守ってやりたいって
漠然と
そう思ってたけど 何からなんて そんなこと
わからなくて
おまえの声
俺はちゃんと 聞いてやれてるのか?
Truth 〜 ignition 〜
雨が窓を打ちつける音の合間に鳴る、その轟音に。
俺は顔を上げて、小さく息を吐いた。
近くなってるな。
思って。
でも、どうすることもできなくて。
窓の外の空の、その光を見てから。
俺は本の上へと、視線を戻す。
宿題はもう、終わってしまったし。
けど、何となく、スケッチブックに向かう気にも、なれなくて。
彼女が勧めてくれた小説に、目を通していた。
本屋に行く度に、彼女がうるさく言っていたから。
手に取って、勧めてくれたから。
気になって、仕方がなかったっていうのが、本当のところだけれど。
こういうのが好きなのか。
ぼんやりと、そう思う。
同時に、外で大きな音が響いて。
俺はまた、息を吐き出した。
集中力が途切れる…。
思いつつ、また文字を追いかければ。
ぴんぽーん……
ゆっくりと、チャイムが家の中で、反響した。
誰だ? こんな日に。
考えて、本をテーブルの上へと置く。
腰を上げて。
リビングから出ようと、歩き出せば。
ピンポンピンポンピンポンピンポン……
チャイムは激しくなって。
「…いたずらか?」
そう、呟いてしまうほど。
それでも、何もこんな、雨と雷が降る日に、そんなことをするやつもいないだろうと。
俺は玄関まで、歩を進める。
チャイムが鳴り響く中。
くつを引っかけて、玄関の鍵を開けて。
ノブを回して。
「…は……」
「早く出てよ! もっと!」
持っていかれたドアと、その声に。
俺は驚いていたのだけれど。
無理矢理のように、俺を退けて、中へと入った、その姿に。
眉根を、思い切り寄せた。
まだ何も言ってない。
思いつつ、ドアを閉めて、鍵も閉めて。
――考えなかったわけじゃない。
それでも、こんな日にはありえないと、思っただけ。
けれど、俺が考えた姿は、ここにあって。
目の前にあって。
俺は小さく、息を吐く。
彼女が着ていた合羽に、手をかけた瞬間。
その音は、上から降ってきた。
途端。
「ニャー!」
「………」
同じぐらいの大きさで、そばからそう、悲鳴…なのか、何なのか、よくわからないものが上がった。
何だ?
彼女を見ていれば、その場で小さくなっていて。
耳を塞いで、そこにいて。
音が止んでから、立ち上がる。
「お邪魔しまーす」
………。
合羽を脱いで。
勝手に、玄関脇にかけて。
くつを脱いで、中へと入っていく彼女は。
俺に何の、説明もないまま。
それが気に食わなくて。
「…田端」
そう、名前を呼んだ。
……のに。
「いいじゃん。暇でしょ?」
「まぁ……」
「んじゃ、いいじゃん。ウチ、誰もいないからさ。つまんなくって。だから遊んでよ」
廊下を進みながら、彼女は首だけ回して、そう言って。
それに、呆れて、彼女から視線を外して、息を吐いた。
くつを脱いで。
上がって。
彼女のあとを追いかければ。
勝手に、リビング手前の部屋に入っていって。
その背中に、俺はまた、息を吐く。
「みーっけ。借りるよー」
聞こえた声に、部屋の出入り口に足をかければ。
彼女はタオルを手にして、髪を拭いていた。
確かに、前に俺がそこから出したところを、彼女は見ていたけれど。
覚えてたのか…。
小さく項垂れれば、彼女はまた、俺を退かして、廊下へと出た。
彼女が向かう場所は、たぶん。
俺の部屋。
階段を上がっていく、その後ろ姿を。
俺もまた、追いかけて。
部屋へと入れば、彼女はそこにいた。
ソファに座ろうか、どうしようか。
迷っているのか、俺を見て。
でも俺は、出入り口のそこから、動けないまま。
息を吐けば。
部屋の中に流れたのは、バイオリンで。
彼女が勝手にかけたことは、すぐにわかった。
彼女はタオルを頭の上に乗せたままで。
俺から、視線を逸らす。
「ウチ、今日、誰もいないのですよ」
何かと思えば、そう口を開いて。
「尽は昨日から、友達のとこに泊まりに行っちゃって。お母さんとお父さんも、昨日から二人だけの小旅行。なので、一人だったのです」
俺の方へと歩を進めながら、話し続けて。
部屋の真ん中で、足を止める。
「それで?」
「えーと…」
