誰が悪いとか
きっとないと思うけど

でも 誰が良いっていうのも
きっとないと思う

自分の心のために 人は生きてて

誰かを愛したり
傷付けたり
するんでしょう?

だったら
他人が評価出来ることじゃないと
わたしは思うんだ

だから今日も わたしは

黒板の前で威張り腐ってる先生の言葉に

顔では笑って
心の中で――ため息を吐くんだ




キズ 〜 ニチジョウ 〜





こんなに甘えてていいんだろうか、とか、ちょっと考えてる。
テレビを点けて、それをただ眺めながら、彼の肩に寄っ掛かって。
明かりを消した、部屋の中。
そろそろ、真夜中って時刻を差すのかもしれない。
だから、映し出されているのはよくわからない、昔の海外の映画。
そんなテレビよりも、気になるのは、すぐ隣りにいる彼の方で。
別に消してもいいんだけどなーとか思ってたら、視界いっぱいに彼の顔が現れた。
びっくりして、目を丸くすれば、ふっと笑われて。
思った通り、唇が重なった。
あったかくて、やわらかいそれは、すぐに離れてしまって。
わたしは眉根を寄せてみたりした。
「どうした?」
わかってるくせに、彼はそんなことを聞いてくる。
「…言わない」
「どうして?」
「言いたくないから」
キスを送って、手を握る。
知っているくせに、わかっているくせに。
思いながら、彼を見る。
わたしだってわかってる。
彼が何を欲しているのかぐらい。
でも、言わない。
彼は――ふっとまた笑った。
どうしても、わたしに言わせたいらしい。
でもわたしは、言ってやらない。
こういうとこ、二人で頑固だよなぁって思う。
膝立ちで彼の足の間へと移動する。
正座したあとで、真上へとやってきた彼の顔を見上げた。
ずるいって、何度思っただろう。
膝は立ててくれるくせに。
「やっぱり珪って意地悪…」
呟いて、口付けて。
ようやく腰を抱いてくれた彼に安心して、正座を崩した。
彼に対して横向きになって。
右腕を彼の首へと回して、彼の膝にほんの少しだけ背を預ければ。
ぎゅって抱き寄せられて。
グリーンの瞳に覗き込まれる。
笑みが降って。
また、ずるいって思う。
腰を、彼の手が撫でる。
言わせようって必死。
でも、言ってあげない。
言ってやらない。
「強情」
「どっちが」
言われて言い返して。
少しの間、睨み合って。
それから同時に吹き出して。
くすくす笑って、キスをして。
離さないように、回していた腕に力を込めた。
口を開いて、受け入れて。
深いそれが終わったあとは、やっぱり脱力しちゃってた。
のに、唇を最後舐められて、びくっと身体が震える。
「あとは?」
「んっ……」
耳元で低く言われて、小さく反応。
やっぱりずるい。
「玲」
「……言わない」
促されて、それでもそう言えば。
彼は笑って、頬に唇を落としてくれた。
「珪だって、言えばいいのに」
「何を?」
「………」
答えればわたしが言っちゃうことになるから答えられなくて。
わたしは視線を俯かせるのと同時に口を閉ざした。
だって、それしか考えてないって思われそうで嫌だもん。
それにはやっぱり、笑みが零されて。
「玲だって言えばいい」
「何を?」
視線を戻す。
彼は笑顔。
「触ってほしいって」
「!」
あーあ、言っちゃった…。
ちょっとだけ残念な気もして。
それでも、首筋に唇を寄せられて、何も考えられなくなった。
彼のやり口は知ってる。
服の裾を捲り上げて、直接肌を触るけど。
怖がらせないように、とか考えて。
もしくは――ただ単に楽しんでるだけかもしれないけど。
唇をいろんなとこに落として、手に集中させないようにする。
服の上からとか、微妙に、薄いそれを落としていく。
じれったいって、何度思ったことか。
「消えたな、やっぱり」
Tシャツを脱がされたあとで、そう言われて。
彼の視線がどこにあるかを確認する。
鎖骨とか、胸の少し上の辺り。
「そりゃー、ねぇ……」
言いながら、位置を少し変える。
自分の位置。
傷口、彼の胸に押し付けるように。
だってあんまり、見せたくない。
「どうしてた?」
「何が?」
「性欲の処理」
そのものずばりの物言いに、少し面食らって。
固まって。
促された時には、傷口は彼の目の前に晒されてた。
「…女の子は平気なものなんです」
「そうか」
「そうだよ」
じっと見つめられて。
変わらない表情の下で何を思っているのか、気になった。
謝罪の言葉は述べないでよ?
あれは、あなたが悪いわけじゃない。
「紗枝と付き合ってたのは、実験みたいなもの…だった」
何を言い出すのかわからなくて、首を傾げる。
傷口はまだ、晒されたままで。
左腕が動いていたら完璧に、彼の手から逃れていただろうって思う。
「実験って……何の?」
「あいつ、おまえにそっくりだったから」
「?」
「昔の、おまえに。『あき』に」
言われて、ああ…と思う。
少し考えればわかったこと。
彼女は綺麗で可愛くて。
いつでも一歩引いて、接していたように思う。
それって、確かにあの頃のわたしかもしれない。
「けど、考えるのはおまえのことばっかりだった」
「わたし…?」
「今のおまえ」
傷口に唇が押し当てられて。
動かなくても、感覚はあるんだって、再確認した。
吸われて。
それだけじゃない痛みに、わたしは片目を瞑る。
「…悪い」
「大丈夫……」
そんなわたしに気づいて、彼は唇を離してくれたけど。
まだちょっと、痛みは残っていて。
右手で少し、そこを撫でた。
痛みが引いて、手を離す。
と同時に、抱き締められて。
「珪?」
「俺、おまえじゃないとダメなんだな」
そう、呟かれた。
いつだっただろう?
彼と二人でいると、安心出来るって気づいたのは。
いつだっけ?
こうされてるとほっと出来るんだってわかったのは。
彼の胸に頬を擦り寄せる。
聞こえてきた心音は本当に心地よくて。
「ね? 珪」
「ん?」
「テレビ……」
「…ああ」
言えば彼はわかってくれて。
すぐに音が消えた。

