普段は 部屋の中を見渡しているの

変わりない部屋を見渡して

その中で過ごす 部屋の主を見守って

時々 その人に
別の場所からこの部屋を見たい
なんて――訴える時もあるんだけど

ここ何年かはずっと
同じ場所から部屋を見ている

部屋の主は わたしをここに置いていることに
酷く満足していて

理由は簡単

部屋に入ったその時に
わたしの笑みと向き合えるから

そしてその時に
その人も微笑んでくれるから

わたしもこの場所が

とても気に入っていたりする




キズ 〜 レンアイ 〜





夢を見たのは、本当に久しぶりで。
これが本当ならどんなにいいだろうって思ってた。
目の前に彼がいて。
わたしの首に、彼の手があって。
苦しかったけど、嬉しかった。
生きている意味がないわたし。
だったら、やっぱり。
彼に殺されていなくなった方が――って。
目が覚めた時。
起きてしまった時。
深く深く、思ってた。

お昼までごちそうになってから、マンションへと送ってもらって。
菜穂子さんからもらったレシピのお礼を、熊谷さんに何度も伝えて。
走り去っていく車を見送ったあと、わたしは小さく、息を吐いた。
とりあえず数日は、もらったレシピを試そうって思うだろうから。
…なんて、菜穂子さんはそう言って。
わたしはそのずばりな物言いに、何も言えなくなって。
食べたいものを作れないってことなのだと、気づかされた。
コンビニのお弁当とか、食べ飽きたらおしまいだし。
でも今は、食べたいと思うものが、この鞄の中にはあるわけで。
心配を掛けちゃいけない――って、無意識に自分にプレッシャーを掛けてるんじゃないかって、熊谷さんは言ってた。
俺たちには遠慮しなくていいからって、加えてくれて。
そう言われれば言われるほど、心配させちゃいけないって思うんだけど。
とりあえずわたしは、頷いておいた。
踵を返して、エントランスへと入る。
真っ直ぐ郵便受けへと歩いて、中を確認して。
手に取ったものの中に、麻衣からの手紙を発見して、封を切りながら歩いた。
鍵で扉を開けて。
開いたその音を聞きながら、中へと入る。
エレベーターへと歩を進めると。
「玲」
って、呼び止められて。
振り返ると、彼がもう、閉まる扉を背にして、立っていた。
そんなに心配?
思いながら、わたしは微笑む。
彼の好意は、素直に受け止めよう。
昔と同じように。
「今日、仕事は?」
「ない」
「そう」
「おまえは?」
「暇」
「そうか」
「うん」
短い、単語でのやり取り。
エレベーターが来て、それに乗り込む。
彼も――一緒。
「ウチ、来るの?」
「行っていいなら」
「ここでダメって言ったら、君、困らない?」
「困るな」
上へと上がっていく箱の中で、わたしは笑う。
つられたようにして、彼の苦笑した声が耳に届いた。
目的地へと着いて、扉が開く。
わたしが降りて、彼も降りる。
「玲」
「ん?」
「行っても…いいのか?」
「いいよ、別に。今、ひとりじゃいたくなかったし」
わたしさ、今になって、疑問なんだけど。
君がまだ、わたしのことを名前で呼ぶのは、もう、癖のようになってしまっているから?
