夜は 結構好きだった

みんなひとりになるんだって
そう思ってたから

でも 実は違うんだって

今日
あなたに――

教えてもらった




綺麗な心の手に入れ方 〜 恋人 〜





壊れ物を扱うように、彼はわたしを抱き締めて。
わたしは…少し、笑ってた。
彼の背中に手を回して。
その広さに、ちょっと嬉しくて。
怖々と、身体を重ねられて。
わたしに掛かる、彼の重みでさえも…嬉しくて。
唇が重ねられて。
触れるだけのキスを……何度もして。
そのくすぐったさに、やっぱりわたしは、笑ってた。
「どうした?」
「聞いていい?」
「? ああ」
「何人、この腕に抱いたの?」
「………」
「わたし、何人目?」
別に怒らないから、言ってみ?
なんて、聞けば。
彼からの返答は簡単だった。
「忘れた」
そう言って、首筋に唇を寄せてくる。
「忘れた、だって。かわいそうに、葉月くんに抱かれた、女性の皆さん」
拒みながら、そう哀れんでみる。
と、彼は顔を上げて、わたしを見た。
彼は少し、怒った風でも。
わたしは笑っている。
「そんなに聞きたいのか?」
「何となく」
「おまえは?」
「? 何が?」
「俺は…何人目?」
真剣な顔。
この顔、結構好きだったりして。
瞳が微妙に揺れてるのが…わかる。
「こんなの、相手にしてくれる人見るの、初めて」
「……?」
「つまりね、わたし、彼氏いない暦、二十三年ってこと」
「………」
「よかったねー、玲ちゃん、バージンだよ?」
「……おまえな」
くすくす笑えば、彼は脱力したように、わたしの肩口に顔を埋めて。
仕方ない。
本当のことだし。
そんな彼の頭に、こつんと頭をぶつけてみる。
「嬉しくない? ずっと…好きだったってことなんだし」
「………」
「それとも、誰かにもらわれてた方がよかった? 遊んでた方が……よかった?」
「嫌だ」
「やっぱり、わがまま」
笑って、そのあとで。
ぎゅーって、抱き締める。
「大丈夫だよ。結構、麻衣に聞いて、知ってるし。それに、怖くないし」
「本当か?」
「本当。自分でも、びっくりしてる。かなり冷静」
「……無理…」
「してない。本当に」
腕の力を緩めるのと同時。
彼の頭が、上がっていって。
「キスは?」
「……あれが初めて」
「………」
「でもって、昨日のが、久しぶり」
「……そうか」
「嬉しい? ファーストキスも、バージンももらえて」
「嬉しい」
彼の顔が、降りてくる。
重なる直前、瞼を閉じた。
キスは、割とすぐに深くなった。
重なって、何度か…啄ばまれて。
彼の舌が歯列を割って…わたしの口腔内に侵入してきて。
絡められて、離れて。
口の中を探られた。
くすぐったくて、その度に……跳ねる身体を、わたしは抑えられなかった。
されるがまま。
だって、本当に知らないし。
初心者もいいとこ。
そんなわたしに、一つ一つを教えるように――彼は丁寧で。
優しくて。
「…んっ……」
甘ったるい声が、鼻から抜けていく。
そうやって、キスに長い時間を掛けて。
彼はようやく、唇を離してくれたけど。
その頃には……わたしの身体は、脱力し切ってた。
「反応が初々しい」
「…しょうがないでしょ……」
ほんのちょっと、顔を反らす。
何か、少しだけだけど。
ずるいなって思ってしまったから。
「どうした?」
頬に唇を落として、彼はそこで問い掛けてくる。
耳に直接入ってくる声にも、ピクンと反応する。
彼はくすくす笑って、唇を首筋まで――降ろしていく。
きつく吸い上げて。
襟元、少し広げて。
肩口にも、同じ痛み。
「何か、ずる……っ」
「どうして?」
「わたし、何も知らな…から」
「そうか」
「…んっ」
服の中、彼の手が入ってきてたのは知ってたけど。
いつの間に、ブラ、外したのか…わからない。
触れられて、揉みしだかれて。
胸の先、指の腹で押されて。
感覚全部が、彼の手に集中していく。
それが嫌で、口に自分の手の甲を当てた。
自分が自分じゃなくなっていくみたいな。
そんな感覚に耐えられなくなった…ていうのも、一つの理由。