しっかりと印が刻まれていくのを、わたしは邪魔せずにいて。
すっかり消えてしまって、肌色ばかりだったそこに、赤い痕が散っていく。
その数が増えていく度に、身体の底から熱が呼び起こされて。
「…まだ?」
「まだ」
「しつこくない?」
身を捩ったとしても、逃れられないことはわかってるんだけど。
ほんの少し、そう抗議。
すると、ブラジャーのホックがぱちんと音を立てて外れた。
――フロントホックのものにしたのは間違いだったかもしれない。
締め付けがなくなって、楽になったその瞬間を見てしまったから。
顔を逸らせば失笑が降って。
「赤いぞ、顔」
囁かれた言葉に、顔が火照ったのがわかった。
からかわれてるってわかってる。
わかってるんだけど、どうしようもない。
どうしたってひっかかるし。
どうしたって、耳は彼の言葉を一字一句拾ってしまう。
「変わらないな、おまえ」
また笑われて。
わたしは小さく、「しょうがないでしょ…」と呟くことしか出来なかった。
ジーパンに手が掛かって。
ボタンを外されて、ジッパーが下ろされて。
日頃、スカートを穿いていない自分を、これほど偉いと思うことはないと思う。
と、同時に、何でパンツなんか穿いてるんだろうって思う。
彼が言った通り、触ってほしくてどうしようもないのに。
でも、彼の手を煩わせることができていることも、ほんのちょっとだけだけれど、嬉しかったりもして。
やっぱり、矛盾の塊。
そんなことを考えてた。
「また…変なことを考えてるのか?」
「変……なのかな? 人間って矛盾の塊だなって思っただけなんだけど」
「どういう脈絡で、そうなるんだ?」
「………っ」
完全に下ろされたと思ったのに、穿き古されたジーパンは右足首で引っかかっていて。
彼の手は内股を撫でる。
とっさに足を閉じても、彼の手はそこにあって。
それに閉じてしまった瞼を上げれば、彼は息を吐いているところだった。
短い――ため息。
「開いてほしい?」
首に手を回して、そう聞けば。
「ほしい」
短く応えは返る。
でも、それだけじゃ終わらずに、彼の顔は胸へと埋まった。
チリッとした痛みのあとに、突起部分を舐め上げられて。
わたしはぎゅっと彼の服を掴む。
途端、足の力は急に失われて。
彼の手がそこへと辿り着いてしまって。
下着の上から、割れ目をなぞった。
それでまた、わたしは一度緩めた手に力を込める。
「声」
「…っや」
行為が嫌なんじゃなくて、声を出すっていうことが嫌。
そんな意味で放った言葉に、彼はわたしの髪を撫でた。
あやすみたいなそんな行動の裏で考えてることは知ってる。
ドロドロしてるのは欲望で。
それを昇華したいって必死なのはわかってる。
だってわたしも同じ。
愛しさは同じ。
どっちが重いかなんて計れないから、同じだと思うしかないけど。
「玲」
ふるふると首を横に振る。
瞼を下ろしたそこは、闇でしかなかったけど。
だからこそ、彼の体温がそばにあるってことに、安堵出来るんだけど。
感覚が研ぎ澄まされてしまうのが、難点と言えば、難点で。
「〜〜〜〜っ!」
下着が下ろされて、またそれは足首で止まって。
彼の指が内へと入り込む。
ゆっくりとしたそれに彼にしがみついたけれど、効果はない。
奥まで行って、またゆっくりと抜かれて。
「本当にしなかったんだな」
「そう、いった…っ!」
狭くなってしまったんだろうそこを探られて、生理的な涙が零れた。
ゆっくりだったそれは、少しずつ乱暴になって。
水の撥ねる音が、耳へと届けられる。
口からは自分のだとは思えないような声。
上がり切った息と。
もう、どこにも逃がすことの出来なくなった、快感と。
「玲」
それでも、きちんと彼の声はわたしの中で響いて。
引き抜かれた指に小さく呻いたあと、わたしは瞼を上げた。
「けい……?」
足首にあったものをすべて取り払われて。
抱き上げられて、向かい合わせに座らされて。
彼がどうしたいのかわかったけど、身体はうまく言うことを聞いてくれなくて。
足が大きく開かれて、彼の上に降ろされる。
力を抜こうって考えてるのに、そうすればそうするほど、うまくいかなくて。
彼の眉根は寄せられた。
「ご、め……」
「いい。久しぶりだしな」
「ん…」
彼の言葉って、一種の魔法。
そう思わざるを得ない。
やっぱり…安心する。
「……っ!」
そう思ってたのに、最後の方。
一気に貫かれて、息が詰まった。
ぎゅっと握っていた手が取られて、指先に唇が落とされて。
彼は未だに着ていたTシャツを脱ぐために、その手を離す。
わずかな動きにさえ、身体は震えたけど。
床へと落とされるその音を聞く前に、唇を重ねて。
彼の手が、わたしの腰を掴むまで待ってた。
促されるままに動いて。
高みを、ただただ望んで。
「あきらっ」
低くわたしの名前を呼んでくれた彼の顔。
それを瞳に映した瞬間。
意識が破裂したような気がした。

NEXT

BACK

RETURN