| 簡単なこと 続けよう? 「どれぐらい経った?」
僕は声を投げる。
「ねぇ? もうどのぐらい経った?」
返事がなくて、僕は少し、不審に思う。
「ねぇ、返事をしてよ!」
閉められた窓。
それでもその隙間から入り込んでくる風に身を任せて、僕は身体をガタガタと揺すった。
まさか、なんて言葉が、一瞬。
目の前を横切る。
まさかまさかって。
何度も思う。
そんなわけないよね?
ウソだよね?
泣きそうになりながらも、僕は声を投げる。
「ダメだよ! 待とうよ! きっと、誰かが来てくれるよ!」
そう、何度も何度も。
「大丈夫だよ! 待とうよ!」
「…待って、誰が来てくれるって言うんだよ」
ようやく返った言葉にほっとして。
けどすぐに、僕は口を開いた。
「誰って…わかんないけど。そんなことわかんないけど。待とうよ!」
「あんたはそればっかりよね。他に言うことはないの?」
時が経ってしまった所為で、白くくすんでしまった顔で、窓がぼやく。
他に言うことなんかない。
だって、他の言葉を言ったら、そっちに流されちゃうじゃないか。
朽ちていくのは嫌だよ。
だって、誰かが来てくれるかもしれないじゃない。
「誰も来ねぇよ。こんなボロ家」
「そうよねぇ。あたしもすっかり汚くなっちゃってさ。誰か、綺麗に拭いてくれないかしら」
「掃除して欲しいよなー。砂とか入り込んでて、埃っぽくて」
「だから、そのためにも……!」
「でも、誰も来ないわよ」
「………」
「そろそろ諦めようぜ? そしたら楽になるしよ」
言われて、僕は黙る。
楽になる?
朽ちてしまうことが?
僕の身体は木で出来ているから、きっとすぐにダメになるよ。
そうなったら、待つことも出来なくなる。
あの笑顔も、もう見られなくなる。
声も聞けないし。
涙も。
怒った顔も。
見られなくなる。
そう。
僕を開けてくれることで、誰かの表情が変わるその瞬間も、見られなくなるんだ。
それは嫌だ!
一番嫌だよ!
「ダメだよ! がんばろうよ!」
「おまえな……」
「だって、この家からあの家族がいなくなった時、言ったじゃないか!
すぐに次の家族が来る。すぐにおまえを開けてくれる人が現れる。待
ってやろうぜ? って」
「………」
「けど、誰も来ないじゃない!
あたしだって待ってるのよ!?
あたしのことを開けて、この家に風を送り込んでくれる人のこと。綺麗な色のカーテンを掛けてくれる人のこと。けど、誰も来ない。あれからもう、何年よ?」
「それは……」
「もうコリゴリよ! 信じたって、答えてくれる人がいないんじゃ!」
その叫びに、僕はまた黙る。
声はない。
僕は考える。
だってさ、待つことをやめて、朽ちてしまったらどうするの?
もしその時に、誰かが来たら、どうするの?
きっと僕は使ってもらえないよ。
新しい誰かに変えられちゃう。
僕は何になるの?
僕は今の僕の仕事がとても気に入っているのに。
「……僕は、一人でも待つよ」
小さく呟いて、僕は息を吐く。
「今まで出来たんだ。これからもきっと出来る。だって簡単だもん。待つだけだよ?
続けられるよ」
「おまえ……」
「僕は僕としてのこの仕事が好きだから。今の僕が好きだから。だからがんばるよ」
「………」
「だって、朽ちてしまったら、僕はきっと、僕じゃなくなるよ。ここにだって、いられないよ。誰かが来たら、僕はきっと、ここから退かされて。ここには別の誰かに取って代わる。それは一番嫌だから」
僕だけでも、がんばる。
届けて、僕は黙る。
ただ待つだけ。
それがどんなに大変かは、知ってる。
けど、どんなに簡単かも、僕は知っているから。
一人で決意すると。
ふぅ、なんて吐息が聞こえた。
「付き合ってやるよ、しゃーねぇからな」
なんて、声も同時に聞こえた。
「また待つの? 別にいいけどさ、一人じゃないし」
「来るかもしれないし、来ないかもしれない」
「一日一日、期待込めて?」
「そうそう」
うんうんって頷いて。
別のことを話し出す。
あの時から、いくつの季節が過ぎたのかは、僕はわからないから、教えてもらうしかないんだけど。
とにかく今は、そんなことよりも。
誰かが僕のことを開けてくれるのを、待っているんだ。
だって、簡単なことだしね。
おわり
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