結構恥ずかしいものだね、なんて。
当事者になってから初めて味わったものに。
小さく、本当に小さく、呟いた。




スカイ・ブルー





くすくす笑いながら、目の前で玲が立ち上がる。
今日は、この子が受けた仕事のことでの打ち合わせと。
この子が来なかったアイツの
CMのことで、少し、話をしてた。
まだ声は聞けないって、正直に話してくれたのが、嬉しくて。
だから微笑いながら、「ガンバレ」って届けたんだけど。
「そだね。でも、なっちんも頑張ってね?」
なんて返されて、アタシは首を傾げる。
と、玲はニッて。
イタズラを考え付いた子供みたいな顔をした。
「僕らのようになっちゃダメよー?」
「!」
何でわかるのよ!
とかって、はっきり言って聞きたかった。
何で知ってるの?
って。
アイツが何か言った?
「な、何言ってんのよ!
まどかはまだ……!」
「ほー、もう名前で呼んでるのか。それはそれは」
「……!」
カマかけられた!
思ったけど。
玲はどことなく嬉しそうで、楽しそうで。
アタシはどんどん恥ずかしくなってくる。
「よかったね」
「…ありがと」
微笑ってたから、白状して。
でもやっぱり、玲のことを考えたら、するんじゃなかったって、後悔した。
「どうしたの?」
顔を覗き込まれて、息を吐く。
「アンタの状態聞いたら、言っちゃいけないような気がしてたのよ」
「気にしなくてもよかったのに」
「するよ、普通は」
「…だね」
「だよ」
短い単語でのやり取りに、顔を見合わせて笑う。
それでもやっぱり、玲はどこか、無理してるみたいに見えた。
自分はこうじゃないと、みたいに……思い込んでる。
そんな風に。
小さく踵を返して離れていく姿に。
やっぱり、何かしてあげたいって。
そう、思ってた。





