| 信じたいのなら
信じればいい 俺は与えてやれるから
信じること
させて やれるから
俺のそばに
いればいい
Truth 〜 persistence
〜
扉を開けて出てきた彼女は。
それに瞳を向けていた俺達に、不思議そうに、首を傾げて見せてくれて。
「やっぱりもう一回入る? 葉月くん。温かくて、気持ちよかったよ?」
なんて、そのあとで言ってくれたけど。
俺は即、断った。
それからすぐに、月宮が腰を上げて。
彼女が出てきた場所へと、消えていく。
それを見止めたあとで、俺は彼女のそばへと行くために、立ち上がった。
冷蔵庫を開けて、飲み物を出して。
そうしている彼女に、近寄って。
「玲」
声をかければ。
彼女は、濡れた髪が気になるのか。
首に巻いていたタオルで、髪を拭き始めていたのだけれど。
俺の声に、その手を止めて、振り返ってくれた。
――彼女に必要なのは、俺だと。
彼女の親友は、教えてくれた。
だからというわけではないけれど。
俺にも、彼女は必要で。
彼女のことを、知りたいと願うから。
そばにいてほしいと、願うから。
「…悪かった」
届ければ、彼女はすぐに、何のことか、わかってくれて。
いつか見たような笑みを、浮かべていた。
「いいよ、別に。気にしないで」
「でも……」
「平気。今は、全然平気だから」
突き放され方も、同じで。
でも、なかったことには、したくなかったし。
してほしく、なかったから。
ひらひらと振られた手を。
俺はとっさのように、つかんで。
「聞け」
彼女が何かを言う前に。
俺は言葉を発していく。
「月宮から、話は聞いた」
「…うん」
「俺のことも…信じられないか?」
聞けば、彼女は信じられないとは言わないだろうことは、わかっていた。
…から。
黙って首を振った彼女に、俺はどう言ったらいいのかは、わからなくて。
それでも。
「じゃぁ……」
上辺だけでも、信じてくれて、いるのなら。
そう紡ごうとした俺の言葉は。
「信用、は…してる」
彼女がそう発したことで、形を潜めた。
「信用?」
「信じて、利用する」
「………」
「麻衣のことも、そう。利用してるの。僕が…一人にならないために」
最低でしょ?
綴った彼女は、どこか苦しそうで。
後頭部を掻いた、その手は。
本当は、胸に押し当てたかったんじゃないかって。
そう思ったぐらい。
「迷惑掛けます、なんて言っておきながら……頼ったことは一度もないの。やってくれると嬉しいな、って……いつも…僕は下手に出てる」
確かに、なんて思い出したのは、高校の時のこと。
俺には、そう言うことは、少なかったけれど。
藤井とか、紺野とか。
守村とか、姫条とか。
そういうやつらには、確かに言ってた。
「無理だろうなって思うことは、全然言ってないの。無理だろうなって思ったら、自分でどうにかしてた。僕が我慢すれば、みんな…そばにいてくれるし」
「……玲」
「わがままは言うよ? でも、無理って言われたら、それ以上、無理強いはしなかった。無理を申し出てくれたとしても、お願いしてもいい?
って聞いて、そのあと、必ず……無理ならいいよって」
小さくなりながらも、彼女はしっかりと、言葉を綴って。
それから、顔を俯かせる。
目を細めて。
抱き締めたい衝動を、押え込んで。
彼女を見続けていた。
だからすぐに、手に力が加わったのにも、気づけて。
これ以上は、踏み込めない。
踏み込んだなら、泣かせてしまう結果になることは、必至。
彼女が俺にまだ、その涙を、見せたくないと、言うのなら。
それ――なら。
彼女の手を放して。
俺は、彼女が首から下げているタオルの端を、彼女の目元に、押し当てる。
まだ、本質に、触れてほしくないと、言うのなら。
「無理、するなよ」
届ければ、彼女は自分の指で、それを目元に当てて。
小さく、頷いたようだった。
それが、嬉しくて。
まだ。
まだ…話してくれなくていい。
話したいと思った時に、話してくれればいいから。
思いながら。
彼女の指先を、掠めて。
俺は、彼女の頭を、ポンッと、軽く叩いた。
それから、月宮が出てきて。
三人で、話をして。
けれどそれは、月宮があくびを零したことで、終わりを告げた。
「眠くなったから寝るー」
言い残して。
それまで飲んでいたコーヒーのカップをそのままにして。
立ち上がって。
「おやすみー」
早々に背を向けて、部屋へと行ってしまって。
バタンと閉まった扉に、ため息を吐いたのは、彼女の方。
けれど。
「葉月くんも寝る?」
なんて、あっさりとそれを、なかったかのようにして、聞いてきて。
「もう12時過ぎちゃったし」
落とされた言葉に、時計に目を向ければ。
確かにもう、俺がここに来たのが、昨日になっていて。
そんなことを思っていると、彼女は立ち上がって。
月宮が使っていたカップを、手にして。
キッチンへと、歩いていって。
「いいのか?」
「何がー?」
「部屋……」
「うん。勝手に使って? てか、僕もほとんどと言っていいほど、使ってないし」
使ってない?
眉根を寄せれば。
彼女はすぐに、戻ってきた。
「僕の生活の場は、ここだからさ。あんまり、部屋に行かないんだよね。行ったら、出てこないから。だから麻衣に、仕事はここでしなさいって、言われてるの。どうしても篭らなきゃならない時は、先に言ってって」
「へぇー…」
それも、月宮が彼女のことを心配しているということに繋がるから。
俺はふっと、笑みを浮かべる。
とは言っても。
ほとんど使ってないとは言っても。
彼女が寝ている場所であることは、変わりはなくて。
「とにかくさ、ここにいられると、というか、君が起きてると、僕は何も出来ないのですよ」
「……」
「おわかり?」
ここで頷いたら、俺は動かなければ、ならなくて。
それでも、頷かなくても。
俺はここから動かなくてはならないことは、明確で。
「はい、立って立って」
急かされて。
やっぱり、立ち上がらなくちゃ、いけなくて。
緩慢な動作で、身体を引いて、腰を上げれば。
目の前に置いていたカップは、姿を消した。
探せばそれは、彼女の手の中にあって。
キッチンへと歩いていった彼女は。
それを軽く、洗っていて。
「玲」
「んー?」
「明日…どうするんだ?」
「? ああ、三原くんの個展?」
振り返った彼女に、頷くことで届ければ。
彼女の視線は、また、流れ出る水へと、注がれてしまう。
「多分、行くとは思うんだけどね?」
「?」
「雪は、ちょっとねー」
苦笑。
それが混じっているのがわかって。
俺は小さく、息を吐いた。
彼女らしい、理由。
「まぁでも、行きますよ。二人に会いたいし。絵も見たいし」
「そうか」
紡いで。
これ以上ここにいるのも、本当に悪い気がして。
俺は、踵を返した。
おやすみ、と声をかければ。
同じ言葉が、返ってきて。
視界の端で、姫がこたつから顔を出したのが見えた。
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