まだ

声を掛けられて、手を挙げる。
じゃあなーなんて、言葉を返して。
寄りかかっていただけだった机に、座った。
今日は土曜日で。
このあとどこへ行くかとか。
明日、どこに行こうかとか。
そんな話をするため――でもないけれど、いつものメンバーが、放課後の教室には残ってた。
「そういやさ、彼女、できたんだってな」
前振りもなく出されたネタに、全員が反応を示す。
俺も例に漏れず、目を見開かせたけど。
「まぁなー」
って、答えたヤツの、あまりの代わりの無さに、息を吐いた。
わずかに苦笑を滲ませて。
「またかよ」
「もしかして、また同じか?」
「そ。告白されたから、いいよって」
「ずっりー。おまえばっかじゃん」
「どうせまた、すぐにフラレるんだろ? 思ってたのと違うーとかって言われて」
「だと思うけどさ。にしたって、必死になってんの見たら、カワイイって思うじゃん」
「――来る者拒まず」
「去る者追わず?」
「今はそんな感じ」
「「「サイテー」」」
一斉に言って、笑う。
言われた奴も笑ってて。
それでもすぐに、ふっと笑いを押し込めた。
気づいて、全員が笑いを止める。
「どうしたよ?」
声を掛ければ、奴は「うん」って短く頷いた。
他の奴等は顔を見合わせていて。
そんな中、ゆっくりと口を開いてくれた。
「どうもよく、わかんねぇんだよな」
ポツリとそう、呟いて。
「わかんねぇって、何が?」
「気持ち?」
「…何の?」
「自分のか?」
「違うよ。自分のはわかるけど。もちろん、相手のだってわかるけどさ」
「んじゃ、何だってんだよ?」
会話の流れを、口を挟まずに見守ってみる。
「好きって気持ち…かな?」
落とされた言葉に、俺はやっぱりなーなんて思ったけど。
他の二人は呆れてた。
「はぁ?」
「おまえ、人を好きになったことあんのか?」
そんな風に。
「じゃあ、おまえはわかるのか?」
「わかるよ。好きってそんなん、一つじゃん」
「何だよ?」
「ヤリたい」
「……即物的なヤツー」
「違うのか? 普通だろ?」
「ヤれればいいのか? おまえは」
「とりあえず」
「それって違くねぇー?」
「違くはないだろ?」
「おまえは?」
「オレは守りたいとか、そういうのだと思うけど」
「それだけじゃ意味ねーだろ?」
「おまえは少し、黙っとけ」
「だってそうだろ? 好きなら、触れたいだとか思うのが普通じゃん」
「それも思うけど、やっぱり守りたいかなー? オレは」
「幼稚」
「だから黙っとけって」
「そういうおまえはどうなんだよ?」
返されて、一瞬黙り込む。
それから、難しいなってぼやいた。
反応したのは、わからないと言っていた、目の前の奴。
「難しい?」
「ああ。俺はどっちもあると思うよ。触れたいっていう欲情も。守りたいっていう、祈りみたいなものも」
「うまく逃げやがって……」
「違うって! だってそうだろ? ヤリたいって、おまえは言ったけど。でも現にそうなったら、出来るだけ傷つけたくないって思うだろ?」
「…だなー」
「結局それは、守りたいってことに繋がるだろうが」
だから難しいって言ったんだよ。
言えば、それぞれに考え込んで。
そしてみんな、「確かになー」って、零した。
「相手の幸せを願って。同時に、自分のも願う。……あーでも、相手のと自分の欲求を満たせたんなら、それはもう恋じゃなくなるしなー」
考えながら、天井を仰ぐ。
と、深いため息が横から聞こえた。
「ん? どうした?」
「おまえさ、本当は年、ごまかしてんだろ?」
「ごまかしてねぇよ」
「じゃあ、年上の彼女がいたり?」
「いるわけねぇだろうが!」
いたらこんなとこにいねぇよ!
思いながら、腰を上げる。
話が別の方向に向いたんなら、ここにずっといる理由もない。
「どこ行くかー?」
「ゲーセン」
「そればっかだな、おまえ」
追い抜いて、先行して歩いていく二つの背に付いて、足を運んでいく。
そんな俺の隣りから、その声は聞こえた。
「オレ、まだ…そんな感情、抱いたことないなー」
「ま、そのうちだろ」
短く答えを返して、視線を前方へと向ける。
俺の言葉に、にっと笑って。
早く会いたいなーって、声を上げてた。

おわり

 

ラスト、十六回は、高校生です。
テーマを何にするかで酷く悩んでみたり。

とにかく、『綺麗な心の手に入れ方』の中で玲が書いたとされる小説。
これで全部です。
この先は題材を決めていないので、書けません!(きっぱり)

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