もしも

誓いませんとかって言ったら
どうなっちゃうのかな?

でも
あなたが誓ってくれたから
わたしも誓わなきゃって 思ったけど

…いや あの
その前から 誓おうっていうのは 決めてたけどね?

じゃなきゃ 話は進まないし

終わったあとに さりげなく
親友にその話をしたら
思い切り 「バカ」って 言われたよ?

けど

あなたはわたしが守るって決めてたから

守ってあげるって 決めてたから

時と場合によって
臨機応変に
前とか後ろを歩くのも 許してほしい

そう――思ってたから

あなたに言われてた
「共に歩むことを〜」の辺りで

実は実は
考え込んじゃってたんだよね




もしも 〜 20130216 玲 2 〜





彼と手を繋いで、体育館に入る。
手袋に包まれたままだった手が、彼の手に包まれて。
出来ることなら、直に触れたいって思ったけど。
彼が取るなって、言ったから、取らなかった。
「玲ー!」
入った瞬間。
麻衣から声を掛けられて、わたしはそっちを向く。
彼は――渋面を作ってたみたいだったけど。
「何?」
「質問があります」
「はい、どぞ?」
「あれ、誰?」
指差した方向を見れば、そこにいたのは、招待者の方々。
あ、そうか。麻衣が知らない人ばっかりだったね、そう言えば。
思いながら、彼に離れることを説明して。
逆の手で、麻衣と手を繋いでから、そっちへと歩いた。
まずは。
「あ、玲ちゃん。結婚おめでとう」
「ありがとうございます」
「何かあったら言うのよ? 結婚生活の先輩として、何かアドバイス出来るとは思うから」
「はい!」
話をして、麻衣へと向き直る。
わたしがお世話になった、ご夫婦。
麻衣に紹介しないといけない。
「熊谷さん。小説家の…先輩かな?」
「よろしく。熊谷徹です」
「奥さんの菜穂子さん」
「よろしくね」
「玲の親友の佐倉麻衣です」
「あー、君が」
「?」
「玲ちゃんがね、いつも言ってるんだ。麻衣はどうしてるかなー? 今度いつ会えるかなー? って」
「へぇー」
「え? 言ってます?」
「割と。一人になると、呟いてたりするよ?」
それは知らなかった。
思ってるだけだと思ってたのに。
口にも出てましたか。
そんなことを考えてたら、麻衣が軽く、頭を撫でてくれた。
ごめんね? って。
そんな風な、麻衣の表情。
それに、にっこりと笑う。
「とりあえず、熊谷さん。これからも玲のこと、よろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ」
「さて、次」
「はーい」
軽く、熊谷さんに会釈して、その場で踵を返す。
麻衣の手に引っ張られるようにして、次へと。
「中ちゃん先生!」
声を掛けたのは麻衣で。
え? もうそっちに行くの?
思いながら、かつての恩師二人の前へ、わたしは立った。
「あ、月宮さん、田端さん」
そう言ってから。
中ちゃん先生は、はたと気づいて、口を塞ぐ。
何だろう?
思ったんだけど、麻衣はわかってたみたいだった。
「先生。もう私は月宮じゃないし、玲も田端じゃないですよ」
「そうよね。ごめんね? 何か、ずーっと、教え子みたいに扱ってるわね?」
「じゃ、こうしましょう。私たちのことは、名前で呼ぶ!」
「…え? でも……」
「そうすれば、どっちでもかまわないでしょう?」
決定!
なんて言って、麻衣は笑う。
先生も、それならって、笑顔を見せた。
けど。
「葉月、結婚おめでとう」
横からの声に、顔色を変えてた。
「そうね。たば…玲ちゃん、結婚おめでとう」
「ありがとうございます」
深くお辞儀して。
葉月って呼ばれたよ!
なんて、嬉しかったんだけど。
氷室先生からすると、ややこしいかな?
そう、思う。
「ひむ……」
「中ちゃん先生、質問」
思ったのに、言葉は紡がせてもらえなくて。
わたしは口を閉ざす。
「はい。麻衣ちゃん」
「この人は誰ですか?」
指差したのは、氷室先生。
わたしじゃなくて、中ちゃん先生に聞いた、その真意は、よくわかった。
「ああ、この人は……」
「さっきから見てましたけど、仲いいですよね? ってことは、旦那さんとか! でも私、結婚式に呼ばれてないですよ? 私の方は呼んだのに」
「え? じゃなくて…」
「じゃ、恋人! 実はもうすでに、同棲しちゃってたり?」
玲たちみたいに。
言われて、中ちゃん先生は顔を真っ赤にする。
わたしはもう、笑いを堪えるのに必死で。
「違うの!」
「えー…」
「ただ、同僚なだけ! 同じはばたき学園の先生なの!」
中ちゃん先生は力いっぱい否定して。
否定したから、氷室先生はわずかに眉根を寄せた。
進展してよ。
本気で思う。
「氷室先生。数学を教えてらっしゃるのよ」
「僕の恩師でもあるの」
「氷室零一という」
「佐倉麻衣です。玲の親友で、中里先生には、中学時代、お世話になりました」
