| オモイ 「どこに行こうか?」
そんな声に、振り向いた。
立ち止まらずに、進んだままで。
「どこだっていいじゃない」
言いながら、器用に木の枝の間を擦り抜ける。
「オレは向こうに行くけど」
「わたしはあっちよ? 花畑があるの。そこで少し、遊びたいから」
「あー! あたしも行っていーい?」
「じゃあ、一緒に行きましょ?」
「うーん!」
「それじゃ、僕はこのまままっすぐに行こうかな」
ボーッとしながらそう言った彼に、わたしは一つ、息を吐く。
なぜだか、とても心配。
けれど、そう思っていたのは、わたしだけじゃなかった。
「変なのにつかまんなよ?」
発された言葉に、くすりと笑う。
「どういう意味?」
「聞いたままだと思うけど?」
「あたしもそう思うー」
「……?」
「だってだって。この前ー、ヘンなこと聞いてきたじゃなーい」
「そうだよ。アレには笑ったよなぁ」
「だってさぁ…」
思い出したのか。
彼は大きく肩を落として、速度を緩めた。
から、わたしたちも同じように速度を落とす。
「あきらめればよかったんだよー。あたしたちが運べるものなんてー、かぎられてるもーん。ねー?」
「そうね」
「けどさぁ」
「第一、オレらが何を運ぼうと勝手じゃん?
なのに、あんな声に耳を傾ける方がおかしいんだって」
「………」
また速度を緩めようとした彼の手を捉えて、わたしたちは進む。
けどね?
彼の気持ちも、わからなくはないの。
とても切なげに言葉を綴られると。
どうにかしてあげたいって思っちゃうものね。
でも、だからって。
わたしたちには、どうにも出来ないのだけれど。
わたしたちが運べるものなんて――限られている。
人間たちだって同じでしょう?
形のないものを、どうやって運ぶのよ。
それに……どこに何があるのか。
誰がいるのか、なんて。
いちいち覚えていられないし。
どこをどう通ったか、なんて、第一覚えてないのよ、わたし。
みんな…一緒だとは思うんだけどね。
「勝手だよねー、人間ってさー」
呟かれた言葉に、目を細める。
彼を見れば、まだ項垂れていて。
「あたしたちが何でもできるって思ってるんだもん。そんなわけないのにねー?」
「立ち止まれば消えるもんなぁ、オレら」
「完璧なものなんてないのにね。まぁ、それを求めちゃう気持ちも、わからなくはないけど」
「でもぉ、それをあたしたちに求められてもーって、思うよねぇー?」
「そうね」
「だからさ、一人で考えて、無理だと思ったら、諦めろよな?」
オレらは単独行動が基本なんだしさ。
発された言葉に、少し考えたあとで、頷いて。
それでも彼は、顔を上げなかった。
自分のその力の無さに、呆れているのかもしれないし。
悔しさを噛み締めているのかもしれない。
「今度、いつ会えるかー、なんてわからないしねー」
「オレら自身な」
「どこをどう行くかなんてー、勝手だしぃー?
だからぁ、会えると嬉しいよねー?」
「だからって、ずっと一緒にいることは出来ないけどね」
「そういうこと。確かに、オレらが全員集まれば……っていうことを考えちゃうのもわかるけど」
「でもでもぉ、いつ会えるかわかんないんだもん。それまでにはその人間の心も変わりかねないしぃ?
だからぁ、考えるだけ、ムダなんだよねぇー」
「そう…だね」
まだ諦めがつかない表情で、彼はそう言って。
それから、わずかに顔を上げた。
悲しそうな表情に、わたしも少し、気持ちが暗くなる。
「んじゃ、オレはそろそろ抜けるぞ?」
「じゃあ、わたしたちもこの辺りで」
「あんまり行くと、花畑、わからなくなっちゃうもんねー?」
「そういうこと」
「わかったよ。じゃあね」
言葉を交わして、別れて。
またどこかでねー。
なんて声を、隣りで聞いて。
わたしたちは速度を上げる。
振り返ったそこには、彼がゆっくりと、進んでいるのが見えた。
花の間を擦り抜ける。
いい香りがする中、わたしたちは笑っていたのだけれど。
それでも、ふっと、彼のことを思い出していた。
「立ち止まってなければいいねー?」
言葉に、顔を向ける。
ふふっと笑っていた彼女に。
苦笑気味に、そうね、と零した。
それはつまり、消えてしまうことを選んでなければいいね、ということ。
わたしたちがわたしたちであることをやめてしまえば。
そんな悩みに捕らわれることはなくなるかもしれないけれど。
知っている仲間がいなくなるのは、やっぱり悲しいから。
「気持ちなんてー、自分で届ける以外、方法がないのにねー」
頷いて、息を吐き出す。
「がんばってねー?」
「え?」
驚いても、彼女はくすくすと笑っているだけで。
わたしはただ、首を傾げ続けていた。
おわり
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