怖がらなくてもいいと
手を差し伸べたのは 中学の時あの子のいない教会から
歩き出して
そうして 出会ったのは
傷ついた 子猫
散々威嚇してたけど
去らない俺に それをやめて
傷の手当てをさせてくれた
けれど 今
目の前にいる子猫は
傷ついているわけでも
威嚇をしているわけでもなくて
ただただじっと
俺を見てるだけ
だからこそ
俺はどうすればいいのか
わからないまま
Truth 〜 whirlpool 〜
追い出されて。
俺は彼女の部屋へと、半ば無理矢理のように、入れられて。
それから小さく、笑みを零した。
そう言えば、ぬいぐるみ、好きだったもんな。
――高校の時。
少し大き目のそれを抱き締めて。
微笑っていた姿を、思い出す。
そうして、一つを手にして。
俺はまた、笑った。
いつだったか、ほしいとわめいていたものと、そっくりだ。
思い出して。
「本当にほしかったんだな…」
呟いて、手にしていたそれを、元の位置へと戻した。
いくつか並んでいるそれらから視線を外せば。
背後の扉の向こうからは。
うー、なんて、唸る声。
行きづまっているのか、それともべつの理由なのか。
それはわからなかったけれど。
俺はもう、この扉を開けることは、できなくて。
小さく、息を吐いた。
どうでもいいけれど。
この部屋……。
「柑橘系…?」
甘いけれど、どこか酸味を思わせる香りに、眉根を寄せる。
高校の時。
彼女は、香炉を持っていたから。
たぶん、それ。
それに。
みかんだとか、レモンだとか。
そういうものが好きだったから。
たぶん…それ。
考えながら、元を探せば。
窓際の隅。
カーテンの端を上げれば。
いつか見たものが、置いてあって。
そばには、小瓶。
上に置いてある皿には、わずかに液が残っていて。
小瓶を手に取って見れば。
そこには、グレープフルーツ、なんて…書いてあった。
ああ、なるほどな。
なんて思う。
高校時代。
食べることはなかったけれど。
何度も手に取ったのは、見たことがある。
一個食べるのは、嫌だったのかもしれない。
思い出して、小瓶を置いて。
カーテンから、手を離した。
振り返れば、そこは彼女の好きなものであふれていて。
壁に張られているのは、子猫のポスター。
あと、花と。
風景画。
ベッドのそば――俺が今、立っている場所の、真横――に置かれている棚には、本が、ぎっしりとつまっていて。
けれどそれが、資料なのか、それとも趣味で集めたのかはわからなかった。
小説とか、マンガとか。
そういうのが、多かったから。
考えて。
それから、どうしようかと、べつのことを考え出す。
扉のそばへと戻って。
そこに背を向けて、腰かければ。
ここにいるのが、一番いいような気がして。
肩を下ろした。
ベッドで眠るのは、勘弁してほしい。
そう思えば、ここでもいいか、なんて考えてしまうのは、仕方のないことかもしれなくて。
彼女がストーブをこっちに持ってきてくれたから。
寒いってことは、ないから。
ふとんを使うことも、ないだろうし。
やっぱり、ここでいいか。
思ったけれど。
まだ、眠る気にはなれなくて。
それはもしかしたら。
彼女がまだ、起きているからかもしれない。
扉に、こつんと頭を預けて。
真っ白な天井を見上げる。
スケッチブックは、バッグの中に入っているけれど。
開けて、描きはじめたら。
きっと、彼女をイメージしたものばかりになりそうで。
怖くて。
――それでもいいかと思う心も、あることにはあるけれど。
ただでさえ。
今。
彼女への想いに関連したものばかり、描いてしまっているのだから。
それはちょっと、避けたい。
目を閉じて、耳を澄ませる。
雪が降る音は、静かで、聞こえなくて。
扉を通して聞こえるのは。
彼女が見ているらしい、テレビの音と。
キーボードを叩く音。
時々、ふっと漏れる、失笑は。
姫がそばにいるからかもしれなくて。
手を差し伸べても、取ってくれない相手には。
俺は、何をどうすればいいんだろう?
なんて。
考えはじめていた。
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