今更名字で呼び直すのは、面倒臭いから?
それとも……まだ、好きだから?
聞けないことを背中で聞く。
答えはない。
絶対に、出されないから。
口にしなければ届かないことは知っているから。
それでもだよ。
なんて思うのは、わたしの勝手だから。
何も言わずに、部屋へと帰る。
鍵を開けて、扉を開けて。
一日ぶりの自分の家の匂いに、ほっとして。
さっさと玄関へと上がる。
鍵の閉まる音。
それを聞きながら、わたしはバッグを置いて。
麻衣からの手紙を開いた。
「何だ?」
「麻衣から」
「月宮?」
「今は佐倉」
「…だったな」
麻衣の手紙には、最初から「報告!」と出てて。
「赤ん坊?」
「妊娠したんだって」
後ろから覗き込んでくる彼に、読み終えた一枚を差し出した。
意識しなければ、ここまで『友達』として扱える。
初めからこうしておけば、わたしはきっと、悩まなくてすんだのかもしれない。
「光太さん、気が早いね。名前、もう決めてるんだって」
「そうか」
「うん。麻衣は呆れてるみたい。生まれて、落ち着いたらこっちに来てくれるって」
くすくす笑いながら、二枚目を手渡す。
「あの麻衣がお母さんかー。何か似合わない」
笑みを浮かべて、読んでいく。
わたしのことに関しては、一切触れてこない。
悲しむだけじゃダメってことを、麻衣はよく知っているから。
いいことに繋がることしか、手紙には書かれていなかった。
「赤ちゃんか…。可愛いよね? 小さくて。天使だけど、悪魔なの」
「ああ」
「麻衣も嬉しそうだけど、文面読んでると、一番嬉しがってるのは光太さんだよね。しかも、甘やかしそう。親バカになりそうだな、光太さん」
女の子かな?
男の子かな?
とにかく、生まれたら出産祝い、送らなきゃ。
送るよりも、会いに行こうかな?
だって、わたしが会いたい。
小さな天使を、見に行きたい。
――いいな……って思った。
「昨日ね、熊谷さんのとこに泊まったんだけど」
三枚目をテーブルに置いて、わたしは彼に背を向ける。
コーヒーを入れるべく、キッチンに立つ。
わたしはカフェオレにしようかな。
思いながら、冷蔵庫を開けた。
牛乳を取り出して、鍋に入れる。
「菜穂子さん…あ、熊谷さんの奥さんね? がね、言ってたんだ。子供が産まれて――二人だけの生活に天使が降りてきて。最初は可愛いってかまってたのに、それが徐々に、うざったくなってくるんだって。子供の世話をするのは、親の義務。そう思っちゃったら、思い直すのが大変だったんだって。義務だからそうするっていうのが、一番辛い。自分がそうしたいから、そうするんだって思わないと、何もしたくなくなっちゃうって」
「………」
「二日ぐらい、熊谷さんに世話を押し付けて、菜穂子さんは何にもしなかった時があったんだって。子育てに疲れちゃって。最初は天使だったのに、その時は悪魔だとしか思えなかったって。忙しすぎて、自分のことは何も考えられなくて――。でもね、そんな風に遠ざけてたのに、赤ちゃん、菜穂子さんのそばまで行って。にっこり笑って…呼んで。そうしたら、自分の行為がバカらしくなっちゃったって、言ってた」
