一緒にいて、嬉しくて、楽しくて。
そういう相手に早く出会えるといいですね?
言われた言葉に苦笑して。
早く帰れって、手で追い払った。
mit gemischten
Gefühlen 8
また来ますねー、なんて綴られた言葉に微笑しつつ、手を振った。
しかし…あいつが来ないとなると、つまらなくなるなぁ、と、小さく思う。
来て早々。
葉月くんと何かを話していたと思ったら、「今日はもう、失礼する」とかって、零一は帰っていった。
彼女を連れて。
「実は本気で好みだったんだけどなぁ…」
小さく息を吐いて、自分の目の前のグラスを傾ける。
とりあえず、「今日は」って言ってたんだから、また来るだろうとは思う。
というか、思いたい。
花織ちゃんが俺に会いたいって思ってくれないかなー。
思いつつも、それはありえないかもな、とも考える。
玲ちゃんが言っていた言葉を思い出して。
そう。
今の花織ちゃんの頭の中は、ほとんど、あいつのことでいっぱいで。
「ま、今度は俺が呼べばいいか。何だかんだ言いつつ、お人好しだからな、あいつも」
くすくす笑いながら、グラスの中を空にして。
それから一度、店内を見回した。
零一のことが心配だと言った時。
玲ちゃんは頷いてくれて。
「わたしの親友もそうでしたよ。玲のこと、一人にすると心配だからって。でも、そう言いながらも、さっさと恋人作って、結婚しちゃいましたけどね。わたしよりも先に」
そう、教えてくれた。
言いたいことがあるって、葉月くんから離れてまで。
まぁ、あいつはあいつで。
俺は俺ってことを言いたいんだろうとは思うのだけれど。
だからと言って、相手がいないことには、どうにもならない。
「零一には花織ちゃんがいるから、安心しろってことなのかなー?」
ってか、とっとと、幼馴染み離れしろってことかもな。
考え直して、思いついたそのことに顔を顰める。
それははっきり言って、心外だとさえ、思う。
思う――けれど。
「過保護だと思うか?」
「何がです?」
オーダーを取ってきたらしい店員に、急に投げた問いには、やはり答えは返らなくて。
俺は一人、微苦笑を零す。
受け取って、グラスを手にすれば。
「氷室さん、ずいぶん早く帰ったんですね?」
背中に問いが届けられた。
「デートに俺は邪魔なんだろ?」
「あー…、なるほど」
「?」
眉根を寄せて、振り返って見れば。
「ここは氷室さんの大切な場所ですけど、もうすでにオーナーと共有してますもんね」
と、店内を振り返って言っていた。
その様子に、なるほどな、なんて考える。
けど。
「やっぱり俺は、邪魔なんだな」
「邪魔って言うか…、二人だけの秘密がほしいんですよ、きっと」
「ここじゃ作れないってわけだろ?」
「まぁ…、ここじゃ、オーナーの目がありますからねぇ」
それに、「やっぱり、邪魔なんじゃないか」と、ぼやいてから、手の動きを再開させた。
突き放すことが出来ればいいのかもしれない。
あいつはあいつで。
俺は俺なのだから。
他人の行動に、どうこう言える立場じゃない。
たとえ、幼馴染みとか、親友とか。
そう言った、極々身近だと思える関係でも。
相手は、自分ではないから。
作り終えて、渡して。
戻ってくる時には、またオーダー取ってこいよ、と言い放って、追い払った。
一度、言ってみるのもいいかもしれない。
勝手にしろよ、ってなことを。
そうすれば少しは、俺のありがたみがわかるかもしれない。
そして俺も。
俺自身のことを考える余裕が、少しは出てくるかもしれない。
――とにかく。
「複雑だよなぁ。いろいろと」
零せば、彼は肩を震わせながら、去っていく。
だってそうだろ?
大事な幼馴染みを取られるんだから、俺は。
でもそれを、悲しむんじゃなくて。
喜んでやらなきゃいけない。
「やっぱ、複雑」
もう一度言って、頬杖をついた。
閉店まで、残り数時間。
とりあえず、いろいろ考えながら。
俺自身のお客様でも待ちますかね。
ふっと笑って、身体を起こした。
END
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