話してくれるその表情には笑顔が浮かんでいて。
本当に嬉しそうだったから。
わたしも何だか、嬉しくなってた。
mit gemischten
Gefühlen 4
テーブルの上に、料理が並べられていくのを、わたしは両肘で頬杖を突きながら、見続けていた。
手伝わなくていいって言われたから、本当に手伝わずに、キッチンに立つ彼の背中を眺め続けて。
少しだけ高い椅子に深く座ったおかげで、足は床には付いていない。
ぶらぶらと足を動かしては、椅子に悲鳴を上げさせて。
それに、彼が思い出したように振り向いてくれて。
その度に、軽く首を傾げて見せてた。
会話をしようとは思わなくて。
ただ、彼を見ていたかったから、そうしてた。
コトッと置かれた皿に視線を移すと。
彼はまた、くるりと背を向けて、キッチンへと向かう。
「何か、豪勢じゃない?」
ぽつりと零すと、彼はわたしを見て。
軽く、眉根を寄せていた。
「嫌か?」
「そうじゃないよ? ただ、片付けもやってくれるのかなーって」
「……やる」
「ありがとう」
にっこり笑って、手を伸ばす。
上へ。
一つだけ伸びをして、彼が目の前に座るのを待って。
「では、いただきます」
手を合わせて、そう発した。
わたしが好きだって言ったものも作ってあって、嬉しかったから、それに一目散に箸を付ける。
と、彼は嬉しそうに笑ってた。
「あのさ、前から聞きたかったんだけど、聞いていい?」
「ああ」
箸を一時止めて、彼の顔を見る。
彼も食事を止めて、会話に集中してくれた。
その彼に質問をぶつけるべく、少しだけ、身を乗り出してみる。
「これのレシピ、教えてください」
「質問になってないだろ?」
「じゃあ、どうして教えてくれないわけ?」
「おまえが作れるようになったら、俺のいる意味が減る」
「………」
「だから」
「いいじゃん。一つぐらい減っても」
「かもしれない。でも、それでも…な」
頬を軽く膨らませて。
背もたれに乱暴に寄りかかった。
――何度も何度も、レシピを予測して。
彼がいない時に作ってはみてるんだけど。
どうしても、同じ味になってはくれない。
それに、今日こそはって、じっと見てたけど。
そばに寄ろうとすると、「そっち」って戻るように言われちゃってたから。
手元を見られずに終わってた。
何を使うかがわかっても。
分量がわからなければ、意味がない。
「ケチ」
「ケチでいい」
「………」
「どうした?」
「何でこんな人を好きになっちゃったのかなー?
って」
「………」
思ってないことを口にすれば、彼は言葉を失って。
お茶碗をテーブルの上へと置いた。
わたしは一人で、食事を再開する。
彼は視線を伏せて、何かを考えていて。
まさかそこまでショックを受けるとは思っていなかったから、わたしは飲み込むのにも、実は時間がかかってた。
麦茶を一口含んで、喉へと通す。
「玲」
ようやく何かを言ったと思ったら、彼が紡いだのは、わたしの名前で。
それに箸を止めて、わたしは彼を見た。
「本当に、それ…」
「思ってないよ?」
伝えれば、彼は声もなく、驚いて。
わたしはそれに、にっこりと笑って見せた。
「思ってるわけないじゃん」
「でも……」
「信じてくれないわけ?
それでもいいけど」
「………」
「君のことを好きな理由は、わたしは自分でわかってるし。それに、いじわるなんて、今まで何度もされてきてるもん。それでもわたしは、ここにいるの」
届けて、彼の顔をじっと見る。
「慌てさせちゃったことは謝る。ごめんね?」
「……ああ」
薄く笑って、椅子に座り直す。
と、彼も食事を再開させて。
「俺も…悪かった」
なんて、その前に呟いてくれた。
わたしは笑みを濃くしたけど、それをすぐにかき消して。
「そう言ってても、教えてくれないんだよね?」
って、聞いてみる。
もちろん、彼は頷いて。
わたしはぷくっと頬を膨らませた。
「んじゃ、食べたくなったら喚こう」
「そうしてくれ」
彼が教えてくれない理由を知っているから、わたしは短く、息を吐く。
明日にでも言うかもよ? なんて言ってみたら。
毎日でも作ってやるって言ってもらえたから。
わたしは口元に手を当てて、くすくすと笑ってた。
夕飯終了後。
昼間作っておいたプリンを、スプーンで掬いながら、洗い物をしてくれている彼の背中を、またわたしは見てた。
本当に片付けまでやってくれるとは思ってなかったから、最初は少し、驚いてたんだけど。
「おまえが言ったんだろ?」
そう言われたから、すごすごと引き下がってみた。
いつもやってることをしないとなると、結構暇なもの。
しみじみと噛み締めながら、プリンを口へと運び続けてた。
カチャカチャと食器を仕舞う音が耳へと届く。
自動食器洗い機って、やっぱ楽だね。
というより、面倒臭がり屋の彼のためにあるようなものだとさえ、この頃思う。
スプーンを咥えたままで、左手で頬杖を突くと。
片付けを終えた彼と、目が合った。
「どうした?」
「人間って、堕落をし続けていく生き物なのかなって」
「?」
「楽をするために、いろんな物を開発し続けている気がするからさ」
「………」
「自然からどんどん遠ざかってるよね。それをわかってるのに、人間は堕落のために、それを止められない」
「…なるほどな」
スプーンを口から取って、またプリンを運んでいく。
と、急に唇が塞がって。
柔らかいけど、プリンとは違う、生温かいものが、入ってきた。
混乱しながら、それを受け止めてると。
彼は嬉しそうな顔をして、離れていった。
「…食べたいならそう言ってよ」
まだ残っているカップを片手に、言ってみる。
けど、彼がどちらを食べたかったのかは、あまりよく、測れなくて。
――一石二鳥を狙ったのかもしれないけど。
彼は何も言わずに笑ったままで。
わたしはもう、なんて、言葉を綴った。
「そう言えばさ、『カンタループ』ってお店、知ってる?」
話の矛先を変えようと、わたしはそう、口にする。
隣りに座った彼は、少し考えてたけど、すぐに答えをくれた。
「ジャズバーの?」
「知ってるの?」
「スタッフが話してた。行ったことは…ないけどな」
「ふーん」
「そこが、どうしたんだ?」
「この前、はば学に行った時に、中ちゃん先生が言ってたんだ。氷室先生に連れていってもらったんだって」
「へぇー」
「何かね? 氷室先生の幼なじみが経営してるんだとか言ってた。嬉しそうだったよ?
中ちゃん先生」
笑いながら、最後の一掬いを口に頬張る。
中ちゃん先生、会った瞬間、わたしの手を取って、嬉しさの理由を報告してくれた。
それを思い出して、ふふっと笑うと。
彼が顔を覗き込んできた。
「? 何?」
「で?」
「?」
「行きたいんだろ? だから言った。……違うのか?」
言葉に、瞬きをして。
それから、ふっと笑みを浮かべた。
わかってくれるんだね?
思いながら、頷いて。
ぎゅっと抱き着いてみる。
「いつ行こっか?」
「場所、わかってるのか?」
「中ちゃん先生が教えてくれた。というより、マッチをくれたんだよね。箱に地図が書いてあるの」
「そうか」
「うん」
「じゃあ、今度の休みにでも、行くか?」
「わかった。仕事、終わらせられるように頑張るね?」
キスをして、抱き着いて。
現金かな? って考えながらも。
大好きって、思い続けてた。
|