よかったと
ほっとして
彼女らしさが残っていることに
息を吐いたけれど不安は
まだ残ってる
exchange 〜 akira's
珪 2 〜
『玲』
全員が、入れ替わった時のことを聞こうとしていた時。
急に、藤井の名前で、そう文字が打ち込まれた。
振り返れば、藤井のパソコンを使っていたはずの守村と、目が合って。
「田端さんに、聞きたいことがあるそうなんです」
藤井さんが。
そう、言葉を綴って、答えをくれる。
ディスプレイへと目を向ければ。
『なっちん?』
そう、彼女の発言。
『そ。何で志穂と守村くんなのか、聞こうと思って』
『何でって…二人とも頭いいし』
『そうじゃなくて。アンタだったらこういう場合。絶対、麻衣に行くじゃない』
「それか」
呟いて、俺も打ち込んでいく。
『確かにな』
たった、それだけだけれど。
「あの、麻衣さん…って?」
疑問が零れたのは、すぐそばから。
その人物の顔を、瞳に映してから。
俺は口を開いた。
「親友。玲の」
「………」
「今は結婚して、ちょっと遠いところに住んでるけどな」
「そうですか…」
納得したのか、『彼女』はそう言って。
それから、視線を落としてた。
たぶん、『彼女』は。
『月宮麻衣』という人物を、知らないんだろう。
だから聞いてきた。
そういうこと。
『麻衣に連絡してどうするの?』
『そうじゃなくて』
『麻衣に連絡しても、心配させるだけじゃないですか?』
『そうかもしれないけど』
『それに、余計な心配、させたくないもん。おなかの中の赤ちゃんのためにも』
『心配、するか? あいつ』
『うっ! 痛いところを』
『あいつのことだから』
『うん。麻衣姉のことだから。やっぱり玲ちゃんはおバカだね〜、って、言うと思う』
『……だとは思う……』
くすくす笑って、頬杖をつく。
あいつは、彼女の前だと、そういうことしか言わないから。
どんなに心配であっても。
そう思っていることを、言いはしない。
心配をかけている。
そう、彼女が思うことでさえ。
あいつには、懸念の一つになってしまうから。
それだけ、彼女のことを、心配しているのに。
絶対に、言いはしない。
ほかの行動で、知らせるだけ。
『いいの! それでも麻衣には連絡しないの!
心配してくれるの、知ってるんだから!
余計なことは言わなくていいの!』
『はいはい』
『事後報告!』
『それで? 入れ替わった時の状況は?』
有沢が話に戻してくれて。
俺は頬杖を崩した。
俺が気づいたのは、『彼女』に起こしてもらった時。
たぶん、向こうの『俺』も同じだろう。
となれば、くわしい状況がわかっているのは、彼女と『彼女』。
『んーと、彼を起こした時は、あれ?
って感じだったの。パジャマ、違ったし』
『で、「おまえ誰だ?」って言われて。それで、少し考えて』
『周りを見て、葉月くんの首元見て。綺麗だったから、違うと』
『そういう調べ方なのか?』
『やり方に文句言わない!』
『田端さんらしいと言えば、らしいですけど…』
『ま、姉ちゃんだしって感じ』
『だって……』
『玲に付けられたからな、この前』
『そういうことを報告しなくていいって、葉月』
『そうか』
『消えたらまた付けるから、言ってね?』
『了解』
『だから!』
笑みを零せば、隣りでは赤い顔。
こういう会話、しないのか?
結婚…してるのに。
思って、視線を戻す。
『優菜ちゃんは?』
その文字に、きちんと『彼女』を見れば。
「わたしも…起こして、質問された時に、おかしいなって……」
そう、呟くように、零してた。
『同じ』
『そっか。廊下までは同じだったんだよね。でも、寝室は変わってた』
『寝室に入った瞬間に、入れ替わったってとこか』
『多分ね〜』
『じゃあ、やってみたらどうですか?』
守村の発言に、眉根を寄せる。
どういう、ことだ?
『そうね。やってみたらいいのよ』
『何を?』
『同時に、寝室の扉を開けるってこと』
『………』
思いつかなかった。
肩を落として、『彼女』を見る。
ぱちぱちと瞬きをして。
『彼女』はディスプレイを、ただただ見てた。
けど。
『それって、同じ時間にって、こと?』
『そうよ』
『同じ時間だったかどうか、わからないのに?』
『普通に考えれば、同じ時間だとしか思えないわ』
『そうだけど……』
『何か、ほかにも問題、あるの?』
『えっと…今日と、同じ時間ってことですか?』
『今やって、だめだったなら。明日の朝、やった方がいいでしょうね』
『…そっか』
『とりあえず、やってみろよ』
『そうだねー。それで帰れたら嬉しいし』
そうやって決まっていくことに。
小さくほっと、息を吐いていた。
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