まで、彼女の中へ。
そのあと、顔を上げて、そう、言葉を綴れば。
彼女は静かに、俺を見ていて。
――笑って。
「玲?」
「痛い」
「悪い」
「でも…嬉しい」
その言葉にほっとしていると、彼女の手が、俺の頬に触れて。
首筋まで、降りて。
上下にそこを、彼女は撫でる。
求められて、キスをして。
気をつけながら、彼女の身体を抱き締めて。
「続き、しなくていいの?」
「……する」
ごく、間近で。
囁かれて。
問われて。
俺はもう一度、唇を重ねた。
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