温まった牛乳をカップに注いで。
軽くかき混ぜてから、わたしは振り返る。
歩き出して、辿り着いて。
一つずつ置いたカップが、コトッといちいち音を立てた。
「子供は親を選べないのに、親の私が、子供を選んでどうするんだろうって。こんな親じゃない方がよかったって後悔されるよりは、やっぱり、この親でよかったって思われなきゃ、人生損だって。それからは頑張ったんだって笑ってた。だから、子供の手が離れてくれて、熊谷さんと二人で、また暮らしていけるって思った時は、ほっとしたとも言ってた」
「でも……」
「菜穂子さんと僕、似てるんだ。だから熊谷さん、僕にちょっかい出してたんだって」
昨日のその場面を思い出して、一人で笑う。
「あそこの夫婦、結局、お互いしか見てないんだもん。昨日は本当、あ、今日もだけど、あてられちゃったよ」
フフッと笑って、口を付けて。
やっぱり熱くて、小さく肩を竦ませた。
赤ちゃんって。
天使だけど、悪魔で。
悪魔だけど、やっぱり天使で。
憎めないって、菜穂子さんは言ってた。
恩を着せることも出来るしねー、なんて、笑ってた。
「幸せって、人それぞれじゃない? 何をどう思うかなんて、それぞれでしょう? それと同じで。自分が今幸せだから、相手も同じ、なんて…考えちゃいけないんだって思ったの」
「………」
「菜穂子さんが辛いから、子供も辛い、なんてわけじゃない。だから逆も有り得るんだって」
同じ時間を共有してるから、思いも同じ。
そんなわけじゃないんだって。
ふぅ、と息を吐く。
麻衣も途中でくじけちゃうのかな?
なんて心配になったりもしたけど。
「麻衣は…平気そうだよね」
呟いて、手紙を封筒に仕舞う。
「最初から、そんなことわかってるって言いそう。というより、初めから光太さんに押し付けてそうな気もするけど」
言えば、彼は俯いて。
肩を震わせてたから、笑ってるんだろうと思う。
だって、そうじゃない?
あそこは麻衣の方が強い。
「大変だな」
「だろうね。で、あとで麻衣が喚くんだよ。子供が父親の方が好きって言う! って」
必死になって言ってくるであろう、何年か後の親友の姿を思い浮かべて、わたしは笑った。
彼も笑ってくれて、嬉しくて。
そして、また笑ってた。
わたしの幸せは、どうしたって彼みたいで。
振られたくせに何をやってるんだろうって、冷めた目で見ている自分もいたけど。
悲しくなるのは、自分一人の時でいいから――と、心に言い聞かせてた。
「にしてもさ、暇じゃない?」
唐突に、わたしは言う。
時間はまだ、二時前で。
このまま家に居続けるのもいいけどさ。
何かどこかに行きたい気分。
「暇だけど…どこに行くんだ?」
あ、行く気あるんだ?
いつもなら、ここでいいって言い張って。
暇なら寝る、とか言い出しそうな勢いなのに。
「あのさ」
でも実は、わたしには行きたい場所があったりして。
どうしても、知りたいことでもあるんだけど。
「学校、行かない?」
口にしたわたしに、彼は驚いていたけど。
理由を言えば、少し考えてくれて。
子供のような笑みを浮かべて、頷いてくれた。



