ありがとう

あたまをなでられて、ぼくは笑う。
かるくたたかれても。
つよくたたかれても。
かべになげつけられても。
ぼくは笑ってる。
それしかできないから、なんだけど。
でも、ぼくのこのひょうじょう。
それで怒られたことはないんだ。
べつのことで怒って。
そしてそれを、なにもできないぼくにぶつけてくる。
ぼくは笑うことしかできないから。

「聞いてよ!」
とびらをあけるなり、リンちゃんはそうこぼした。
それに、こころのなかでくびをかしげて、どうしたの? って、ぼくはきく。
かばんをつくえのうえになげおいて。
リンちゃんはぼくへとてをのばした。
ベッドのうえの、ぼくへと。
あさおきるとかならず、リンちゃんはここに、ぼくをおく。
ぎゅっといちど、だきしめてから。
「先輩にダメ出しされちゃった! あたしがやったんじゃないのに」
ちいさくほおをふくらませて、リンちゃんはぼくをだきしめる。
ぼくのあたまのうえに、あごをのせて。
そうかとおもうと、ほおをすりよせてきたりして。
おちついてきたのかな?
おもいつつ、つぎのことばをまってみる。
「でも…あたしも悪いのかな。知ってて、止めなかったんだし」
ふぅ、といきをはいて、リンちゃんはぼくからかおをはなす。
ぼくをすこしだけ、うしろへとたおして。
ぼくのかおを、じっとみて。
それから、ふっと笑ってくれた。
あたまをなでてくれて。
もういちど、だきしめて。
「おまえには、嫌なことってないの?」
きかれて。
ちょっとだけなやむ。
いやなことはあるよ。
ぼくのこえがリンちゃんにとどかないこと。
それから。
リンちゃんが悲しいときに、いっしょに悲しんであげられないこと。
リンちゃんが楽しいときには、いっしょに楽しんであげられるのに。
リンちゃんがなやんでいるときに、いっしょになやめないことが…いやなんだよ?
ぼくをみさげてくるひとみをじっとみて。
ぼくはそう、こころのなかで、ことばをつむぐ。
けど、でも。
ぼくのことばはけっして、リンちゃんにとどくことはないから。
かおで笑いながら、ぼくはこころのなかで悲しんでいた。
「――話せたらいいのにね?」
ふいのことばに、ぼくは驚く。
「あ、でも。そうしたらいっぱい、文句言われちゃうかも。あたし、嫌なこともいっぱいしたもんね?」
そんなことないよ?
しかたないって、わかってる。
そりゃときどき、酷いなーっておもうこともあるけど。
いたかったりすることも、あるけど。
ぼくにはなぐさめてあげることもできないから。
しかたないんだよ。
そう……おもってるよ?
ぎゃくに、ぼくがリンちゃんにつたえたいのは。
『ありがとう』のそのことば。
たくさんのなかまたちがならんでいたあのたなから。
リンちゃんはぼくをみつけだしてくれたから。
でもどうしてぼくだったの?
って、きいてみたいきもするんだけどね。
でもやっぱり、『ありがとう』はいうね?
ぼくのことをだきしめてくれて、ありがとう。
そう、いうね?
リンちゃんがおもっていることを、ぼくにはなしてくれて、ありがとう。
そう、とどけるね?
やさしいてで、ぼくをなでて。
リンちゃんは笑ってくれた。
「友達って言ってくれたら嬉しいな。いっぱい文句言ってくれてもいいから、一番の友達って」
いうよ。
ぼくだってそうおもってるもん。
だれかにひどいあつかいをされそうになったとき、リンちゃんはぼくをまもってくれたから。
ぎゅうっとだきしめてくれて、リンちゃんはぼくをベッドのうえへともどす。
それからいちど、ぽんっとあたまをかるくたたいて。
「ご飯、食べてくるね?」
そういって、へやからでていった。
ともだち……なんだね、ぼくは。
リンちゃんにとって。
かんがえながら、ほっとしてた。
おとうとだったら、ぼくはリンちゃんのいうことをきいて、あたりまえ。
だけど、ともだちだったら。
ぼくはもんくもいえるもんね?
リンちゃんがでていってしまったとびらをみながら、ぼくは笑う。
いつだって、ぼくは笑ってる。
リンちゃんが笑ってくれるように。
ねがいながら、ぼくは笑いつづけてる。

おわり

 

十四回目は人形。
というより、ぬいぐるみかもしれませんね。
樹の部屋にも、たくさんぬいぐるみはありますが。
みんなから文句言われそうだな……(苦笑)。

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