偽物は
いつかバレる

偽物は
本物には勝てないから

本物の輝きには
勝てないから

それと同じように
偽りの心は
いつか崩れる

わかっているのに

わたしはそれをやめることは――出来ない

何より自分を
保つために




綺麗な心の手に入れ方 〜 偽作 〜





きのこ…買ってきたんだっけ。
見てたら、何か食べたくなったから。
海苔は?
あった…よな?
うん、ある。大丈夫。
ジャガイモが大量にあったな。
この前安かったから、まとめて買ってきたやつがあったはず。
でもって、今日はマヨネーズが安かったから、買ってきた。
「よし、決定」
夕飯のメニューを頭の中に思い浮かべてそう吐く。
冷蔵庫の中身を思い出したり、視界をいろいろと動かしたり。
そうやって…わたしは、一つ一つを確認しながら、考える。
カロリーだとか、そういったものは考えない。
食べたいから、作って食べる。
我慢はしない。
「和風きのこスパゲティーと、ポテトサラダ! これでどうだ!」
「いいから、早く作れ」
「命令すんな!」
麻衣がいると、途端にわたしは子供になる。
彼女がそう、わたしを扱うから、なのだけれど。
鍋に水を張って、火に掛ける。
ジャガイモを茹でないと。
それが一番時間のかかることだから。
「手伝う」
声がすぐ近くでして、わたしは振り返る。
それに笑みを零して、わたしは彼の身体を反転させた。
力を入れないと、ちょっと難しい。
彼も立派な、一人の男性だから。
「いいよ。君はお客様だし」
「でも」
「いいの! 普通は手伝うって言わなくちゃいけないの、麻衣の方なんだから」
「私、料理は全然出来ません」
「覚えなさい! お嫁に行けなくなるよ?」
「大丈夫。コータは料理、得意だから」
「……こいつは」
「コータ?」
すぐ上で疑問の声。
そっちへと瞳を向ければ、彼が眉を顰めていた。
「光太さんっていうのは、麻衣の彼氏。僕らよりも一コ上。もともとね、麻衣が結婚する前に、料理を覚えたいからって言ったのが、一緒に住み出した理由…だったんだけどね」
「…でも……」
「そ、全然やらないんだ、こいつは」
「だって、玲のご飯、おいしいし」
みかんを引っ張り出してきたらしい。
言いながら、麻衣はそのオレンジ色の皮を剥いていた。
「少しは覚えようって思わないのか?」
「思う。思うけど…わかんないんだもん」
「ノート買ってきて、レシピを書いて。僕がいない時に作ってみるとか」
「一回やった。玲が作ってくれた通りにはならなかった」
「だから諦めたって?」
「そう。出来る人間と出来ない人間がいるんだよ、きっと」
「努力って言葉を知らない?」
「知ってるけど、しても無理な人間なのだよ、私は」
「………」
もう、何を言っても無駄だ。
「光太さん、麻衣のこと甘やかし過ぎ……」
「愛されてるからv」
「はいはい。よかったねー」
怒り気味にそう言う。
どうせ、わたしは彼氏なんかいませんよ。
思っていると、彼の背を押していたはずのわたしの手が掴まれた。
「何?」
いつの間にか振り返っていた彼の顔を見上げて言う。
「手伝う」
「別にいいよ。大丈夫」
「………」
「というか、簡単だから必要ない。ジャガイモ茹でてる間に、野菜刻んで。茹で上がったら、皮剥いて…そしたら手伝ってって言う。崩して、マヨネーズで和えてもらいたいから」
ね?
畳み掛けて、有無を言わせない笑みを浮かべる。
毎日やってることだし。
本当に…全然平気だし。
それよりも、彼の手の冷たさの方が気になる。
体温低いって、昔聞いた。
逆に、わたしは高い。
だからなおさら、彼の体温の低さには気づく。
「コタツ入ってて。寒いしさ」
「………」
「ね?」
何で動かないんだろう?
わたし、何かした?
――心が動きそうになる。
これ以上、そんな真剣な目で見ないでほしい。
必死になって、心を止める。
顔に上らせるのは、笑顔だけ。
偽りの……笑顔だけ。
「玲ー、テレビ見ていい?」
その時、麻衣の声が響いた。
彼も…それで手を離してくれる。
「どうぞ。勝手に見てください」
呆れながら言う。
彼が背を向けて、歩いていく。
その影から、わたしは麻衣に「ありがとう」と口の動きだけで届けた。