警備員さんに挨拶をして。
野球部の声を聞きながら、校舎へと入る。
反響する吹奏楽部の演奏に、氷室先生、いるんだって二人で話をした。
廊下を歩いて、教室に入って、他愛無い会話をして。
吹奏楽部の演奏が終わっていることに気づいて、慌てて教室を飛び出した。
でも、いきなり音楽室にお邪魔するのもおかしいか…。
なんてぼやいていたら、前からスーツ姿の男性がやってきた。
「氷室先生!」
呼び掛けて、大きく手を振って。
先生はそんなわたしのそばへと歩いてやってきたあと、「君はまだ、落ち着きが足りないようだな」と、お小言を言ってくださいました。
まぁ、その通りなんだけど。
「葉月も来たのか」
「お久しぶりです」
「君の活躍は、いろいろなところで目にしている。ところで…田端」
「はい? 何ですか?」
「この前はすまなかった」
「いえ。今日警備員さんに聞きました。あの日は、大学に行ってらっしゃったそうですね?」
「数学の講義を聞きに言っていた。素晴らしい先生がいらっしゃって……私もそうなれたらと思っている。その方の講義だったために、どうしても外せなかった」
「目標なんですね、氷室先生の」
「そうだ」
大きく頷いて、氷室先生は彼をちらっと見る。
多分……気づいているんだろう。
わたしの好きな人が、彼だってこと。
「それで、今日は……」
「氷室先生!」
言葉を綴り始めた先生を遮って。
わたしから見たら、前方。
氷室先生にしてみたら、後方から、声が上がった。
バタバタと駆けてくる足音に、先生は言う。
「中里先生、廊下は走る場所ではない」
「え? あっ、すみません……」
ぺこりと頭を下げて、その人は謝罪を述べた。
「それで?」
言葉に、顔を上げる。
中里先生、か…。
ほっとしたような表情で氷室先生と向き合ってるその人は、どこか嬉しそうに見える。
っていうか、知ってる顔っぽいような気が……。
「玲」
「はいはい?」
「あれ…あの人」
「うん?」
「おまえの中学の時の、音楽教師」
「………。えっ? 中ちゃん先生!?」
声を上げたわたし。
に、言葉を止める二人。
「え? 田端さん?」
「は、はい! じゃあ、やっぱり……」
「久しぶりね! そっか、この学校、田端さん、通ってたのよね」
フフッと笑う中ちゃん先生に、嬉しくて、どうしようもなくて。
わたしはいつかのように抱き付いた。
コラコラって、苦笑気味に零されて。
「高校の教諭免許も持ってたの。二年前から、ここにお世話になってるのよ?」
って、教えてくれた。
「吹奏楽部の副顧問もやってます! でもね、いっつも氷室先生に怒られちゃうの」
「君も田端同様、落ち着きが足りない」
「はい…」
「どうしたら何もないところで転ぶことが出来るのか、私には理解できない」
「それは…自分の足に引っ掛かってですね……」
はぁ、とため息が零される。
俯いてしまった中里先生に、わたしは指でちょっとだけ突ついてみる。
疑問顔の先生。
前と同じ……表情。
「変わってないんですね、先生」
「変わりたいのー! 頑張ってるの、これでも!」
「先生の旅は終わりました?」
「まだ…。もういい。諦めた」
「先生……」
「いいのよ、別に。素敵な男性なんて、早々いないんだから」
「………」
「もういいの! 仕事に生きるのよ! だってもう、30台も半ばなんだから! 第一、こんな女、もらってくれる人なんていないものー」
泣き出しそうな顔でそう言って。
わたしは「えーと」なんてどう言ったらいいのかわからない声を発してた。
諦めた、って言いながら、後悔たらたらで。
どうしたって、結婚願望の強い中ちゃん先生に、わたしは向ける言葉を持っていなかった。
そうしたら、そばでまた、ため息が上がった。
それにビクッと、肩を竦ませて。
「だってそうじゃありませんか。氷室先生だっていつもおっしゃってるでしょう? 落ち着きが足りない、とか、人がよすぎる、とか」
「確かに言っている」
「だからいいんです。結婚したいなって思ってたって、相手がいないとどうにもなりませんから」
「中ちゃん先生、好きな人いないんですか?」
「……いる、けど」
俯いたままの言葉に、氷室先生をちらっと見る。
多分、無意識。
眉間に皺が寄ってる。
「でもね、無理だもん。諦めてるの」
「付き合ってるわけじゃ、ないんですか?」
「うん。というより、ここ何年も彼氏なんていません! もうおばさんの域だもの。誰も相手にしてくれないわよ」
「………」
「落ち着きないし、子供っぽいし、頼まれたら嫌って言えないし、自分のやりたいこと、率先してやっちゃうし」
「中里先生」
