彼女の心を読み解くのは
本当に 大変でその手がかりでさえ
本当に 少なくて
それでも俺は
彼女のことを
きちんと
知っておきたい
わかって――やりたい
Truth 〜 suspect 〜
壁にかけられている時計の秒針が。
カチカチと、音を立て続けている。
眠りはしないけれど、光が漏れていたら。
彼女は気にするかもしれない。
そう思って、俺は少しだけ腰を浮かせて。
手を伸ばして。
電気のスイッチを、逆の方向へと寝かせた。
それからまた、腰を落ち着かせて。
俺は思考を働かせていく。
今の彼女は、高校の時と、あまり変わっていないように思えるけれど。
それでも、何かは変わっていて。
その何かが、俺にはわからないままで。
小さく、息を吐いた。
手がかりとなるものは。
彼女から。
今の彼女から見せられたのは。
短い――話ばかり。
彼女自身の言葉で綴られたもの、ばかりで。
「………」
思い出して、俺は手を見る。
開いた、その手のひら。
一回目は確か、女の子と母親の話。
赤いかさとか、雨とか。
手……とか。
考えて。
じっと、暗闇の中、手のひらを見つめたまま、考えて。
思い出したのは、やたら、腕を組みたがっていた、高校の時の彼女。
誰かに触れたくて、仕方がなかったのか、何なのか。
考えて。
あの女の子は。
彼女自身…なのかもしれない。
二回目は。
コオロギ…とか。
虫たちの演奏会。
その中で、彼女自身を綴っているのは。
考えて。
思い出して。
不安になっていた、妹に、思い当たる。
初めての場所で。
ひとりにされると、怖くて。
知っている人間のそばに、彼女はずっと、いたから。
それでも、合わないと思ったら。
彼女は首を横へと振っていた。
嫌だと、遠慮がちに言ったり。
聞いてくれない相手には、きちんと、届けて。
それでも、嫌われるのを怖がって。
けれど、一人になると。
必死に、周りを見極めて、必要な人間を、探し出していた。
それが、三回目の、白い猫と重なって。
「…『絵』は?」
考えて。
わからなくなる。
可能性があるとすれば。
主人公の方の。
たくさんの色で描かれた絵の方なのだけれど。
あれは…何が言いたいんだ?
考えて。
考え続けて。
そしてやっぱり……わからなくて。
一つ、息を吐く。
たくさんの、短い話。
その中に出てくる、登場人物達。
主人公に脚光が浴びてしまう中。
彼女が書きたいのは、きっと。
主人公達の言葉もそうだけれど。
その主人公達の周りにいる人物の言葉も、大事なのだと。
それだとは思うのだけれど。
それよりも何よりも。
彼女は自分に、気づいてほしいのかもしれない。
だから。
四回目の、『絵』の中の。
そこに隠されている、彼女自身の言葉に、気づかなければならない。
言葉を綴っているのは、『絵』。
たくさんの色で描かれた、『絵』。
それが羨ましいと思っているのは、真向かいの『絵』。
一色で描かれた、青い空。
彼女が主人公だとしたら。
彼女が羨ましいと言っているのは。
誰の、どの部分…なのだろう?
そして彼女は。
自分のどこを、汚いと思っているのだろう?
考えて。
やっぱり、わからなくて。
天井を見上げてから、瞼を閉じた。
俺が知っている限り。
彼女が綺麗だと言った、人間は。
俺、だけ。
中身が綺麗だと、彼女は言っていた。
だとしたら。
俺だと…したら。
彼女の中身は、汚いということになる。
彼女が言う中身は、心。
けれど俺は、そう思わない。
俺の心が綺麗だとか。
彼女の心が、汚いだとか。
そうは、思わない。
俺はつまらない人間で。
彼女は逆の、人間だとは思う。
彼女といると、楽しいし。
みんなが、笑顔になる。
だから、俺とは違う。
そう思うけれど。
自分の心が汚いとか。
そう思ったことはない。
それに。
俺のことを綺麗だと言ってはいても。
彼女自身。
自分のことを、汚いと言っていたことは、ないと思う。
けれど、俺が知っているのは、高校の時。
卒業してからは、わからない。
だから、彼女が綺麗だと思っているのは、俺のことじゃないかもしれなくて。
汚いと思っているのも、心ではないかもしれなくて。
「推測だけで、考えるものじゃないな…」
呟いて、瞼を上げる。
耳に届くのは、秒針の音。
テレビは消したのか、声も音楽も、なくなって。
彼女がキーボードを叩く音が。
かすかに、秒針の合間に、聞こえるようになっていた。
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