それからは平和だった。
ただ、困ったこともあった。
「あ」
「どうした?」
「お皿……」
全部二枚ずつしかなかったりして。
わたしは苦笑する。
「全員、違うのにすればいいか。公平に」
言いながら、食器棚の中を見定める。
同じような大きさのものなら、いくつかあるし。
何とかなるな。
一人で頷いて、取り出して。
円形のテーブルの上に並べる。
「いいか?」
「いいよー」
言わなくても、彼が何をしたいのかはわかる。
銀色のボールを片手に、テーブルのそばに立つ彼。
そのボールの中身は、彼が味を調えた、ポテトサラダ。
それを取り分けていくのを確認して、わたしもパスタを分けていく。
麻衣はといえば…姫とコタツで遊んでいた
あのさ、本当に呆れちゃうんですけど。
炒めていたそのフライパンを水に浸けて、肩を降ろす。
全く、本当に何もしないんだから。
別にいいけど。
刻んだ海苔を最後に振り掛けて。
その皿を持って、移動する。
左手に一つ。
左腕にもう一つ乗せて。
右手で一つ持ちながら、左の二つを支えて。
そのすべてをコタツの上に並べて、踵を返す。
と、彼が右と左に一つずつ、ポテトサラダを盛った皿を手にして歩いていた。
ただ、表情は微妙。
「どしたん?」
「どうして、三つ持てるんだ?」
「高校時代のバイトの成果」
肩をポンッと叩いて、にっこりと笑顔で、答えは返した。
彼が持てなかった残り一つを持って戻る。
高校時代――彼がモデルとして通っていたスタジオの隣りの喫茶店『ALUCARD』でバイトしてた。
理由は一つ。
彼のそばにいたかったから。
彼をひとりにすることだけは、したくなかったから。
それなのに……心が動くことだけは、拒んだ。
「あの時はトレイ持ってただろ?」
「よく覚えてるね?」
「今も、時々行く」
「そっか。じゃさ、今度混んでる時に行ってみ? トレイの上に物を乗せるっていうの、結構面倒臭いんだよね、実は。で、そういう時、こうやってる子、いるはずだから」
笑って言って、腰を降ろす。
コタツは変わらず暖かくて。
知らないうちに、安堵の息を漏らしてた。
「んじゃ、いただきます!」
何もしなかった麻衣が、先に箸を付ける。
「…理不尽だ、絶対」
口に運んだその姿に。
素直に感想を述べれば、横から失笑。
それを睨めつけて、わたしも箸を付けた。
「さすが、玲だね。今日もおいしい」
「お褒めに預かり、光栄です」
「感情が篭もってない」
「何もしてない人間がそう言うのは、当たり前」
「…ポテトサラダもおいしいです」
「どうも」
「……クソ」
「だから言ったでしょ? 当たり前」
「……優しくない」
ぶつぶつと文句を零しながら、彼女は食事を進める。
「ど?」
「美味い」
「よかった。葉月くんもさすがだね。一人暮らし、今でもやってるんでしょ?」
「ああ」
「おいしいよ。いい感じ」
「どうも」
「さっきとセリフ一緒なのに、言い方が違ーう!」
「うるさいよ、麻衣!」
黙らせて、腰を上げる。
冷蔵庫へと歩いて、スポーツドリンクとコップを手に戻る。
すると、姫がにゃあ、と声を上げた。
「ごはん? 姫」
「にゃー」
「はいはい。どれがいいかなー?」
手に持っていたものを置いて、引き返す。
缶詰が詰まっている戸棚を開けて、膝の上に姫が乗ってくるのを邪魔せずに待つ。
何を食べるかを決めるのは、姫自身。
しばし待つ。
姫が大きく腕を伸ばして、わたしにこれだと示した。
「これ? これでいいの?」
「にゃーぉ」
「でもこれ、昼の時と同じのだよ?」
「にゃー」
「わかった。姫がそう言うのなら」
姫が降りる。
膝の上から重さがなくなって、わたしは姫専用の皿を取り出す。
蓋を開けて、中身を出して。
ついでのように、牛乳も別の皿へと注いで。
そして、二人の元へと戻った。
二つの皿を下へと置いて。
「どうぞ、姫君」
にゃ、と一言。
それに笑んでから、わたしは姫の邪魔をしないようにコタツへと入る。
「…何でわかるかなー?」
「姫のことだから」
「……あっそ」
「雪止むかな?」
「止まない方がいいな。で、明日積もってるのv」
「やめてよ。洗濯物、乾かないじゃん」
「夢がないなー、玲は。真っ白な上に最初に足跡、付けたくない?」
「付けたくない。何ならそれをずっと見てたい」
「………」
「仮初の綺麗さじゃん、あれ。太陽が出て、白がなくなったら、いつもと同じものが露になる。汚いものに蓋をしたって、その下に何があるのかを知っていたら、結局はそれだけのものだよ」
言えば、彼女はため息を吐く。
彼女に嘘はつけない。
ついたって…すぐにバレる。
「……深く考え過ぎ。玲はいつもそう」
「こういう風にしか考えられないもん、どうせ」
コップに注いだスポーツドリンクを呷って。
コップを置いて。
ちらっと彼を見れば、複雑な顔をしている。
そういえば、彼にこんなこと、話したことない。
麻衣にはしょっちゅう、してるけど。
「引っ越してから酷くなったよね、玲のそういう考え方」
「そうなのか?」
「そうですよ? 中学の頃は、そんなでもなかったかな」
「だっけ?」
「だよ。少なくとも、その時、一番最初に感じたことを否定するようなことはなかった」
「……かもしんない」
「否定?」
「否定です。同じようには見られなくなる」
彼の問いに答えて、麻衣はわたしに瞳を向ける。
時々。
本当に……時々。
麻衣の視線は鋭くなる。
逃げられないって思うぐらい。
怖い。
そう、思うぐらい。
「雪見て、最初はどんな風に思ってた?」
「――綺麗だなって」
「今日は?」
「降ってるの…見た瞬間?」
「そう」
「綺麗…だなって」
「なのに今は?」
「………」
「こうですもん」
彼の表情はますます険しくなる。
マズイって、麻衣。
これ以上はマズイ。
絶対マズイ。
彼は頭がいいんだから。
必ず気づく。
「年々、酷くなってるよ、玲は」
「――うん。自覚はしてる」
「…今の玲に必要なものも、ちゃんとわかってる?」
「わかってる」
「でも、手にしたくない…とか思ってる」
「………」
何も言えない。
やっぱり…麻衣は気づいてる。
わたしの心。
それが今、どんな状態なのか……気づいてる。
「部屋行くね」
片づけもせずに、彼女はそれだけを言い捨てて…部屋へと入っていった。
沈黙が降りる。
テレビの音が……少し煩い。
それに耐えられなくなって、わたしは立ち上がった。

NEXT

BACK

RETURN