「どうせ、氷室先生にも呆れられてるの。しっかりしなさい。君は教師なんだからって、毎日言われてるし。向いてないのかなって、今になって思う。というよりね、私の人生設計じゃ、もうとっくに結婚してて、教師、辞めてるはずなんだもの。だからそう思っても仕方ないのかなって……」
パンッと耳元で音が響いて。
わたしは大きく、肩を竦ませた。
瞼を落として、耳を塞ぐ。
「中里先生、落ち着きなさい」
わずかに聞こえた声に、わたしはそろそろと目を開けて。
周りを見れば、氷室先生が思い切り手を叩いたのだとわかった。
中ちゃん先生も驚いていて。
目を丸くしてた。
彼は…顔を顰めているだけ。
「言っておくが、私は別に、呆れてはいない」
「…本当ですか?」
「もちろんだ」
「……でも、私のフォローに回るのはもう嫌だ、とかって思ってません?」
「………」
「ほらほらぁ、即答出来ないでしょう?」
「出来る。思ってなどいない」
「いいんです、別に。もう一年だけ頑張って、辞めます」
「辞めてどうする?」
「それから考えます。個人でピアノ、子供たちに教えてもいいんですし」
「………」
中ちゃん先生は涙目でそう言って。
氷室先生は呆れてた。
っていうより、昔からこうだよ、この先生は。
中学の時も、来て早々。
「向いてないのかなー」
…って、零してた。
「本当に変わってない、中ちゃん先生」
くすくす笑って、わたしは言う。
「十年前と同じこと言ってる」
「……だって…」
「でも結局続けるんでしょう? 教師。生徒の楽しそうな表情を見るのが好きだって、先生言ってたし」
「…でも、でもね? 迷惑かけたくないなーって人に、一番迷惑掛けちゃうのって、嫌じゃない?」
「掛けられてる本人がいいって言ってるんだから、いいんじゃないですか?」
「………」
「甘えられるうちにめいいっぱい甘えておかないと! 変わるのなんて、ゆっくりでいいんですから」
「……うん」
「それに僕は、先生には出来たら、そのままでいて欲しいなって思いますよ?」
「どうして?」
「だって先生、結構人気ありましたもん。話しやすいし、可愛いって」
「…可愛い?」
「可愛い。男子とかからも、結構」
「…そっか」
うんうんって頷いて。
そうすれば中ちゃん先生は、嬉しそうに微笑った。
――でも、これって事実。
先生は中学時代、バレンタインデーが近づくと、男子に囲まれてた。
誰にあげるんだーって、聞かれてた。
「そうよね? まだ諦めちゃいけないわよね? 私の旅は、まだまだこれから!」
言葉を綴った中里先生は、それから氷室先生に用事を伝えて、去っていった。
部活は終了になったみたいなんだけど、まだ、自主練習したいっていう子がいるんだって。
「その子たちには、私が付いてますから。氷室先生はお帰りになって大丈夫です」
って、笑顔で言って。
「やっぱり、あのピアノの音は、どこかで聞いた音――で、合ってたんだ」
呟いて、階段を上がる前にこっちを見た中ちゃん先生に手を振った。
振り返してくれたことに笑んで、手を下ろす。
「中ちゃん先生のこと好きだって思ってる男の子、結構いそうだよね? 案外、その中にいたりして。先生の好きな人」
「かもな」
「あー、聞いておけばよかったかなー? 今年のバレンタインはどうしたんだろう? 中学の時はね、男子みんなにあげてたんだよ。中ちゃん先生から欲しいって、直々に言いに来た子たちみんなに」
「へぇー…」
「今年三年目、でしょう? 卒業式の日までに、みんな最終アプローチ、掛けるんだろうなー」
「田端」
「はい。何ですか?」
にっこり笑って、高校時代の恩師に向き直る。
…何か、怒る一歩手前って感じ。
「今の話は、本当か?」
「今の話…と言うと」
「君が中学の時の話だ」
「本当ですよ」
「そうか」
詳しくは言わずに、聞かれたことだけに答えて。
わたしは笑顔のまま、氷室先生を見る。
うーん…気づいてない、のかな? やっぱり。
どうして自分がそんな顔をしてるのか、って考えれば……わかることじゃないの?
「氷室先生」
「何だ?」
「先生が今抱えてる想い、仕舞い込んじゃダメですからね?」
それだけ言って、わたしは「失礼します」と頭を下げた。
彼も軽く会釈して、付いてくる。
直後、きゅっと廊下を踏む音がして。
やけに慌てた足音が、背後から遠ざかっていった。
「走る場所じゃないって、言ってたのにね?」
「だな」
くすくす笑って、校内を歩く。
羨ましい、本当に。
わたしは――諦めてばかりだから。
音楽室から聞こえ始めた不揃いな音に、わたしは自嘲気味に、笑みを零した。

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