笑顔の花

声は聞こえるけれど、目の前は真っ暗で。
わたしの頭を撫でる、暖かなものもわかるけれど。
やっぱり…真っ暗で。
今度明るくなったら、瞼を上げよう。
そう、思うのだけれど。
声とか、暖かなものが、遠く感じてしまったら。
そんな気も、失せてしまうの。
暗くなった、瞼の向こう。
たった一度でいいから。
わたしが瞼を上げる、そのことを待っていると。
そう、届けてくれるだけでいいのに。
でも、そう思ってるのはきっと、わたしだけで。
だからわたしは。
次の時こそって思ってる。
誰も待っていてくれなくてもいいから。
とにかく、次の時は。
自己満足でもいいからって、そう……思ってる。

たくさんの足音と。
声と。
それが笑い声なのだと気づくまでには、そんなに時間はかからなくて。
それでも私に触れる手はない。
向けられる視線でさえも、あまりない。
綺麗だとか。
可愛いだとか。
それらはすべて、私に向けられたものではないことは、知ってる。
知っているから、悲しくなるの。
もし今、瞼を上げたとしても。
私に興味を持ってくれる人はいるんだろうか、とか。
私を見つけてくれる人はいるんだろうか、とか。
そんなことを考えてしまったら。
瞼を上げることすら、嫌になってくる。
怖くなってしまう。
だから。
待っていてくれている人が、一人でもいるなら。
それがわかったなら――。
なんて、ずっと思ってたのよ。
でも、でもね?
今は違うの。
瞼を上げたことで、きっと誰かの目には留まるわよ。
私はそう、信じているから。
次の時、光が射した時にはって。
そう…思っているの。

風が優しく、頬を撫でていく。
まだ咲かないのーって、声を掛けていってくれる。
周りの仲間たちでさえ、早くって、言ってくれる。
雨が降れば、緑色の腕で、屋根を作って、かばってくれるし。
強い風が吹けば、壁になってくれる。
それで。
頑張って綺麗に咲いてね?
なんて、言われてるの。
そう。
あたしに向けられてるのは、たくさんの視線。
期待に満ちた、そんな視線。
でも、知ってる?
それが今は、不安に変わってるの。
無言の、圧力。
それにあたしは今、押しつぶされそうになっていて。
だからあたしは、瞼を上げることができないでいる。
綺麗じゃなかったら、どうしよう。
みんなをガッカリさせてしまったら、どうしよう。
そんなことばかりを、考えてしまって。
小心者って言う?
臆病だって、そう言う?
だけど、仕方ないのよ。
みんなのことを考えたら。
みんなの期待を、裏切りたくはないから。
……でも。
それでも。
このままってわけにはいかないと思うの。
みんながかばってくれるのは。
わたしが瞼を上げるのが、苦じゃないように。
良かれと思って、やってるんだもの。
やってくれているんだもの。
あたしがどんな思いを抱いているのかなんて、気づかないままで。
だから、どんな形であれ、瞼を上げようと思うんだ。
今は真っ暗だから、夜でしょう?
もう少し時間が経って、朝日が射して、明るくなったら…。
あたしは瞼を上げようと思う。
明るく…なったら。


地平線の向こうが明るくなって。
そこから朝日が顔を出す。
それを合図に、いくつの瞼が上げられたかはわからないけれど。
とりあえず。
笑っていられていればいいな、なんて。
初めて見た青空の下で。
風に逆らわず、身体を揺らせて。
僕はただ、笑ってた。
真っ暗な世界から、明るい世界へと出てこられて。
何だか嬉しいのもあったし。
楽しいのもあったし。
それに、笑顔の花の種は。
その花を見た瞬間に、蒔かれて。
すぐに芽を出して、花を咲かせるってことを、知っているから。
僕の笑顔を見て。
誰かが目に留めて。
そして、微笑んでくれるように。
それを、願いながら――。

おわり

 

十五回は花。
題名で苦しんでおりました。

あと一回だぁー…。

人形

男子高校生

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