ぺこりと頭を下げて、麻衣はなおも、氷室先生を見る。
わずかに首を傾げて。
それから、中ちゃん先生に視線を移して。
「本当に、ただの同僚の先生ってだけなの?」
「だけよ! 何度も言ってるでしょう?」
言って、言われて。
麻衣はうーん、なんて考え込む。
それから、氷室先生に瞳を向けて。
「そうなんですか?」
そう…聞いてた。
「そうだ。私と中里先生は、この学園で教師をしている者同士でしかない」
「それにしては、仲よすぎじゃありません?」
「君がどう思うかはかまわないが、事実は変わるものではない」
「……否定はしないんですね?」
「否定…と言うと?」
「中ちゃん先生と、氷室さんが、仲がいいということです」
「………」
ケンカ、吹っかけてる?
思いながら、麻衣と氷室先生の顔を、交互に見る。
その視界に入った、もう一人の当事者は。
おろおろと、二人を見てた。
止めたいけど、きっと自分じゃ無理かもしれない。
そう思ってるみたいに。
「端から見てたら、同僚以上のものですよ? 氷室さんが中ちゃん先生に接する、そのコウイは」
「そうか」
「そして、逆もまた然りです」
「……だが、事実は変わらない。私たちは同じ教師。同じ吹奏楽部の顧問だ」
――平行線。
わかってるけど。
わかってたけど。
この二人、相容れないみたい。
しかし、麻衣が余裕そうな表情してるのはどうよ?
氷室先生ならまだしも。
「事実の話をしてるんじゃないんですけど」
「では、何の話をしているんだ? 君は」
「お二人が仲がいい。それを肯定するかしないか、という話です」
それを言ったとしても、氷室先生が簡単に肯定するとは思えないよ、麻衣。
口にはせずに、心の中で言い続ける。
しかし、そろそろ止めないと、大変かもしれない。
――んだけど。
わたしにも、止められるかどうかは、わからない。
と言うより。
自信がない。
考えて。
泣きたいぐらいになってきて。
逃げたくて、仕方がなくて。
でも、手を捉えられてるから、逃げられるはずもない。
そんなことを思って、天を仰いでいたら。
「玲さん!」
そう、声を掛けられた。
誰でもいいから、この状況を打破して!
なんて思ってたから。
その声はもう、本当に、天の助け。
「ご結婚、おめでとうございます!」
目の前まで来たのは、髪をショートに切っちゃってた女の子。
髪長かったのに!
ポニーテールは?
そう、ちょっと考え込んじゃった。
「紗枝…さん?」
「はい」
「髪……」
「ドラマをやることになって。その役のイメージが、ショートだったんで、切っちゃいました」
「もったいなーい」
「え? だめですか? 結構評判いいんですけど」
言いながら、紗枝さんは髪を一生懸命梳いてた。
視界の端。
彼が心配そうな表情してるのがわかる。
「この前会った時、ポニーテールしてたでしょ?」
「はい。撮影で…」
「あれ、すっごく可愛かったのに……」
「……ごめんなさい。当分無理です…」
がっくりと肩を落とす。
と、麻衣が氷室先生から視線を外した。
押し問答に飽きたのか。
もしくは勝手に、解決させたか。
それはちょっと、わからなかったんだけど。
「玲? 誰?」
「モデルの紗枝さん」
「紗枝…。ああ、あなたが!」
紗枝さんの肩に、ぽんって麻衣は手を置いて。
それから、ぎゅって、抱き締める。
紗枝さんは驚いてたけど。
そういうことをしちゃう気持ち、わたしにはわかるから。
何も言わずに、ただそれを見てた。
「ごめんね? いっぱい、傷ついたでしょう?」
「あの……」
「いい男なんて、星の数だから。そのうち、いいのに巡り会うよ。あーんな男より、いいのにね」
離れて、麻衣は腕を組む。
ふんって、息を吐いて。
彼の背中を、睨んでた。
「本当に玲は。あんなののどこがいいんだか」
「そう言わずに、祝ってやってください」
「祝ってあげてるじゃん。充分」
「………」
そっか、これで充分祝ってくれてるんだ。
それはわからなかったよ。
息を吐けば、紗枝さんは一人で困ってて。
わたしは笑みを浮かべる。
「佐倉麻衣っていって、僕の親友なの」
「…そうなんですか」
「びっくりした?」
「はい…。誰なんだろうって、思いました」
「ごめんねー? 自己紹介するよりも何よりも、あなたには謝りたかったからさ」
「? あの……」
「あの時の玲が前を向くには、葉月さんに、目に見える形で幸せになってもらうしかなかったから」
「………」
「結果、あなたには大きな悲しみを負わせてしまったでしょう? だから、謝りたかったの。面と向かって」
さすが、わたしの親友さま。
わたしのこと。
よくわかってらっしゃる。
「でも、それで私、玲さんに……」
「自業自得。玲はバカなだけだから。別にそれに関してはいいんだって」
「バカって……」
「だってバカじゃん」
「そうなんだけど……」
見られて。
しゅんって肩を落とす。
そんなわたしたちの会話に、紗枝さんはくすくすと笑い出して。
