上から下へ 下から上へ

山の頂上とか、街の高台とか。
そういうところから、海へ。
海へ海へ。
ぼくはただ、流れていくだけ。
自由なんてないよ。
ただ、上から下へ。
それしかできないんだから。
時々、ぼくの中で泳ぐ魚たちの声に、耳を傾けるんだ。
ぼくが流れるその速さと同じ速さで泳いでくれた魚たちの声だけ…だけどね。
冷たいね、とか。
暖かいね、とか。
そんな言葉が必ず落とされて。
そろそろここで止まろうか、とかって話をして。
彼らはどこかで止まってしまう。
泳ぐのをやめて、ぼくが流れていく、その方向に逆らって。
下から上へ。
それを少し羨ましく思いながらも、ぼくは流れていく。
上から下へ。
海へ向かって。
でもね、ぼくも下から上へと行く時があるんだ。
海へと辿り着いて、少しだけ漂って。
魚が自由に泳いでいるその姿を羨ましく思いながら。
僕はその流れに逆らうことを許されずに。
また……流れたり、漂ったり。
そうしていると、太陽がぼくらを引き上げるんだ。
みんなで一緒だったのが、たった一人になって。
淋しいなって思うけど。
すぐそばには、いてくれるから。
手を繋ぐことはできないけど。
それでも、誰かはいてくれるんだ。
だから、結構平気で、空を上へ上へと上がっていく。
広い空を旅して。
ぼくらはなぜか、白くなって。
今度は空を漂う。
その時にも、自由は許されない。
許されないけど、その時も楽しいんだ。
風がぼくらを運んでくれるから。
誰の声も聞けないけど、それでも。
青い空の中を漂ってるのは、好きなんだ。
でも、太陽の熱さには、声を上げたくもなるんだけどね。
そうやって、運ばれて。
少しの間。
長い間。
空を漂って。
そして、また。
地上へと下ろされる。
やっぱり、誰かと一緒がよくて。
誰かに触れていたくて。
手を伸ばす。
そうすると、そばにいた誰かも手を伸ばしてくれて。
手を取ってくれて。
誰かと一緒に、手を繋ぐ。
ほっとすると、太陽が。
下に下りることを、許してくれる。
山の頂上とか、中腹とか。
街の高台とか、住宅地とか。
田んぼとか、畑とか。
そういうところに下ろされて。
土の中とか、アスファルトの中とか。
そういうところを通って。
みんなと一緒に、通って。
小さかったり、大きかったり。
そんな川に、合流する。
時々、どこにも行けなくて。
太陽が引き上げてくれるのを待ってる時がある。
下りることを許されなかったみんなを風が運んでくれて。
そして太陽がすぐに、僕らを見つけてくれて。
照らしてくれて。
引き上げてくれる。
そしてまた。
ぼくらは空を旅するんだけど。
とにかく今は、海へと流れている最中。
魚たちの声に、時々耳を傾けて。
そして時々、その途中で太陽が空を漂いなさいって、言って。
一人になっちゃう時もあるんだけど。
今回は大丈夫かなって。
そう、思うんだ。
流れていくぼくらの上には、木々。
緑がいっぱいで。
太陽の姿は、全然見えないから。
この森を抜けるまでは、とりあえず、みんなと一緒。
上から下へ。
海へ海へ。
みんなと一緒。
はらはらと落ちてくる葉っぱを、みんなで運ぶ。
何だかわからないものも、時々。
みんなで運ぶ。
魚たちにとって。
それが有害かなんて、わからないけど。
わからないからこそ、ぼくらは海へと運んで。
人間たちが騒ぐのを、ただただ待ってる。
そうやって、海へと流れて。
太陽に引き上げられて。
今度は、下から上へ。
空へ空へ。
たった一人。
たった一人で、下から上へ。
いつだって、自由は許されないけど。
いつだって、流されているだけだけれど。
楽しいことには、変わりないんだ。
でもね、やっぱり。
時々、ぼくらの上に落ちてきたものを運んでいる時が。
実は一番。
そう一番。
みんなと遊んでいられているようで。
楽しかったり、するんだよ?

おわり

 

八回目。
川でなく、海でもなく、『水』です。
しかも、分子レベル(?)。

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