ゆっくりとでも
距離は縮まっていると思いたい

俺が望む方向へ
彼女も向いていると 思いたい

歩んでいなくても
そっちに行きたいと
そう思っていると 信じたい




Truth 〜 devotion 〜





「…食べました」
月宮がそう言葉を発したのは、彼女が洗い物を終えた時で。
彼女と俺が使っていた食器を、洗い終えた時で。
俺は、彼女に促されて、顔を洗っていたのだけれど。
その言葉に、洗面所から、顔を出す。
言ったあと、月宮は。
座ったままで、後ろへと身体を倒して。
「おなかいっぱーい!」
と、まるで八つ当たりでもするかのように、声を張り上げてた。
こたつの上の、食器の上には。
確かに、何も食べ物は残っていなくて。
「……食べられるじゃん」
それを見て、彼女はそう、ポツリと零してた。
それに、月宮はわずかに身体を起こして。
「文句は!?」
「もうちょっと早く、食べられるようになりましょう」
「無理ー!」
言いながら、またぱたっと寝転んで。
彼女に、「用意しなくていいの?」なんて、促されてた。
確かに、朝は逆。
動かない月宮を、彼女が動くように急かしてる。
思いながら、洗面所へと戻って。
俺は鏡を覗き込んだ。
『本当』が。
彼女の『本当』が、どこにあるのか。
それを、俺は考え続けてた。
今の。
この時間の彼女が、『本当』なのか。
それとも。
子供ような表情をして話す彼女の方が、『本当』なのか。
それとも、どちらもが、彼女の『本当』なのか。
どちらもが――違うのか。
考え続けて。
わからなくて。
一つ、息を吐く。
それから、洗面台の縁に、両手を突いた。
いつかは――きっと。
俺は、見ているのだと思う。
高校の、三年間で。
彼女の『本当』に、俺は。
触れているのだとは。
ただそれが。
どれかと聞かれると、わからなくなる。
多く接したのは、子供のような彼女。
ただそれが、『本当』かと聞かれると、わからないから。
長く深く、息を吐いて、身体を起こす。
そしてそこから、足を踏み出した。

リビングに戻ると、月宮の姿はなくて。
彼女はまた、キッチンで食器を洗っていた。
無言で。
かと思うと、小さく、鼻歌が聞こえてきて。
けれど。
「あ、葉月くん」
そう、俺の名前を呼んでくれた。
身体はシンクに向いたままだったけれど。
手を動かしながらだけれど。
俺の方に、顔だけで振り向いて。
「服、どうする?」
「?」
「その服、昨日一日着てたんでしょう? プラス、それで寝たわけだし…」
「…ああ」
「尽のでよければ、あるけど…どうする?」
俯いて考えていれば。
終わったのか、カチャリと食器を置く音がして。
俺は顔を上げる。
水が止まって。
彼女が水で濡れた手を拭いて、向きを変えて。
俺の方を、見てくれて。
答えを促すように、首を傾げた。
まるで――子供のように。
目を少しだけ、見開いて。
「まぁ、雪、もうやんでるし。歩くのに困難なくらいで、帰れると言えば、帰れるけど」
「………」
「僕と遊んでくれる気があると言ってくれるなら、服をまず、どうにかしないとね」
「……ああ」
「で?」
「尽の…って?」
彼女は俺と、まだ過ごす気があるらしい。
それが、嬉しかったから。
彼女の言葉に、従ってみれば。
彼女は二度、瞬きをして。
それから。
「ちょっと待ってて。持ってきてあげる」
そう言いながら、洗面所の方へと、足を運んだ。
「時々さ、尽が泊まりに来ることがあって。それでなくても、服買い過ぎたーって、こっちに持ってくるんだよね」
「へぇー…」
「だから、洋服多いんだ。好みの方は、大丈夫だと思うよ。あの子の目標は君だから。君が着てて、カッコイイって思ったものは、買ってるみたいだし」
「………」
「あとはサイズか。大丈夫でありますように! っと」
腕に抱えて、彼女は出てきて。
そのまままっすぐ、キッチンのそばの、円形のテーブルの上に、それを並べはじめる。
けれど。
「……無理っぽい…ね?」
一つを、持って。
彼女は俺の背後に回って。
肩幅を合わせて、そう呟いた。
まぁ、そんな気はしていたのだけれど。
「純日本人と、混血の差?」
「…おまえな」
「それとも、年齢?」
「たぶん、それ」
「………」
「?」
「下着は? 新しいのあるし。もらってしまえ!」
そう言って、押し付けられたのは、確かに今、彼女が口にしたもので。
それに俺は、軽くどころか、本気で項垂れて。
「? どしたー?」
「…いや……」
男として、見られていないのかもしれない。
彼女の口から、ああやって、吐き出されたとしても。
そんな気がして、仕方なくなって。
それでも、受け取らないわけにもいかなくて――受け取るまで、彼女は俺の胸に押しつけ続けてるから――それを俺は彼女の手から受け取った。
「服……」
「ないのか? 大きいから、置いてったやつとか」
「………」
「? 玲?」
「僕が着てるやつでもいい?」
「………」
その言葉に固まっていれば。
「僕、かなり大きいの買っちゃって。セーターなんだけど。部屋着にしてるのがあるんだけどさ。それでよければ、貸してあげる」
そう、話が進んで。
「下は、尽が、でかいーって喚いてたのがあったから、それで。大きいっていうより、長いんだけどさ、丈が。直してもらうのは癪だったから、とか言って、直してもらわなかったら、案の定だったっていう、代物がねー…」
声を聞きながら、小さく息を吐く。
ここで、断ったとしても、彼女は必ず、理由を聞いてくるだろうし。
そして、その理由に、俺がうまく答えられるかと否。
どうするかと考えていれば。
「何やってんの?」
そんな言葉と共に、月宮が姿を現した。
もうすでに、準備はできているのかと思ったら。
「あ、洗面所、終わりました?」
そう、俺に聞いてきた。
「ああ」
「で? 玲は何やってんの?」
「葉月くんの、服を……」
「そんなの、コータので充分じゃん」
「………」
「あとは? って言うか、問題は?」
「ないです…」
彼女はしゅんとして。
肩を落としているようで。
月宮は、そんな彼女の放って、部屋へと戻っていく。
俺は正直、助かったとか思いながら。
広げたものを片付けはじめた彼女を、手伝ってた。

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