| 悩みは 尽きはしない どうすることが正しいのか
俺には わからないから
間違えたら
そこで終わりにはならないと
そう……信じたいけれど
けれど きっと
本格的に 間違えたら
そこですべては
終わりを 迎えるのだろうから
迎えてしまうの
だろうから
だから俺は
考え続けてる
Truth 〜 variously 〜
目の前が明るくなって。
それに気づいた瞬間。
俺はゆっくりと、瞼を上げた。
カーテンの向こうから注がれる光は、部屋の中を満たしていて。
朝が来たことを、俺に教えていて。
それが同時に、俺がぼんやりとでも、眠っていたことを、知らせていた。
それを受け入れるのに、数瞬を要して。
俺は一つ、あくびを零す。
眠れた。
そのことに、驚いて。
けれど、どこか、当たり前のようにも、思えて。
俺は、痛みを発する首を、押さえた。
彼女の言葉を、ドア越しに聞いて。
月宮の言葉も、同時に噛み砕いて。
そして、考えて。
そうやって出した答えは、答えでも何でもなくて。
彼女が好きだという。
その想いを、再確認するだけのものでしかなくて。
俺はのろのろと、立ち上がる。
何をどうすればいいかなんて、わからないままで。
ただ俺は。
彼女の本心を、引き出したいという、それだけで。
俺の想いを、届けたいという――それだけで。
とりあえず。
昨日のあれで、俺がまだ、彼女のことを好きなのだということは。
彼女自身も、わかったとは思うから。
あとはもう。
彼女が逃げられないような、そんな状況下で、俺の想いを、ぶつけるだけ。
きちんと、言葉で。
届けるだけ。
逃げられなければ、彼女もまた。
きちんとした答えを、俺に、くれるだろうから。
だから。
そのタイミングを、間違わなければいいだけのこと。
それだけを決めて。
とりあえず、顔を洗ってこようと。
俺は目の前のドアを開けた。
「…にゃー」
今日、一番最初に聞いた声は、そんな声で。
不機嫌なのが、よくわかる、声で。
姫は俺に、一瞥を投げたあと、ふいっと、顔を逸らした。
まぁ、そうだろうな。
考えながら、後頭部を掻く。
彼女は俺に、背を向けたまま。
一点に、視線を集中させていた。
けれど。
「おはよう」
「……ああ。おはよう」
投げられた挨拶に、俺は答えるのが一瞬、遅くなって。
そして、第一声は、やはり、寝起きそのままの声になってしまって。
それでも、彼女は振り返らなかったから。
俺は小さく、息を吐いて。
真っ直ぐに、洗面所へと歩いていく。
入って。
扉を閉めずに、電気を点けて。
蛇口をひねって、水を出す。
それに触れて。
冷たさに、はっきりと目は覚めた。
顔を洗うと決めて出てきたけれど。
少しだけ、嫌になったりもしていて。
それでも、一度だけ。
そう決めて、両手に水をため込んでいく。
思い切って、それを顔に付ければ。
冷たさに、身震いしてた。
水を止めて、タオルで拭き取って。
顔を上げれば。
鏡に映っていた顔は、いつもと変わりはなかった。
今日、何か変わるだろうか?
彼女は、三原が答えをくれると、言っていたけれど。
それにきちんと、向き合うんだろうか?
もし、そうなら。
俺がしてやれることは、何なんだろう?
考えても、わからなくて。
俺は電気を消して、そこから出る。
彼女を見れば、肩の上の姫と、遊び続けていて。
それでも、手を上げないところからすると、べつのことに、意識を傾けているのかもしれない。
考えて、歩を進める。
と、彼女に前足で触れていた姫が、俺を見て。
立ち上がる体勢を取った。
けれど、俺は特に、そのことに触れずに。
「何、やってるんだ?」
そう、問いを発した。
もちろん、彼女に向けて。
それにも、彼女は顔を見せてはくれなくて。
「知ってる?」
「何を?」
「コーンスープってね、沸騰すると、泡がものすごく大きくなって、溢れちゃうの」
「……そうなのか?」
「うん。家で一回やっちゃってね、怒られたことがあるんだ」
彼女の手が動く。
コンロの、そのスイッチのところに触れて。
けれど、火は消さないまま。
「そんなに?」
「すごいんだから。一気に膨れ上がるの。で、それをしないために、警戒してるんです」
ゆっくりと、彼女の手が動いて。
けれどそれは、火を細めただけで。
消すことは、しなくて。
俺はそれを、見ていたのだけれど。
痛いくらいの視線に、瞳を動かせば。
姫はあからさまに、視線を逸らしてくれる。
目を細めれば。
「終了」
そんな声が、聞こえた。
用意していたらしいカップを、手前に引き寄せて。
それから、鍋を持ち上げた彼女は。
嬉しそうに笑っていた。
視線の先を見れば、猫柄のカップがあって。
彼女の肩の上を見れば。
その猫は、ひどく、そこにいた猫と、似ていた。
「スープのカップ、どっちがいい?」
問いに、彼女を視界に収める。
どっち、ということは。
白いカップと、黄色いカップ。
そのどちらかってことだろう。
猫柄の、少し小さ目のものは、彼女のもの。
だからたぶん、それを言ったとしても。
彼女は、譲らないだろうと思う。
「…どっちがおまえの?」
「黄色い方」
「じゃあ、そっち」
「……わかった」
彼女が普段、使っているものの方がいい。
そう思ったから、そう聞いただけ。
確かに、彼女の性格からすると、白は選ばないだろう。
「どこがいいかな? こんなのの」
急な問いに、俺は眉根を寄せる。
それにどう答えれば、正しいのか。
そんなことは、わからないから。
「おまえがおまえだから」
そう、答えてみた。
たぶん、正しく言えば。
彼女の問いは、『田端玲のどこがいいか』と言うことだと思ったから。
「…答えになってないと思う」
「それ以外に、答えようがない」
少しだけ。
本当に少しだけ、声に怒りを込めれば。
彼女は小さく、息を吐いたようだった。
それから、空の鍋を置いて。
代わりに、白と黄色。
二つのカップを持って、振り返る。
「持っていって。暇でしょ?」
「………」
言われて。
嫌だとは、言えなくて。
俺は二つを、彼女の手から受け取って、踵を消す。
月宮は、まだ起きないのか。
ぼんやりと思いながら。
すでに、食事の用意が終わっているテーブル――というか、こたつ――の上に、カップを置いた。
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