だったんだけど。
「それ、禁止」
取られて、彼の背に回された。
代わりに、唇が押し当てられて。
深いキスと、胸を弄る手に。
すぐに、息は上がってくる。
服をたくし上げられて。
促されるままに、両腕を抜いて。
唇が離されて、頭を抜く。
彼の手がその服を掴むのと同時に、また唇が重なって、深くなって。
慣れって……不思議だと思う。
その頃には、胸に触れてる手よりも、唇の方に感覚が行ってた。
絡まってくる舌に応え始めてる自分がいて。
完璧に…わたしは彼に教わっているってわかって。
悔しくなって。
首に回していた手で、彼の服を手繰り寄せた。
そうしたら、わかってくれたらしくて。
彼は身体を離して…上に着ていたものを脱ぎ去った。
そのあとで…わたしの身体を、じっと見つめる。
「綺麗だな」
「…初々しくて?」
「ああ」
「誰にも蹂躪されてませんから」
「……どこから覚えてくるんだ? そういう言葉」
「わたしの職業、作家」
「……そうだったな」
額にキスされて。
その唇が…ゆっくり。
顔の輪郭を辿って、首筋を降りて。
胸に辿り着く。
背中に回されていた手で、少し、身体が反らされて。
わたしの胸の先は、彼の唇に隠される。
「あ、んん……!」
舌で嬲られて、わたしは声を上げる。
どうしたいのかも、よくわからなくなってきて。
手近にあった枕を掴んだ。
「禁止って言った」
手の甲、またわたし…口に押し当ててたらしい。
またそれを取って、彼は目尻にキスを落とす。
「だって……」
「ん?」
「何か…ヘン」
「それが普通」
彼はさらりとそう言って。
わたしが掴んだ枕を、わたしの頭の下に敷いた。
それの下に腕を通して、わたしはその縁を、また掴む。
上から見下ろされて。
わたしの息が整っていく。
前に、特に何もしていないって言ってたっけ。
思い出して、掴んでいない方の手を伸ばして。
彼の身体に触れてみた。
きちんと、男の人の身体で。
でも、綺麗で。
嬉しくて…目を細めた。
「好きだな、やっぱり」
「そうか」
「うん…。自覚したのね、高三の秋」
「秋……?」
「温水プール、行ったでしょう? 文化祭の、準備が始まる、ちょっと前」
「ああ、行ったな。二週間、拘束されるから…その前に遊びに行こうってことになって」
「うん。それまで何度か、君の身体、見てたのに……きちんとは、見たことなくて。でね、その日…ちゃんと見たの。肩幅広くて、胸板、きちんと厚くて。やっぱり、男の人なんだなって思った」
手を滑らせて、肩から腕までの輪郭を辿る。
「そう思ったら……何か、恥ずかしくなった。それまでは…友達だったのに、その時から突然、異性として……見るようになっちゃって。こんな自分、気づかれたくなくて。そうしたら、お姫様役でしょう? 冗談って、思った」
「玲…」
「綺麗で、そばにいられるだけでいいって思ってたのに。君に、彼氏が欲しいって言っておきながら、葉月くんのことは、別の扱いしてた。友達だった。男の子って、わかってたのに。つもりでしかなかったんだって、自覚した。でも……葉月くんのこと、男性として見始めたら、欲しいなって。彼氏として欲しいなって、そう考えるようになった。そうしたら…あれでしょう? 嬉しかったけど、君はやっぱり、綺麗で。わたしとは、違ったから。どうしても、怖くて」
「言っていいか?」
「何?」
「俺のこと、名字で呼ぶのも禁止」
早口でそう言って。
彼は、わたしの胸の…すぐ上の辺りに、唇を押し当てる。
また、痛み。
「んっ。どうしてそうなるかな?」
「友達じゃないから」
Gパンに手が掛けられる。
前のジッパーを降ろされて、ボタン、外されて。
「何て呼んで欲しい?」
降ろされて、脱がされて。
「名前」
腿に、手を這わされる。
くすぐったくて、身を捩った。
「けーくんって?」
ダメ出しするみたいに、彼の手は、わたしの足の付け根に触れる。
わたしの中心に。
ショーツの上から、軽く。
「んっ」
「禁止」
「昔は、そう呼んでた…っ!」
「これからは禁止」
「あ、ん…っ」
緩く、時に強くして。