「佐倉さんって、おもしろいんですね」
そう、感想を述べた。
「おもしろいんじゃないよ? 意地悪なの」
「でも私は、玲の親友」
「…その通りです」
また言われて。
なおも項垂れれば。
紗枝さんは笑い続けてた。
「とりあえず! 中ちゃん先生終了! あとは……」
言いながら、麻衣は体育館の中をぐるっと見渡して。
それから、彼が挨拶し終わった直後らしい、その人物を見つける。
何も言わずに歩き出して。
――紗枝さんには、手を振ってたけど。
「あ、あの人知ってる」
急に足を止めて、そう呟いた。
そりゃ、知ってるだろうねぇ。
思いながら、今度はわたしが麻衣を引っ張っていく。
主に、あの人には彼がお世話になってるんだけど。
今回は本当、文句を言いたいぐらい、ありがとうございましたって、感じだしね。
少し、黒い笑みを浮かべつつ、わたしはその人たちの名を呼んだ。
「理事長先生! 花椿せんせい!」
手を挙げて、わたしが呼びましたよーっていう合図をする。
それに応えてくれたのは、理事長先生。
相変わらず、この先生は独特の空気持ってるなぁ。
「花椿……」
「なぁに? 初対面なのに、人のことを呼び捨てにして!」
「本当にこういう人なんだ……」
腰をくねらせて言葉を紡いだ花椿せんせいに、麻衣は呻いてた。
額に手を当てて。
ショックって、感じで。
「何か私、この人の言葉、もう信じられなくなりそう」
「何でよ!? 失礼な子ね!」
「失礼でも何でもいいです。ただ、オネエ言葉使ってるだけならまだしも…」
会話に、わたしはただ、苦笑を浮かべることしかできなくて。
そんなわたしに、理事長先生の瞳が向いた。
「結婚、おめでとう」
「ありがとうございます。それに、教会とこの体育館のことも」
「いや。とても嬉しいことに関われるのだから、かまわないよ」
にっこりと笑みを浮かべてくださって。
その笑みにつられて、わたしも微笑んじゃう。
「それで、彼女は?」
「佐倉麻衣といって、わたしの親友なんです」
「こんな子を親友にしてるなんて。玲ちゃんの世界も狭いのねー」
「玲には、私じゃないとダメなんです!」
バチバチって、火花が散ってる気がする。
本当に、麻衣と反りが合う人って、少ないなー。
今日は本気で、そう考えちゃうよ。
花椿せんせいにしろ、瑞希さんにしろ。
彼は…、反りが合うって言うより、一方的に嫌ってる感じかな。
嫌うというより、信じられないのかもしれないけど。
わたしが、光太さんに麻衣を取られた時みたいな、そんな感じになってるから。
思えば――光太さんにも、最初の頃は、いっぱい迷惑掛けたなー。
麻衣はただ、見てるだけだし。
結局、許してくれたからいいんだけど。
「でもさ、言っていい? 玲」
「? 何ー?」
「私が式挙げる時さ、教会知らない? って、聞いたよね?」
「………」
「そしたら、知らないって答えたよね?」
「……え、えへ?」
「答えたよね?」
強く言われて、苦笑を固めて。
それから、「言いました…」って、認めた。
「玲ちゃん?」
「だ、だって。はば学の敷地内だし、理事長先生のものだし」
「でも、知ってたわけだよね?」
「………」
「ね?」
「知ってました…」
「その上で、無理かもって言ってくれたなら、私は今、こうやって何か言うことはなかったんだけど?」
「…スイマセンでした……」
「よろしい」
ベールの上から、頭を撫でられて。
それでも、「秘密にしたかったんだもん」なんて呟いたら。
「親友の私に、玲が秘密になんて出来るわけないでしょうが」
そう、断言されちゃいました。
まぁ、そうなんだけど。
「それより、今日、学校に誰もいないんですか?」
理事長先生に、聞いてみれば。
簡単に頷かれて。
「邪魔されたくないじゃない?」
って、花椿せんせいが、言葉を付け足した。
「マスコミ関係は、全部警備員さんが押さえてた」
「マジ?」
「マジマジ。だから、私は裏門から入れてもらった。もちろんそこも、警備員さんが目を光らせてた」
「重ね重ね、スイマセン」
ぺこりと頭を下げる。
たかが結婚式なのに。
立場のおかげで、やることがいっぱいになる。
「葉月くんから、先に言われていたからね。大丈夫だよ」
言葉に、彼がいろいろと考えてくれていたことを知ったけど。
わたしには何も言ってくれなかった、なんて。
不満を抱いちゃったりもした。
あとで全部言ってやる。
彼の姿を視界に収めて。
わずかに頬を膨らませる。
でもま、ありがとうの気持ちもちゃんとあるから、伝えるけど。
「玲! 麻衣姉!」
そうしていると、尽が声を掛けてきて。
一度、そっちに瞳を向けはしたけど。
その瞬間に垣間見えた、彼の笑みに。
わたしは、麻衣にバレないように、その手を離れた。

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