小さな小さな 演奏会

「ほら! 何ぼさっとしてんだよ!?」
言われて、顔を上げた。
正確には、僕に言われたものじゃなかったんだけど。
気になったっていうのも、あったから。
「もうすぐリハーサルなんだぞ?」
「わかってるわよ。けど、どうしてもうまくいかないの」
「貸してみ? あー、確かになぁ……」
僕が見に行っても、出来ることはないのを知っているから。
僕はまた、手元へと視線を落とす。
あそこは鈴虫さんたち。
僕らはコオロギ。
違うからね、パート。
考えながら、僕は自分の楽器の整備を進めていく。
日が落ちたら、演奏会。
この森に住んでるみんなが聞きに来るんだ。
来られないからって、風さんたちに頼んで、音を運んでもらってる人もいる。
途中、人間の家の前を通ったよって、教えてくれる風さんもいる。
人間たちも、僕らの演奏には、耳を傾けてくれているんだって。
何だか嬉しいよね? そういうの。
「人間にわかんのかよ? 俺達の高尚な音楽が」
って言ったのは、鈴虫さんたちのリーダー。
さっき怒鳴ってた人。
「そうとは限らないわよ? 人間たちだって、音を奏でるんだから。そんなことより、私たちの音楽は人間にまで評価されているってところに、目を向けるべきよ」
そう言ったのは、くさひばりさん。
僕らの演奏会に一人だけ参加してる、くさひばりの女の人。
まぁ、彼女以上に綺麗に演奏できるくさひばりっていうのもいないんじゃないかなって、僕は思ってる。
「風さんたちの話じゃ、嫌がってないみたいだったって」
「ほら見なさい! 人間たちだって、私たちの音楽で心を癒しているのよ」
僕が言ったことに、くさひばりさんは鈴虫さんに誇らしげに言葉を繋げて。
「夏はセミたちの独壇場でしたからね」
カンタンさんたちのリーダーが声を落としてくる。
それに続いたのは、かねたたきさん。
「あいつらは団結力も何もないからなぁ」
「それに、人間たちも嫌な顔してるよね?」
「そうね。ただやかましいだけだもの、あの人たち。ただ自己主張が強いだけ。音楽なんて、呼べないわよ」
「でもこれからは、俺達の出番だよな!」
「そうですね。頑張りましょう。僕らの演奏を聞いてくれる方々のために」
「そんなのは当たり前なんだよ!」
かねたたきさんがそう締めくくって。
僕らはこうして、準備をはじめたわけで。
そこかしこから、調音している音が響いてきて。
僕もそれに加わるべく、音を奏でた。
こんなものかなって、思ってたら。
「おにーちゃん!」
「ん?」
今日から参加してる妹が、僕の方に楽器を差し出してきた。
きちんと整備されているように見える、それ。
「どうした? ちゃんと出来てるじゃないか」
「………」
「やめたくなった、とか?」
言えば、妹はしゅんっと頭を下げた。
多分、プレッシャーに負け始めているんだろう。
もしくは、さっきの鈴虫さんの大声に脅えてしまったか。
どちらかかもしれないし、どちらでもあるのかもしれない。
そう思った。
「自分で参加したいって言ったんだろ?」
「そうだけど……」
「それに、楽しめばいいんだよ。楽譜なんてどこにもない。自分が出したい音を、その時その時に出せばいいんだ。フォローはみんなでしてくれるし」
「………」
「じゃ、僕の隣りで演奏するか? 心細いなら、僕と同じ音を出せばいいよ」
「ほんとう?」
頷けば、妹は嬉しそうに笑って。
隣りに腰かける。
「その代わり、慣れてきたら自分の音を出すんだぞ?」
「はーい!」
手を挙げて、妹はそう答えてくれた。
嬉しそうに音を出し始めた妹に笑って。
それから、周りへと視線を向けた。
さっき怒鳴ってた鈴虫さんも、今は何ともないのか、一人一人を見て回っていて。
くさひばりさんは、木の上で、僕の視線に気づいたのか、にっこり笑ってくれた。
いつでもいいわよって言われてるみたいで、僕は微笑を落とす。
そこよりも高い場所では、かねたたきさんがもうスタンバイしていて。
カンタンさん、松虫さんたちも、僕を見ていた。
もうすぐ日が沈む。
僕は立ち上がる。
「じゃあ、はじめるよ」
「リハーサルをな」
鈴虫さんに言われて、僕は一度、しょげたけど。
リハーサルだったはずが、そのまま演奏会になってる、なんてことは、もう何度もあったから。
僕は一際大きな音を発した。

おわり

 

第二回。
今回は『虫』。
頼りなく見えるけど、実は中心人物な、コオロギさん(笑)。

女の子

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