のに。
「逆に何もしなくてよかったわけ?」
「みたいやな」
手を繋いで、笑顔で去っていく二人の背中を二人で見送る。
羨ましいなって、ちょっと思う。
普通だったら、周りの目とか気にしちゃって。
手を繋いだままっていうのは、恥ずかしいだけのような気もするんだけど。
こういう……状況下には。
「玲ちゃん、すごいなぁ」
「?」
「いや、葉月もすごいけどな」
「まどか?」
「あの二人の神経、やっぱ特殊やな」
言葉に、アタシは少し、考えて。
「特別じゃなくて?」
「そうや。特別じゃなくて、特殊や」
「………」
「玲ちゃんが特殊なんはわかるやろ?」
問いに、また考えて。
それには首を縦に動かした。
「考え方が特殊なんや。相手に合わせないかん、みたいに思ってるんやろなぁ」
「『鏡』…?」
「そうや。初めて話した時になぁ、ちょっと、オカシイ、思たんや。奈津実とオレと。三人で話してる時と。オレと二人で話してる時の態度が、ほんの少し、違っとった。三人で話してる時は、何かどっか、探ってるような感じで、あんまり話には参加せんかったやろ?」
「…言われてみれば……」
思い出して、そう声を上げる。
まどかは少し、微苦笑してるみたいだった。
「けど、二人で話してる時はな。どれが当たりかって、いろいろぶつけてきてた。数打ちゃ当たるってヤツやな。でも、そのどれもがオカシイねん。ウソっぽく見えてなぁ」
「そう?」
「奈津実も言うとったやろ?
玲ちゃんはそういう部分がウマイんや。だから少しずつ変えて。けどな、五分前の玲ちゃんと、全然違うんや。考えればわかりそうなもんやん? そのぐらい。けど、あの子はホンマにウマイ。気づかせないようにするなんて、きっと朝飯前なんやろなぁ」
「………」
意識してやってるようには全然見えなかったって、そう、思い出した光景に思ってた。
ってことは、無意識ってことで。
それが考えることなく出来るってことはつまり。
「昔から…?」
「オレもそう思う。あの子にとって、当たり前なんやろ。それが。相手が、『こんな子やったらええな』って考えてるのを、ウマイこと引き出して。そしてそれを、完璧にこなすんや。せやからみんな、違う玲ちゃんを見てる。はずやのに、被ってる部分があるように、きちんと見せてる。玲ちゃんは、誰の中でも、確固たる地位を得とる。そのことが、玲ちゃんのことを一番に考えさせるんや。玲ちゃんに元気がないと、どうしたのかって気にもなる」
「うん……」
「明るかったり、前向きやったり。子供っぽかったり、でもしっかり、大人の考え方、持ってたり……。どれも玲ちゃんなのかもしれん。せやけど、もしかしたら。どれも玲ちゃんじゃないのかもしれん。そう考えると、ちと、かわいそうやろ?
オレらは本当のあの子を知らんことになるんや。知りたい思ても、それを口には出せん。出したら、何かが壊れてまう。そんな気がして仕方なかった。――のに、玲ちゃんは葉月を見つけた」
「葉月?」
顔を上げれば、にっこりと笑う表情がある。
そうや、って頷いて。
まどかはまた、口を開いた。
「葉月も特殊や。玲ちゃんとまったく逆やからな」
「あー、それはわかる」
「やろ?
せやから、玲ちゃんは葉月を欲しがった。葉月だけは騙せなかったんやろなぁ。だからこそ、葉月のそばにいる時だけ、玲ちゃんは本当の姿でいられた。現に葉月の前にいる玲ちゃんは、誰の前にいる時とも違っとった」
「嬉しそうだよね?
あの子」
「そういうことや」
握られていた手に、ぎゅって力を込められて。
アタシもまた、握り返す。
細かく見てるけど、コイツは誰のことも一番には考えてなかったように思う。
何かどっか、一線引いてるような、そんな風に見えた。
けど今は。
それが違ったんだって。
考え過ぎて、ただ、動けなかっただけだったんだって。
そう、考え直した。
だって、アタシだって。
コイツと同じ視点で、ものを見ていなかったんだもん。
相談とか出来なくて、当然だったのかもしれない。
そんなこと、考えてたら。
「…言うてええ?」
「?
何?」
「何で嫉妬とか、してくれへんの?」
「は?」
急なことに、アタシの思考は動かない。
嫉妬って、誰に対して?
「オレ、こんなにも玲ちゃんのことばっかり話してるのに…。それでええの?」
「え?
だって、玲に嫉妬しても、仕方ないじゃない」
「……大切にされてへんのかなぁ?
それとも、安全やと思われとるんやろか?」
「………。玲には葉月がいるから、アンタなんかには靡かないってこと」
「………」
「それに、信じてるしね」
呟くみたいに落として、立ち上がる。
ものすごく恥ずかしい。
なのに、あの二人は当たり前みたいにやってのけてた。
まどかが言った特殊の意味、少しわかったような気がする。
…んだけど。
「ちょっと、いい加減立ちなさいよね?」
「待ってくれてるん?」
「アンタが立たないと、アタシはどこにも行けないの!
もしくは手を離すとかして!」
「嫌や」
「………」
短く放たれた言葉に、アタシは息を吐く。
にっこり笑ってる顔に、鉄拳かましてやりたいぐらい、ちょっと怒ってみてたんだけど。
すぐに立ち上がってくれたから、まぁいいかって。
「オレんち行こかぁ」
「アタシはこれから、原稿持ってかなきゃいけないの」
「んじゃ、付き合うたるわ。後ろ乗ってけ」
バイクの鍵、チャリッて音立てて。
まどかはアタシの手を引っ張っていく。
まだちょっと、ぎこちないかもしれないけど。
本当のアタシ、受け止めてもらわなきゃ。
外に出て。
真っ青な空の下で。
アタシは少しだけ、手に力を込めてた。
離さないって、意思表示。
そうしたら、不思議そうな顔で振り向いてたけど。
結局二人で、笑いあってた。

END

 

と、いうことで。
最初のあの時点で、実はまだ付き合ってなかったんだよん、てな話を、書きたかったんです。
しかし、このページでは、見事に説明ばっかりで、無駄に長いし。
ありがとう、ニィやん。
とかって、思っております。

一番書きたかったのは何か、と聞かれれば、あのキスシーン(……)。
あと、髪を下ろしたなっちん。

樹の中で、ニィやんは黒猫です(だから何)。

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