もうちょっと早く、気づくべきだったかもしれない、なんて。
今更思っても、仕方ないってことぐらい……わかってる。
津
ちょっと…いや、かなり眠いかもしれない。
思いながらも、わたしはグラスを呷る。
負けたらダメ。
とにかく、負けられない。
そんな気持ちから、手を動かす。
それに、もうダメって思ったら、烏龍茶に手を出せばいいんだもん。
それで少しは、意識、浮上することを知っているから。
だってさ、元はと言えば、彼が悪いんだから。
いや――悪くはないけど。
飲めるのか? って聞かれたから、正直に頷いた。
結構強いんじゃない? って。
そうしたら、彼はにやりと笑ってきて。
誕生日にもらったらしいワインを持ち出してきた。
から、わたしだって、麻衣から送られてきた日本酒出して。
おつまみとか、簡単に作って、テーブルの上に乗せた。
この際だって考えて。
食器棚の奥の方に隠してた、ウィスキーとか、梅酒とか、焼酎とか、ウォッカとか。
関連性はお酒だけっていう飲み物を全部引っ張り出した。
だって、自分から振ってきたんだから、彼は強いんだろうって思ったし。
言っておくけど、わたし。
今まで酔ったっていう感覚、知らずに来たんだけど。
友達みんな、わたしに付いてきてはくれなくて。
途中で沈没されてきたから――そこまでっていうのを、実は知らない。
だから、彼となら、そこまでいけるかなって思ってた。
ひとりじゃつまらないし。
誰かと一緒じゃないと、面白くないし。
麻衣もね? 実は結構強かったんだけど。
やっぱり最後までは無理だった。
それでも、お酒は好きだし。
いいなぁーって思ったら、買ってきちゃってた。
いつか飲めればいいかなって、それぐらいしか、考えてなかったけど。
うにゃー…、でも何か、ものすごく眠いかもー……。
考えて、目元を指で擦りながら、ペットボトルへと手を伸ばす。
ほとんどの瓶を開けて。
わたしたちの周りには、それらが林立してて。
ある意味、片付けが大変そうだなーって。
やるのはきっとわたしなのに、他人事のように考えてた。
空のグラスへと注いで。
一口呷る。
と、隣りに座っていた彼が、わたしの肩に凭れ掛かってきた。
「けーいー、おもいー」
「………」
返答がなくて、わたしは少し、不審に思う。
顔を覗き込めば、彼は真っ青な顔してて。
「………」
一気に、酔いが覚めた。
「珪、立って!」
「……無理」
「ダメ。お風呂行って!」
立ち上がって、ふらつく身体をどうにか叱咤して、彼を立ち上がらせる。
「寄りかかっていいから」
届ければ、彼はわたしへと遠慮なく体重を預けてくる。
重いって思ったけど、仕方ないし。
倒れないように、慎重に。
それでも、出来るだけ早く。
彼を連れて、お風呂場へと行く。
吐くなら吐いちゃった方がいいから。
気まずいとかそういうこと、考えて欲しくないし。
水を抜いておいたバスタブに向きあわせて膝立ちにさせて。
わたしは彼の背をさする。
「平気?」
声を掛けたら、わずかに頷かれた。
から、わたしはシャワーを出して流していく。
まったく、無理しなくてもよかったのに。
無理に付き合ってもらったって、嬉しくないよ?
彼を支えて、また戻って。
顔色は悪いから、寝かせちゃった方がいいのかなって思った。
だから少し乱暴でも、ソファの上へと寝かせる。
ふぅと息を吐いて。
一瞬、頭の中が、クラッて揺れた。
から、足を一歩踏み出して、少しだけ、耐える。
「水とか飲む?」
視界が揺れたりして、どうしようもなかったけど。
とりあえず、そう聞いたわたしに、彼は小さく頷くことで答えてくれた。
服は汚れてないから、気持ち悪いってことは、もうないだろうと思う。
氷入れて、水を注いで。
彼のところへと戻ったんだけど。
……どうやって飲ませるの?
コップを片手に、しばし考える。
いつもなら。
無理にでも彼を起こして飲ませたんだろうけど。
その時のわたしには、そこまでは深く考えられなくて。
起きる様子のない彼を見て。
はっきり言って、このままって難しいよね?
思いながら、一口含んでた。
喉へと通したあとで、思いついたこと。
いいよね?
