考えて いた

わたしがわたしじゃなかったら
とか
彼が彼じゃなかったら
とか

そんな 考えても仕方のないことを



exchange 9 〜 優菜 3 〜




扉の前で、どきどきして。
わたしはただ、時間が来るのを、待っている。
そばに時計を立てかけてもらって。
それを見て、ドアノブに、手をかけた。
あと、一分…!
どきどきして。
帰れると。
彼に会えると。
必死に、考えて。
思って。
この扉の向こうにいるのは、彼とは違うけれど。
わたしが、『わたしの世界』に帰ることができたなら。
そこにいるのは、彼だから。
きっと、彼はいてくれていると、思うから。
三十秒前になって、かちゃりと、ノブを下げた。
そうしながら、朝のことを、思い出してた。
朝。
わたしは、考えてた。
わたしがわたしじゃなかったら。
そんなことを。
わたしがわたしじゃなかったら。
彼はわたしのことを、好きじゃなかったかもしれない、とか。
だからわたしのそばには、いなかったかもしれない、とか。
そんなことを。
だから、今に感謝しよう、って。
そう思いながら、ドアを押した。

わたしがわたしじゃなかったら。
彼はわたしのそばに、いなかったかもしれない。
そう、思っていたけど。
『彼女の世界』に行って。
わたしが、わたしじゃなくても。
彼は、変わったわたしにあわせて、変わって。
そうして、そばにいてくれた。
それが、嬉しかった。
彼女は、わたしとは違ったけれど。
それでも、同じ人を好きになって。
その人は、彼女のそばにいた。
『彼』は、彼ではなかったけれど。
それでも、『わたし』を、好きになってくれた。
それを知った時、すごく嬉しかった。
それと同時に、すごく安心した。
彼は、わたしがどんな性格であったとしても。
そばにいてくれるのかもしれない。
そう、思えたから。
怖くは、ない。
結婚して。
彼に見せていなかった自分を、これからは見せなくちゃいけないってこと。
それが、ちょっと怖かったのだけれど。
でも今は、怖くない。
だって彼は。
どんなわたしも、受け入れてくれるのだから。
それを、知ったのだから。

すぐに聞こえたのは、彼の声で。
わたしの名前を呼んでくれた、その声で。
彼は、『彼』ではなくて。
彼で。
わたしがよく知っている、彼だったから。
「珪くん!」
わたしも呼び返して、駆け出した。
部屋の真ん中で立っていた彼に、抱きついて。
わたしも、彼にこうしたかったから。
彼女と、同じように、甘えたかったから。
それを、彼に届けようって思ったから。
わたしはそう、行動に移した。
わたしが好きな人は、彼で。
わたしにとって、一番大事な人は、彼で。
ほかの人では、なくて。
わたしがわたしだから。
この、目の前にいる彼が、大事で。
大切で。
大好き。
ぎゅっと、腕に力を込めれば。
彼は少し、驚いてたみたいだったけど。
それでも。
同じように、抱きしめてくれた。
顔を見れば、唇が重なって。
わたしはそれを、受け止める。
彼女もきっと、今頃。
『彼』に、したいと思っていたことを、しているだろうから。
「今度は、珪くんが向こうに行ってみたらどうかな?」
「…遠慮しとく」
彼のそんな言葉に、くすくす笑ったけど。
でも。
確かに。
帰ってこられないかもしれないっていう不安を、彼にも抱かせたくはなかったから。
小さく、頷いておいた。

END

 

遊んでみました(笑)。
というか。
ずいぶん前に、とある方からいただいたリクエストと言うか。
リクエストのメールに、ちょこっと、書いてあったと言うか。
その時に、ああ、おもしろいかもーと、思ったので。
いつか書きたいなーと。
で、書いてみた代物。
わたしはおもしろかったです。
珪くんと玲の、チャット(そこか!)。
その場面で、笑ってましたから。
皆様も笑ってくれていたら、いいなぁ…そこで(笑)。

30000hit記念SSですが。
特に配布はしません。
ほしい方も、いないと思いますし。
いたら……どうしようかな…?

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