いつか

ぴょんぴょんと飛び回りながら、彼女は移動を繰り返す。
それでも、それに飽きれば。
中央の止まり木で、小さく声を上げた。
見つめているのは、窓。
窓の…外。
「いいわよねぇ。広いし」
発して、息を吐いて。
「あたしも一度でいいから、あそこを思い切り飛び回ってみたいわ」
長々と息を吐く。
緩く首を振って。
そのあとで、翼を広げた。
ばさばさと音を立てて、少し、動かして。
「これも、何のためにあるのか、少し疑問よね」
だって全然、飛べないんだもの。
翼を畳んで、もう一度、吐息。
呟きは日増しに増えている気はする。
するけれど、止まらないのだから、どうしようもない。
なんて……彼女は考えて。
また、吐息。
「訴えたって、人間は全然聞いてくれないし。ただ、綺麗な声ね、とかって言うだけなのよ? 可愛いとか。それは嬉しいんだけど、そのおかげで、あたしはここから
出してもらえないんでしょう? だったらそれって、悲しいだけよね?」
青い空に瞳を向けて。
彼女は声を発し続ける。
たったひとりの部屋の中で。
「あたしを飼ってる人間は、自由にこの家から外へ出たり。この家に帰ってきたり。ずるいんじゃないの? それって。あたしはずーっと、この籠の中なのよ? 少しは
外に出してくれたっていいじゃない」
それからまた、小さな籠の中を少しだけ動き回る。
ばさばさと聞こえた音に、彼女は窓を振り返って。
自分と同じような姿をしたそれに、少しだけ魅入った。
窓のそばに羽を休めるようにして降り立った、白い姿。
けれどすぐに、彼女の姿に気づいたのか。
それは踵を返して、また飛び立っていく。
「何よ。笑わなくたっていいじゃない」
小さく零して、俯いて。
それでもすぐに、顔を上げる。
青い空を瞳に映して。
「どうせあたしは、飛べないわよ」
呟いて、雲を見る。
そのそばを飛んでいくものに、目を細めて。
「自由なんてものはないわよ。この中で出来ることしか、あたしには許されてないけど。だから、たった一つの自由は、歌を好きに歌えることぐらいよ。外でなんか歌ってたら、すぐに捕まってしまうもの。飼うことを目的としてる人間とか。あたしたちを食料にしてる、猫とか。だから、歌うことは、自由じゃないのよね。でもここなら、
自由だわ。それ……だけは」
ほぅ、と息を吐いて。
彼女は嘴で、身体を覆っている羽を整える。
「それに……ひとりだし」
ポツリと落として、もう一度翼を広げる。
「寄り添える相手もいないし。わがままを言うことだって出来ない。言ったって、ここの人間たちには届かないんだし。もう、言うだけ無駄なのかもね」
諦めの言葉を綴って。
彼女は気を紛らわせるように、歌い始める。
その時ばかりは、楽しそうに。
嬉しそうに。
飛びたいといくら思っても。
それを、届けられたとしても。
あの空の下を飛び回ることは、きっと許されないだろうから。
「その理由だって、わからなくはないのよ」
途中で、彼女は不意にそう、声を上げた。
「ひとりにされたくないんでしょう? 人間にそれを言えないから、あたしに頼るのよ。あたしをここに縛り付けてるの。かわいそうよね、そう考えると」
自嘲気味に笑って、彼女はまた、歌い始める。
そんな風に考えてないと、やってられないのよ、はっきり言って。
歌い終わって、そんなことを考えて。
彼女は空から目を背けた。
あの空を飛びたい。
でも叶わない。
叶うはずがない。
知っているから。
彼女はその願いを口にせずに、思うだけにした。
口にしたって、誰も聞いてくれないのなら。
言ったって、無駄なだけ。
「せめて、この部屋の中だけでもいいから、飛ぶこと、許してくれないかしら…」
口にして。
そのあとで、大きく頭を振った。
諦めたはずなのに。
思い直して、歌を歌う。
聞いてくれる人など、いはしないのに。
許されていることだけを、楽しむかのように。
「早く帰ってきてくれないかしら」
それだけを願って。
それでも、心の中では。
いつか。
そう、いつかでいいから。
あの空を、思い切り飛んでみたい、なんて。
口に出来ない思いを、抱きながら。
ただただ、歌を歌い続けていた。
時々、無意識に翼を広げて。
飛びたいということを、主張しながら。

おわり

 

第九回は鳥、です。
飼われてる、鳥。
小さな籠から出してもらえない、そんな鳥。

女性

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