いらないものが多くて
なのに 簡単に放り出せなくて大きく 息を吐き出した
幼い頃は
早く大人になりたい
大人はきっと 自由だから
だから――と願っていたのに
なったらなっただけ
すべてが
ややこしくなる
そのことに気づいたのは
つい……最近
Truth 〜 gradually 〜
『もしもし? 葉月くん? 諸岡です』
休みの日。
することがなくて、ぼんやりと窓の外を見ていたその時に、携帯は鳴り響いた。
発信元は、一度だけ見た、番号で。
一ヶ月前に登録した、番号で。
俺は慌てて、通話ボタンを押していた。
「…はい。葉月です」
結果が気になって。
だからこそ、それしか言えなくて。
そんな俺に、諸岡さんは電話口で、笑っていた。
『気になる?』
「……はい」
意地悪だと思う。
一度しか、会ったことはないけれど。
この時は本気で、そう思っていた。
『えーと、いつが暇かな?』
「え?」
『出来ればね、明後日辺り、暇だと助かるんだけど』
「………」
カレンダーの前まで移動して。
今日の数字を、指で抑える。
明日は…仕事。
撮影と、インタビュー。
明後日は……午前中、インタビューが入っていた。
そのあと、二・三枚、撮るだろうけど。
午後にはそんなに、支障はなかったはず。
『葉月くん?』
「あの」
『うん』
「明後日……午前中、仕事なんですけど」
『午後は? 暇かな?』
「何も…なければ」
『じゃあ、急な仕事が入らないように、祈ってます』
「…あの……」
『で、明後日。うちの出版社、来てほしいんだ。あれから、新しいの、造ったりした?』
「はい」
『それ、今手元にあるかな? 店に持ってっちゃった?』
「いえ……、あります」
『それ、持ってきてください。僕の言葉と、あの時に撮った写真だけじゃ、納得してくれなくて』
「はぁ…」
『借りられればよかったんだけど、一ヶ月も借りるわけにはいかないしね。ってことで、お願いします。場所は、この前渡した名刺の裏に、地図があるんで…』
「あの、諸岡さん」
『はい?』
「あの……」
一人で勝手に話を進めていく諸岡さんに。
俺は口を挟めずにいたのだけれど。
……だめだったのか、そうじゃないのか。
それを先に、教えてほしい。
「いいんですか? 俺の……で」
『それ…なんだけどね?』
「?」
『話の方向が、ちょっと違う方向に行きそうで』
諸岡さんの言い方に、俺は眉根を寄せる。
それから、カレンダーに背を向けて。
落ち着こうと、ソファに深く、腰を下ろした。
違う方向…って?
『詳しいことは、明後日話そうって思ってたんだけど…。早い方がいいなら、今話します』
「………」
『悪い話じゃないよ? むしろ、いい話』
明るい言い方に、確かにそうなんだろうとは思う。
思うけれど。
諸岡さんが言い淀む理由は?
『電話で話すことじゃないって、僕は思うんだけど。どうする?』
「……諸岡さんがそう言うなら。明後日…聞きます」
『はい。それじゃ、明後日、お話します』
それから先は、諸岡さんの声は、明るくて。
明後日の約束を、もう一度確認してから、通話を切った。
それから、視線を上げて。
カレンダーを、瞳に映す。
明後日。
何が待っているんだろう?
落ち着かなくて、仕方がなくて。
それでも、手元にあるもので、明後日、持っていくもの。
それを選別しようと、立ち上がった。
インタビュー中も、諸岡さんからの電話が気になって。
仕方が…なくて。
ほとんど上の空で、受けていた。
向こうもそれに気づいて、微苦笑を零していたけど。
まぁ…、どうせ。
向こうが書きたいことを書くんだろうから、かまわないか。
なんて思いつつ、早く終わることを願ってた。
そして、終わってから。
スタジオでやっていたから、やっぱり――と、雑誌に載せるとかで、何枚か、写真を撮られて。
解放されたのは、一時、少し前。
昼食もそこそこに、そこを出ようとしたら、マネージャーに呼び止められた。
もう一本、仕事を入れた。
そんな風に。
肩を落として、インタビューを受けて。
その時は、受けながら写真を撮られたから、三十分ぐらいで終わった。
そして、逃げ出す用意が万全になって。
車に乗り込んだのは、打ち合わせが終わった、二時前。
諸岡さんに、これから行くことを短く伝えて。
息を吐く。
仕事が終わってから、すぐに行けるようにと。
家から出る時に、言われたものを、車に積み込んでいた。
それがあることを確認して。
俺はエンジンをかけた。
何を――言われるんだろう?
考えて。
だめだったってことは、たぶん、ないと思う。
諸岡さんの声は、決して、暗くはなかったし。
無理して明るくしているようなものでもなかったと思う。
だから、大丈夫だと、自分に言い聞かせてた。
そうして、見て覚えた道の上を、走らせて。
何度も信号に引っかかって。
イライラしながら、とあるビルの、地下の駐車場に、滑り込む。
空いていたスペースに、車を停めて。
後ろの席に置いていたバッグを手にして、エレベーターへと、歩を進めた。
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