考えて、もう一口、口に含んだ。
彼のそばに膝立ちして。
唇合わせて、口移し…。
「………」
普段絶対やらないようなことをしたような気もするけど、彼は飲み込んでくれたみたいだから、よしとした。
しっかりとしているうちに、片付けを少しやっちゃおう。
立ち上がって、ゆっくりゆっくり、瓶を回収したり、ごみを捨てたり。
そうしながら、ほんの少し残ってたものを、全部飲み下して。
そんなことをやっていると、彼が身じろいだのがわかった。
少し苦しいのか、しきりに襟元を気にしていて。
広げた方がいいのかなー、とか考えて。
そばへと寄った。
珍しくボタンの付いた服を着ている彼の首元へと手を伸ばす。
一つ二つ、と外して。
わずかに見えたそれに、手が止まった。
「………?」
ああ、一昨日わたしが付けたやつか。
赤い印に、思い出して。
うーん、って考える。
アルコールが入った所為かは、よくわからないんだけど。
彼の鎖骨の辺りを指で少し、触れてみた。
綺麗な彼の姿は、寝ていても変わらない。
こんなのきっと、知っているのはわたしだけ。
そんな優越感に笑みを零した。
頬にキスを落とす。
わずかにグリーンの瞳を覗かせてくれた彼は。
「あきら?」
って、少し舌が回っていないらしかったけど、しっかりと紡いでくれて。
好きだなぁって、そう思う。
思ったら。
したく――なっちゃったわけで。
「けい」
あー、わたしも呂律回ってないやぁー。
とか、思ったけど。
とにかく、彼の胸に唇を寄せる。
彼はモデルだけど。
その前にデザイナー。
今は、そっちの仕事の方が、比重は重い。
だからきっと、少しぐらいは、平気。
ペロッて舌で舐めて。
同じ場所、きつく吸い上げて、痕を作って。
そうすると、彼がわたしの身体を自分の上へと移動させる。
彼の上にいるのは好き。
暖かいから。
頬を擦り寄せると、彼が上半身を起こしてきて。
足の間に座ってしまった形になったわたしは、少し不満を抱きながらも。
顔を上向けて。
キスを受け止めた。
「するんだろ?」
「するーv」
にっこりと笑顔で答えたら、彼も微笑を落としてくれて。
深い深いキスをくれた。

布団を少し持ち上げて。
何も纏っていない、自分の身体を見たあとで。
何でこんな格好しているんだろうって考えた。
そうやって考えたあとで、思い出しちゃいけなかったって、思い直した。
わたしが誘ったんだよねー?
あの状況は!!
一人で赤面して、混乱して。
布団を被る。
忘れていたなら、酔っていたから仕方ないって思われたのかもしれないけど。
全部覚えているから、とぼけることもきっと出来ないだろうと思う。
……って言うか。
そんなことより何よりも。
顔合わせづらいんですけどー!
ひーん、なんて、わずかに朝日が入ってくる布団の中で、思いっきり後悔してみる。
けど、『後悔』は『後で悔やむ』って書くのだから。
後悔したって、どうにもならない。
なかったことには、出来ないわけだし。
カチャッて音がして、彼が部屋に入ってきたことを知る。
それに、少しだけ布団を下げると。
彼の優しい瞳とぶつかった。
頭を撫でられて。
わたしは少し、瞼を閉じる。
「おつかれ」
なんて紡がれて。
わたしはまた、顔を赤くした。
含みがいろいろありそうで。
恥ずかしくて、どうしようもなくて。
「また……」
「もう飲まない!」
「………」
「珪とはもう、飲まないの! あんな恥ずかしいこと、したくないもん!」
叫んで、また布団を被った。
彼に対してやってしまったことは覚えてる。
覚えてるし、その感覚でさえ、思い出そうとすれば、思い出せる。
ただ、恥ずかしすぎて、やりたくもないけど。
ぽんぽんって叩かれて、彼が離れていく。
今日は彼は休み。
わたしだって、打ち合わせも何もないから、休み。
「珪」
布団を下げて、彼を呼び止めて。
離れていってなんて、欲しくなかったから、必死で。
「あの……」
「朝食、軽く作ってくる」
「……」
「呼びに来るから、着替えてろ」
「…うん!」
笑みに、子供っぽく答えて。
閉められずにおかれた扉に、安堵した。
彼の足音が遠ざかる。
その音を聞きながら、わたしはベッドから降りた。
END
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