彼の瞳は、わたしを見る。
枕に半ば、顔を埋めて。
快楽に抵抗し続けてるわたしを…見てた。
「や…、ダメっ……!」
「じゃあ、呼んで」
「あっ、やぁ…」
「玲?」
「いじ、わ…る…、んっ」
「いいから」
ふるふると首を振って。
枕を掴む手に力を込める。
もう一方の手は、シーツを掴んで。
足は何度も、シーツを蹴った。
彼の息だって、少しずつ上がってるのに。
まだ余裕っぽくて。
でも、それよりも、何よりも。
すべての意識が下半身に集中してて、嫌になる。
「ヤ、ダぁ…!」
行き過ぎた感覚に、涙が零れた。
その目尻に、キスされる。
彼が触ってるのよりも、少し下。
何かがわたしの中から流れ出ていくのが、わかった。
「玲」
「っ、…んんっ」
「呼んで」
「…ヤ、メ……っ!」
「呼んで、玲」
「ヤ、もう…、け、い……!」
「合格」
言うが早いか、すぐに指は離れて。
わたしは大きく、息を吸い込む。
と、途端に。
中途半端に熱が上がった身体は、すぐに快感を欲しがった。
それに…驚きつつ、身体を丸めて。
ベッドから降りた彼を睨む。
「どうした?」
振り返った表情。
嬉しそうだ、ものすごく。
「いじわる」
「かもしれない」
「かもじゃない。珪はいじわる」
「…そうだな」
すべてを脱ぎ去って、彼はまた、わたしの上に戻ってきて。
目尻に溜まった涙を舌で掬い取る。
もう、それにさえ、ピクンっと反応。
手に逆らわずに、足を伸ばせば。
ショーツが取られて。
曝されていることに、わずかに身体が拒否する。
「玲」
名前を呼ばれて、顔を上げる。
唇が重ねられて。
わたしは彼の首に腕を回す。
腰を彼の手が滑って。
噛み付くみたいに、キスをして。
彼の手が直に、わたしに触れて。
「んっ」
わたしの思考、そこへとまた、流れ出して。
彼の唇が、わたしの首へと埋まる。
「濡れてる」
「いじわ、る…したからっ、でしょう……!」
「そうか」
「は、ぁっ」
彼の肩に触れていただけの指に、力が入る。
枕を掴む手にも、力が入っていく。
「玲」
顔とか、身体とか。
唇を落とすたびに、彼はわたしの名を呼んでくれて。
「け、い…」
応えるように、嬌声の合間。
わたしも、彼の名を呼んだ。
「あっ、ん……んんっ!」
指が、わたしの中に入ってくる。
わたしの反応を見ながら、彼はそれを何度か出し入れして。
指を増やす。
中でバラバラに動かされて。
「ダ、メェ…!」
わたしは腰を逃がしたんだけど。
中を探られているのだから、逃げられるはずもなくて。
「け、いっ…、も、ダメ……!」
彼の顔、引き寄せて。
自分からキスしてた。
どうにかして欲しくて。
舌を絡める。
彼はそんなわたしの行動に驚いて固まってたけど。
「珪…」
名を呼んで。
キスをして。
「珪、おねが……」
両腕、彼の首に回して、キスをして。
そうしたら。
指を抜いて、キスに応えてくれた。
膝裏に手を差し入れられて。
唇を重ねたまま、掲げられて。
彼のそれが、当てられる。
「んっ、んんっ!」
入ってくる瞬間、身を引き裂かれるんじゃないかって思った。
でも、唇を離すことは許されなくて。
舌が、わたしを宥めるように、絡んでくる。
それを繰り返しながら、彼は少しずつ、わたしの中にその身を埋めていって。
わたしは痛みを耐えながら、彼の唇を貪っていた。
「大丈夫か? 玲」
全部埋め込んだあと。
彼は少し顔を上げて、そう、心配の言葉を綴った。
あ、息が荒い。
思って、安堵の息を吐く。
彼が中にいるのがわかる。
一つになってるのが…わかる。
嬉しくて、笑みを浮かべた。
「玲?」
「痛い」
「悪い」
「でも…嬉しい」
彼の頬。
指先で触れて。
首筋を撫でて。
「すごく、嬉しい」
唇を重ねて。
離れて。
抱き締めて。
「続き、しなくていいの?」
「……する」
キスをして。
彼が動き出す。
痛みはあったけど、それは少しずつ…別のものに摩り替わっていった。

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