子供だからって、相手にされないんなら。
嫌でも相手をしちゃうような人に、頼むしかないよな?
姉ちゃん、年上の話だけは、きちんと聞くって、知ってるからさ。



rely 2




姉の姿は、まだないことを確認した上で。
彼はそのビルの中へと、足を踏み入れる。
警備員に、小さく会釈すれば。
怖い表情なんか、ほとんど見たことのない警備員は。
今日もにっこりと笑って、小さな会釈を返してくれた。
そうしてから、タンタンッと、慣れたように、階段を上がって。
べつのスタッフと話しているその人を、彼は見つける。
どう、声をかけようかと考えて。
それでも、何もいい案が浮かばないまま、彼はその人のそばへと、近づいた。
スタッフのほとんどとは、もう顔見知りだし。
どっちかが気づいてくれるだろう。
なんていう、淡い期待を、抱いて。
「………」
けれど、どちらも気づいてはくれないまま。
話に夢中になっていて。
仕方なく、彼はその後ろ姿に、視線を集中させる。
気づいてほしいけれど。
会話の邪魔をするのには、ちょっと押しの弱い頼みごとを、彼は抱えていたから。
「……?」
少し待てば、その人は眉間に皺を寄せて、振り返って。
彼を視界に入れたところで、肩で大きく息を吐いていた。
「ごめんねー。またあとで話ましょ」
視線を戻して、そう綴って。
そうしてから、彼女は彼に向き直る。
近づいてきて。
視線の高さを同じにして。
「そんなに睨まなくてもさ、呼んでくれれば、気づくんだけど?」
言いながら、彼の頬を突ついて。
振り払えば、その人はくすくすと笑っていた。
「やめろって言ってんじゃん」
「だったら、子供っぽいことしないの」
「………」
「で?
何かご用?」
身体を屈めたまま、首を傾げられて。
彼はまだ、小さく頬を膨らませて、目の前のその人を見続ける。
母親でもいいかと、最初は思って。
それを口にしてみたりもしたのに。
頭ごなしにダメだって言ったって、聞きはしないんだから。
後悔させればいいのよ。
そう、突き放された。
そして、次に思い浮かんだのが、この人で。
どうしてこの人に――なんて、今になって、彼は悔やんでいて。
「尽くーん?」
「…ナニ?」
「何じゃないの。それを聞きたいのは私なの」
「…………」
「ごようはなぁに?♪」
童謡の、その歌の一部を口にして。
彼女は彼に、視線を注いで。
それを受け止めて、彼は息を吐く。
そうして、一歩、あとずさったあとで、壁に背を寄りかからせた。
彼のそんな行動を、少しだけ眺めて。
考えるようなそぶりを見せたあと。
彼女は壁に背を預けて、座り込む。
「逃げないでよ。お姉さん、悲しくなっちゃうじゃなーい」
「………」
「…少しぐらい乗ってくれてもよくなーい?」
「ヤダ」
「あ、そう…」
で?
促されて。
彼はわずかに、天井を見上げた。
「姉ちゃんさぁ…」
「うん。ダイエットしてるんだって?」
「!
知ってんの?」
「葉月くんから聞いた」
膝を抱えて、爪先を上げ下げして、彼女は言う。
「それで?」
「葉月は、何か言ってた?」
「やめさせてほしいって。必要ないから」
「………」
「尽くんは?
お姉ちゃんのダイエットに、賛成?」
「反対」
「………」
mimiさんに、オレからお願いしようと思ってたんだけど」
「なぁにー?
尽くんも、私にやめるように言ってほしいわけ?」
頷いて。
大きなため息を誘って。
そうしてから、彼は小さく、笑みを零した。
なぜか、姉の優菜は、この人の言葉は、きちんと聞くから。
絶大な重さを持っていると、彼は思っている、母親の言葉よりも。
「何か、頼られるっていうのは嬉しいんだけど。同じ事柄なのが、ちょっとなー」
「だってさ。
mimiさんにしか頼めないんだよな、こういうこと」
「こういうことって、優菜ちゃんのこと?」
「そ。姉ちゃんのこと」
にっと笑えば、彼女は「仕方ないなぁ」と発しながら、立ち上がって。
そうして、スタジオの方へと、歩き出す。
それを後ろに付いて歩きながら、彼は必死に、横に並ぼうと、試みて。
mimiさん」
「んー?」
大丈夫?
と、聞こうとして。
彼は口を噤む。
畳みかけることは、失礼なんじゃないかとか。
そんなことを考えて。
考えて。
「だーいじょうぶよ!」
俯いた途端、頬を抓られた。
それに、睨むような視線を向けて。
彼は手を振り払った。
「それはないんじゃないのー?
頼みを聞いてあげるのにー」
「……オネガイシマス」
「はい。がんばります」
くすくすと笑って、その人はその扉に手をかける。
今日は入っちゃダメなんだ。
そう、彼女の行動で感じ取って。
彼は挙げられた手に、応えるように、手を挙げて。
苦笑を零しながら、その笑みに、手を振り返した。

 

もう一人は尽。
姉のことを思って、やめさせたいみたいです。
愛されてるなぁ、優菜ちゃん(笑)。

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