偽ることが 悪いことだとは言わない

理由が理由なら
仕方がないと 思えるから

けれど
俺の前では――と 願うのは

悪いこと なんだろうか?




Truth 〜 roundabout 〜





どうでもいいなんて思っていながらも。
やっぱり気になって、どうしようもなくて。
俺は少し、こたつの上かけを上げて、中を見る。
と。
「大丈夫ですよ。姫、ここにいるんで」
そう、声がかかった。
顔を上げれば、月宮がそばの一角を指差していて。
それを追いかけて、中を見れば。
確かにそこには、姫がいて。
大きなあくびを漏らしていた。
ふっと息だけで笑って、姿勢を正す。
しっかりとかけて、手を落ち着ければ。
月宮が頬杖を解いた。
理由は、彼女が腰に、手を当てたから。
「和風きのこスパゲティーと、ポテトサラダ! これでどうだ!」
どうだ?
思って、眉根を寄せれば。
「いいから、早く作れ」
そう、そばから声。
顔を向ければ、台に直接、月宮はあごを付けていた。
同時に。
「命令すんな!」
なんて、彼女から聞こえて。
この二人は、こういう関係なのかもしれない。
そう…思う。
高校の時。
彼女は俺を、親友の代わりにしていたから。
だから。
月宮は、俺に近い存在。
考えながら、立ち上がる。
俺は…客だし。
そうすることが、一番自然だと思えたから。
それに。
見ているだけなのは、何となく……嫌だった。
忙しなく動きはじめた背中に近寄って。
「手伝う」
そう、声をかける。
と、彼女はすぐに振り返って。
少しだけ、苦笑を零した。
それから、俺に手を伸ばして。
腕を取って。
もう片手は、俺の身体を逆方向にわずかに向けてから、背中に当てられて。
それが力を持って。
俺の身体を、反転させた。
「いいよ。君はお客様だし」
背中に。
直接、背中に。
彼女の声が注がれる。
「でも」
「いいの! 普通は手伝うって言わなくちゃいけないの、麻衣の方なんだから」
「私、料理は全然出来ません」
「覚えなさい! お嫁に行けなくなるよ?」
「大丈夫。コータは料理、得意だから」
「……こいつは」
「コータ?」
俺を放って会話を始めた二人に。
俺は、どうしてもわからなかったことだけを聞くために。
ほんの少しだけ、彼女の方を振り返って、口にすれば。
彼女の手が、わずかに緩んだ。
「光太さんっていうのは、麻衣の彼氏。僕らよりも一コ上。もともとね、麻衣が結婚する前に、料理を覚えたいからって言ったのが、一緒に住み出した理由…だったんだけどね」
「…でも……」
「そ、全然やらないんだ、こいつは」
「だって、玲のご飯、おいしいし」
答えに、こたつの方を見る。
こたつの上に、オレンジ色の果物を置いて。
月宮はそれに、爪を立てていた。
服が少しだけ引っ張られて。
視線を下に向ければ。
彼女が俺の影から、顔を出していた。
「少しは覚えようって思わないのか?」
「思う。思うけど…わかんないんだもん」
「ノート買ってきて、レシピを書いて。僕がいない時に作ってみるとか」
「一回やった。玲が作ってくれた通りにはならなかった」
「だから諦めたって?」
「そう。出来る人間と出来ない人間がいるんだよ、きっと」
「努力って言葉を知らない?」
「知ってるけど、しても無理な人間なのだよ、私は」
「………」
そこで、ほんの少しのインターバル。
服をつかんでいた手に、力がこもったのがわかった。
「光太さん、麻衣のこと甘やかし過ぎ……」
「愛されてるからv」
「はいはい。よかったねー」
怒ったように言った彼女に、目を細める。
彼氏がほしいと、彼女は諸岡さんに言っていたから。
今のセリフはきっと。
月宮をうらやんでのこと。
服の引っ張りがなくなって。
俺はまた、彼女に向き直ることができて。
その手をつかんだ。
「何?」
「手伝う」
「別にいいよ。大丈夫」
「………」
「というか、簡単だから必要ない。ジャガイモ茹でてる間に、野菜刻んで。茹で上がったら、皮剥いて…そしたら手伝ってって言う。崩して、マヨネーズで和えてもらいたいから」
ね?
見上げられて。
その笑みに、少し違和感を覚えて。
手を、離せなくて。
「コタツ入ってて。寒いしさ」
「………」
「ね?」
目を細めて。
彼女の笑みを見続ける。
それが少しずつ、強張ってきているように思うのは。
きっと……気のせいではないと思う。
できることなら――。
そう、考えはじめた時。
「玲ー、テレビ見ていい?」
この場にはもう一人いたのだということを知らせる声が、背中に届けられて。
俺はつい、彼女の手を離してた。
彼女はそれに構わずに、項垂れて。
「どうぞ。勝手に見てください」
そう、綴る。
彼女の中で、俺がどの位置にいるのかなんて。
そんなこと、わかり切っていたけれど。
それでも、俺は、彼女の『本当』の部分に、触れたくて。
でも今は、そうすることが、できなくて。
俺は月宮のいる、こたつの方へと、踵を返すことしか、できなかった。

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