知らないことは たくさんで

それは何も 遠い国でのことだけじゃなくて
目の前のことも もちろんで

そしてそれは
自分自身にも 向いていた




Truth 〜 betray 〜





わずかに開ければ、姫はまだとでも言うように、俺の顔を見上げて。
小さく一つ、鳴いた。
それに、何度も逡巡して。
けれど、俺は結局。
その扉を大きく開けて。
中へと入っていく姫の姿を、見続けていた。
月宮の部屋。
彼女と似た感じではあるけれど、犬のぬいぐるみがいろんなところに置いてあった。
彼女は猫で、その親友は、犬なのか……。
なんて、そんなことを考えていれば。
姫がまっすぐに、机のそばへと、寄っていって。
軽々と、その上へと飛び乗った。
それから。
「にゃー」
「?」
俺を呼んでくれたのに、また少し、躊躇して。
それでも姫が、机の上にある写真立てを倒してしまったことに、思わず中に、入り込んでた。
写真立てを直して。
その写真を、きちんと見れば。
それは、彼女と月宮の姿で。
俺はふっと、笑う。
直後。
そばに置いてあったノートに、姫は右前足を乗せた。
にゃーと鳴いて。
けれどすぐに、机から降りてしまう。
……わからない。
思いながら、視線で追いかければ。
姫は壁と平行に置いてあるベッドの上で、丸くなった。
ほぼ、俺の真後ろ。
「………」
何だ?
考えて。
何を言いたかったんだ?
考えて。
とりあえず、姫が故意に触れたんだろうノートを、俺は手に取った。
表紙を捲れば、そこにはたくさんの字が書かれていて。
大きさは、ほぼ同じ。
色は、交互で。
何が書かれているのかと、読んでみれば。
『何書くの?』
最初は、そんな一文で。
『何でもどーぞー』
『どーぞーって言われても……』
『玲は今、幸せ?』
『…よくわかんない』
『だろうな』
『うん。でもま、そういう時こそ幸せっていうじゃん? 幸せを探してる時が、幸せなんだ、とかさ』
『じゃ、玲は今、探してるわけ? 幸せ』
『……別に?』
『………』
『はんのうー!!(><)』
『いや、それじゃ、玲は幸せじゃないじゃん、とかって突っ込もうと思ったんだけど、めんどくさいから、やめようかなと』
『ヤ、突っ込んで』
『メンドクサイ』
『マーイー!!』
『えーと、そういえば今日、なんか買ってきてたね?』
『………』
『玲ちゃーん?』
『カッテキマシタネ?』
『何でカタカナ? っていうか、片言といった方がいいのか?』
そこまで読んで、俺は机に寄りかかる。
二人の会話、そのままに、そこには書かれていて。
俺は、笑っていたのだけれど。
『えーと…うん?』
『うん?』
『何?』
『何を買ってきたんですか?』
『…雑誌』
『雑誌? 珍しい』
『だって…』
『?』
『写真、付いてたから…』
『…あー、彼の?』
彼?
眉根を寄せても、文字は続いていて。
俺は視線を下げていく。
『うん』
『隠したって無駄になってるんでしょ? どうすんの?』
『写真立てに入れとけば、とりあえず平気じゃないですか?』
『……そっか』
『うん。でもさ、写真立てにそのまま入れとくのって、ヤじゃない?』
『何で?』
『すっごく、好きみたいじゃん。もしくは、すごいファンとか。彼、モデルだし』
俺のことだと、わかった。
けっこう、すぐに。
でも、そこでやめることはできなくて。
俺はページを捲った。
第一、彼女の部屋に、俺の写真なんて、なかったから。
『好きなんじゃん』
『うっ!』
『おばか』
『う〜!!』
『で? どうすんの?』
『…どうしよっか?』
『………』
『?』
『何かの写真の裏に、隠しとくとか?』
『あ、いいね? で? どれの裏?』
『それは自分で考えろ』
『えー?』
『えーじゃないの』
『………』
『………』
『…えー……』
『………』
『じゃあ、あれは? 写真嫌いの麻衣が、一枚だけって、撮らせてくれたやつ』
『修学旅行の?』
『そうそ』
『っていうか、あれは、カメラ向けてたのが先生だったから』
『ですねー?』
『しかもあれ、持ってるの私だし』
『だねー?』
『………』
『?』
『却下』
『あうっ(ToT)』
『だって、隠してたりしたら、コータに見つかった時に、なんていえばいいの?』
『大丈夫だよ! 麻衣がモデルに興味持つわけないって、光太さん、わかってるし。聞かれたって、麻衣が「玲の」って言えば、光太さん、何も言えないでしょ?』
『………』
『決定!』
『…まぁいいけど』
それを見て、俺は写真立てを手にする。
外して、中を見れば。
そこには確かに、もう一枚、入ってた。
『でも何で?』
『ん?』
『買ってきたの』
『何かね? らしかったから?』
『ほー』
『ねこさんもかわいかったし』
『はいはい』
表に返せば、いつか、撮られたもので。
俺はふっと笑う。
彼女がこれを覚えているかどうかはわからないけれど。
それでも、月宮は覚えているんだろう。
だからこれは、ここにあったんだろう。
考えて、俺はそれを、元の形へと、きちんと戻した。

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