「………」
「あの……ね?」
「………」
どう言おうか考えているらしく。
彼女は迷いに迷ったのか、俺にちらりと、瞳を向けてくる。
けど、俺だって。
彼女がこういう性格だとわかってはいる、俺だって。
怒ってしまうのは、仕方のないことだと思う。
それがわかったのか、彼女は俺から瞳を逸らして。
渋面を作ってたけど。
小さく、息を吐き出して。
表情を変えた。
何となく――自嘲にも見える。
「最初に考えなきゃいけないのは、自分が今、何をしたいか、じゃない?」
「何が?」
すぐに問いで返せば。
彼女は少し、慌てたようで。
それでも。
「だからぁ。相手の都合とか、どうでもよくて。自分がどうしてもしたいことって、あったりしない?」
尻すぼみになりながら、彼女はそう綴って。
タオルを机の上へと、置いた。
そうした彼女を見続けていれば。
服の袖口を触って。
濡れていたことに、眉間に縦皺を刻んでから。
隅にあった小さなたんすを、勝手に開けてた。
タオルを引っ張り出して。
俺をちらりと見て。
怒る気には、なれなかったけど。
「いい」なんて言ってない、俺。
それだけは、視線で届け続けてた。
でも彼女は、取り出したタオルで拭いて。
けれど。
遠くで鳴り響いたものに、瞼をきつく下ろして。
耳を塞いでた。
それに俺は、目を見開く。
「おまえ、雷……」
「そう、ダメなの!」
彼女はビシッと俺へと指を突き出してくる。
それと同時に、音が大きく響いて。
彼女はその場に蹲った。
「……意外」
「別にいいけどー!」
大声を出して、音に負けないようにとしているのかもしれない。
それでも時折、「ひーん」なんて、声を上げて。
怖がっているのが、丸分かりで。
「で?」
「だから、何度も言ってるでしょ? ウチ、誰もいないの!」
「…だから?」
「怖いじゃん! たった一人で家の中!」
「………」
つまり、彼女がしたかったことは。
言いたかったことは。
俺の都合なんか、どうでもいいから、一人で家にいたくなかったってことで。
「怖くなかったのか? ここに来るまで」
「怖かったよ! そりゃ、ものすごく!」
「………」
「だから早く着かないかなって、ずっと思ってた」
「呼べばいいだろ?」
「…本当に来てくれるか、不安になっちゃって。なおさら怖いじゃん」
言葉にはぁーと長く息を吐く。
結局彼女は。
自分が動くことで、ひとりだというその事実から逃げ出したかったということになって。
でも。
真っ先に思い浮かべてくれた相手が俺だったことが、嬉しくて。
「怖がり」
「うっ…。別にいいもん」
彼女は床に座り込んで、ふいっと顔を、俺から逸らす。
頭から被っているタオルのせいで、彼女の表情はまったくと言っていいほど、見えなくて。
そう。
彼女が唯一、嫌いなもの。
それは今も、変わらないんだろうか?
考えて、車から降りる。
カーテンは閉めなくていいって、ずっと言ってたな、あいつ。
くすくすと笑いながら、ドアを閉めて。
歩を進める。
雷の大きな音は嫌いだけど。
光は綺麗だから、好きだ、とか言って。
ひとりにされるのが嫌で。
コーヒーを煎れに、キッチンまで降りた俺を追いかけて、降りてきて。
泣きそうな顔で、俺のあとをくっついてた。
どこにも行かないのに。
すぐに、戻るのに。
思い出して、笑みを零しながら、鍵を探してたけど。
思いついたことに、足を止めた。
俺の家から、彼女の家まで。
そんなに、遠くはない。
車で行くほどの距離ではないし。
たとえ、車で行ったとしても、駐車に困るし。
だから、歩きのがいいかもしれない。
考えて。
家の玄関に背を向けて。
アスファルトの上を、歩き出す。
相手の都合よりも、自分が何をしたいか。
そう言ったのは、彼女だから。
それを考えて、行動に移すのもありだと。
そう言ったのは、彼女だから。
だったら俺は。
彼女の都合なんかどうでもいいから。
彼女に会いたいという、それだけを考え続ける。
また前へと歩を進めながら、短く息を吐いて。
自然と浮かんだ微笑を、隠そうともせずに。
俺は、彼女の家への道を選んで、歩いてた。
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