帰ってくる
そのことにほっとして

『彼女』のことを くわしく知ろうとなんて
していなかった



exchange 〜 yuuna's 珪 2 〜




とりあえずの方法が決まって。
時間も、決めて。
それまでの間の時間にと。
『彼女』はキーボードを叩いて。
「帰れるかもしれないので、チャット機能、削除しておきました」
そう、言葉を漏らした。
パソコンの電源を切って。
いすを回転させて、俺に向き直って。
にっこりと、笑みを浮かべてた。
「しかし…考えていたことではあったけど、こうも違うとはね」
それから、すぐに笑みは、苦笑へと変わって。
零れた言葉は、そんなもの。
「考えてた……って?」
「わたしが変わらなかったら、彼との関係はどうだったんだろうとか。そういうこと」
「………」
「一緒にいたことには、ほっとしたけどね」
息だけで笑って。
でもまだ、表情は苦さを宿したままで。
「『わたし』は、変わっちゃった優菜ちゃん。『優菜ちゃん』は変わらなかったわたし」
「……」
「そういうことで…。ここは、わたしから見たら、『わたしがもし、変わらなかったら』っていう、世界なの」
「優菜が…いるのは、『優菜がもし、変わってしまったら』っていう、世界か?」
「ご名答」
言って、『彼女』はまた笑う。
どうやら『彼女』は。
いちいち大げさに行動しないと、気がすまないらしい。
「わたしが、優菜ちゃんと比べて。どんな風に違うのかは、わかると思う。でも、どんな風に変わってっちゃったかっていうのは、知らなくていいことだから、言わない」
「……まぁ…」
「でしょ? だから言わない」
「………」
「君の印象、言おうか?」
「?」
「高校の入学式直後、教室で会った時の珪とそっくり!」
くすくす笑って、立ち上がって。
『彼女』は俺に、背を向ける。
「つまり、君は。わたしの知ってる『葉月珪』が、変わっていなかったら、の姿なんだよ」
「………」
「君に会って、わかりました。彼を変えちゃったのは、他でもない、わたしなんだってこと。だからやっぱり、ちゃんと、責任は取るべきなんだなーって」
「責任…って?」
「死が二人を別つまでって、やつです」
少しいたずらっぽい笑みを浮かべて、振り返って。
それからすぐに、時計へと瞳を向ける。
『彼女』は。
彼女とは違うけれど。
嫌う理由は、特にない。
というか。
彼女も、こうなっていた可能性が、あるということ。
なら、受け入れることを、考えた方がいいのかもしれなくて。
「こーら、何考えてる?」
目の前に急に現れたのは、『彼女』のアップで。
俺は驚きで、身を引く。
「な、何……」
「……本当に、こういうこと、しないんだねぇ……」
まだ心臓は、早めに鼓動を打っているのに。
『彼女』は平静、そのもので。
少し、悔しくもなる。
「言っとくけど、僕のこと理解しようとか、考えるだけ無駄だからね?」
「…無駄?」
「そ。無駄」
「………」
「君が好きなのは、『優菜ちゃん』であって、『僕』じゃない。それだけわかってれば、いいの」
「でも……」
「言っとくけど、優菜ちゃんがこれから、僕みたいになる可能性はないからね!?」
指を間近で指されて。
それに驚いて、瞬きを数回すれば。
「僕がこうなっちゃったのは。長い年月と、周りの環境が関係しているので。君がそばにいるなら、優菜ちゃんは変わることはないよ」
手を戻して、『彼女』は綴って。
それからまた、俺に背を向けた。
時計をじっと見ている背中を、俺も眺めて。
――まぁ。
受け入れなくていいなら。
とっとと帰れと。
そう言いたい。
彼女を俺に、返してくれと。
そう、願いたい。
考えて、いたら。
「あのさぁ、寝室に行っていただいて、いいですか?」
そう、『彼女』からの。
最後の願いが、届けられた。

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