小さな声に、足を止めた。
振り返ったそこで見た姿に。
なぜか……笑ってた。
優しい気持ち
撮影が早く終わった、その日。
彼はゆっくりと、道を歩いていた。
季節はもう、秋だけれど。
まだ秋には、暑いと思える、そんな日の午後。
通りかかった公園からは、子供たちの声が、楽しそうに響いてきて。
彼はわずかに、その中へと視線を移した。
もちろん、その中に、顔見知りなどいなかったけれど。
すべり台で、きちんと順番を待っている子供たちに、なぜか自然に、笑みが零れる。
そばに、彼女はいないのに。
たったひとりでも、笑えるというそのことが。
どんなに、自分が変わったのかを、示していて。
彼は小さく、息を吐いた。
笑みは…そのままで。
持っていたバッグの中から、携帯を取り出して。
彼女にかけてみようかと、考える。
これから会うことは、きっと、無理だろうから。
約束している、今度の日曜日のことでも、話そうか。
そんなことを、考えて。
けれど。
「あ、おにいちゃん!」
背中にと届けられた声に、彼は眉根を寄せて。
振り返ろうと、首を回した瞬間。
袖をくいっと引っ張られた。
そのことに、彼はそこへと、視線を滑らせる。
「おまえ…」
「かえるの? あそばないの?」
人形を抱えた女の子には、見覚えがあって。
彼は笑みを浮かべて、身体を屈める。
首を傾げた少女の頭の上に、ぽんっと手を乗せて。
「けがは? もう平気なのか?」
「うん! もうなおった!」
「そうか」
「だからね? こうえんにあそびにきたの。おともだちに、あそぼうっていわれたから」
「…そうか」
「おにいちゃんは? もうかえるの?
あそびにきたんじゃないの?」
「………」
「?」
また、首を傾げられて。
彼は少しの間、考える。
べつに、帰ったとしても…用事はない。
けれど、ここで、子供に混じって遊んだとしても……邪魔にならないだろうか?
「俺が行っても……大丈夫なのか?」
彼の言葉を待っていた少女に言えば。
少し大きく、目を見開いて。
「うん」
簡単に、そう答えを返した。
「みんな、やさしいし」
「………」
「それに、おにいちゃんもやさしいし。みんな、すきになるとおもうよ?」
「…そうか?」
「うん! だから、いっしょにあそぼ?」
差し出された手に、小さく息を吐き出して。
彼は立ち上がる。
それから、バッグを肩にかけ直して。
出していた携帯も、バッグへと仕舞って。
少女の手を取って。
公園へと、踵を返した。
「そう言えば、おまえの名前、聞いてなかったな」
「ゆめちゃんのなまえ?」
「ユメって言うのか」
「うん! おにいちゃんは?」
「珪」
「けい? けいおにいちゃん?」
「ああ」
「………」
「どうした?」
「…おにいちゃんってよんでいい?」
つぶらな瞳に見上げられて。
彼は小さく、笑みを零す。
それから、肯定の答えを返した。
彼女がいなくても、こうして笑えている自分が、とても好きだと、そう思う。
彼女に話したいことが増えたな、と。
彼は、子供たちの様子を見ながら、思っていた。
END
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