彼女に会えなくなると わかっていたから
必死だった

なのに 彼女から渡された言葉に
俺は奥歯を噛み締めることしか
できなかった




Truth 〜 downfall 〜





走って去っていった、その背中を追いかけることもできずに、俺はぼんやりと、扉を見続ける。
俺を彩るのは、ステンドグラスを通って色づいた、光。
何度となく、夢に見て。
何度となく、思い出していた。
その教会の内部に、視線を巡らせて。
俺は大きく、肩を落とす。
言いたいことはあったのに。
そのどれをも、彼女には届けられなかった。
言わせて、もらえなかった。
ぎゅっと手を握って。
えんじの絨毯に、視線を落とす。
彼女はここで、何を考えていたんだろう?
俺と一緒だったことを、思い出したのに。
それが俺であったことを、思い出せなくて。
思い出して、もらえなくて。
それが俺だったのだと、伝えることさえ、許されなくて。
考えて、ゆっくりと足を踏み出す。
彼女を追いかけるように、ではなくて。
遠ざかるように、ステンドグラスの前へ。
泣きそうな表情だったのは、見間違いではないと、思いたい。
無理して笑っていたのだと、そう…思いたい。
それでも、もう。
俺に触れてくれる、手はなくて。
腕に下がっていた、その重みでさえも、もう…なくて。
俺の名を呼んでくれる声でさえも、この先、もう…ない。
見上げていたそれから、視線を逸らして。
できることなら、叫びたかったけれど。
そうも……できなくて。
幼い頃の忘れ物を。
そのままに。
俺は、踵を返した。






あれから、どれほどの時間が経ったのかと聞かれたら、すぐに答えることはできるけれど。
それでも、口篭もるのは、仕方のないことなのかもしれない。
彼女のあのわがままを、受け入れて。
俺はまた、少し変わった。
「あ、葉月くん」
誰だ…?
思いつつも、そばへと歩いていく。
言われることは、わかっている。
たぶん……。
「ね? このあと、暇?」
目の前に立てば、するりと伸ばされる、手。
やっぱりな、なんて、薄く、微笑を漏らす。
けれど。
「悪いけど…これからちょっと、用事があって」
「…そうなの?」
「すいません」
「じゃあ、これあげるから。いつでも連絡、ちょうだいね?」
手に握らされたものを見ないでいれば。
女は手を振りながら、去っていく。
絶対ね? なんて、言葉を落としながら。
その姿が消えたあとで、くしゃりと紙を、握り潰した。
握らされたのは、アドレスとか、携帯番号が書かれた、紙。
ほしいのは、こんなものじゃなくて。
だからこそ、女遊びは、頻繁だと思う。
彼女を忘れるためにも。
忘れないためにも。
ほかの女を抱いて、自己嫌悪に…陥って。
自分がいかに、彼女を求めているのかを、知る。
彼女以外の女は、同じだとさえ、思うから。
同じ反応。
同じ行動。
その中に、彼女と同じものなど、ありはしないから。
それでも、それを、ポケットに捩じり込んで。
俺はそのビルを抜け出した。

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