驚いてた
ただただ 驚いてたわたしとは違う
そのことに
ただただ 驚いてた
exchange 〜 優菜 2
〜
………。
言葉もなく、ディスプレイを見続ける。
わたし、こんなこと言わないよ?
思いながら、眉尻を下げて。
ほんの少し、おろおろして。
覗き込んでいるみんなの顔に、微苦笑が浮かんでいるのを見てから。
わたしは、また、視線を戻した。
抱き着きたいとか、甘えたいとか。
思ってても、言えない。
会いたいっていうのは…消えちゃいそうな声で、言ってはみるけど。
でも、こんなにはっきりとは、言わない。
考えて。
やっぱり、わたしの代わりに向こうにいるのは。
『彼』のそばにいるのは。
わたしとは、違う人なんだって、理解した。
そう。
今になって。
『なっちん、今日仕事だったの?』
『そうよ。葉月だって仕事だったでしょ?』
『尽も?』
『俺はスタジオに居合わせただけ。それより、どうすんだよ?』
ディスプレイの中では、会話が繰り広げられてる。
最初、彼と玲ちゃんだけだったのに。
尽となっちんが、持っていたモバイルで、ネットに繋いで。
そして、チャットに参加している。
四人で会話をするように、そのディスプレイの中では、言葉が次々と流れていく。
『誰でもいいからさ。有沢さんと守村くんに、連絡取ってくれる?』
『あの二人にも、意見出してもらうのか?』
『そう。人数いた方がいいし』
『確かに』
『そっちは?』
『ややこしいから、こっちは頼まないことにする』
「やっぱりな」
ポツリと呟かれた言葉に、わたしは瞬きを一回。
目の前の横顔は、微苦笑で。
『姉ちゃんって、いつもそうだよな。どうせ、入れ替わったことを大人数に知らせないようにしたいんだろ?』
『当然! 優菜ちゃん、専業主婦みたいだし。病気にでもなったって言ってもらえば、こっちでは知ってる人間、少なくなるでしょ?』
『じゃあ、やっぱり、外に出ないの?』
『出ないよ。可愛い服、着たくないもん』
『そんなことだと思った』
すごい。
素直に、そう思った。
わたしじゃ、絶対に誰かに頼ってしまうのに。
きっと、知っている場所を探して。
自分を知っている人を捜して。
外へと、飛び出してしまうかもしれないのに。
『わかった。アタシするよ。来てもらえるようにする』
『お願いします。じゃ、優菜ちゃん』
「はい!」
読んでたから、ついそう、声を上げて、返事しちゃって。
そうすれば、みんなの視線は、わたしに向く。
わたしは恥ずかしくて、まぶたを下ろしたんだけど。
「変わる」
彼のその言葉で、わたしは身体を、ようやく動かせた。
彼の代わりのように、いすに腰かけて。
そこから、ディスプレイを覗いて。
文字を――言葉を。
打ち込んでいく。
『はい』
『そんなに硬くならなくてもいいよ〜(^^)同い年なんだし。敬語使っちゃダメ〜』
『うん』
『それでよし! で、とりあえず。二人が来るまでの短い時間だけだけど……、彼と話したいでしょ?』
――『彼』。
その一文字に、ぴたっと、わたしの思考は止まった。
話したい?
うん。話したい。
起こせなかったこと、謝って。
朝ごはん、食べたかどうか、聞いて。
……話したい。
『うん』
ようやく打ち込んだのは、それだけ。
触れるキーだって、少なくて。
本当はもっと、言いたいのに。
書きたいのに。
『じゃ、変わるね。尽、なっちん、邪魔しちゃダメだよ?』
「しないっての」
後ろから声がして。
振り返ろうって、思ったけど。
でもやっぱり、じっとディスプレイを見てた。
『彼』から発せられる一言を。
その瞬間を。
見逃したくは、なかったから。
そして。
『優菜』
短く。
そう、ぱっと映し出された、わたしの名に。
わたしはやっぱり、笑ってた。
『珪くん』
『大丈夫か?』
『うん。あの』
『ん?』
『ごはん…食べた?』
『ああ。美味かった』
『よかった』
『おまえは?』
『玲ちゃんが作ったの、食べたの。おいしかったよ』
『そうか』
『うん』
嬉しくて。
口元がどうしても緩くなっちゃう。
姿は見えなくても。
声で直に、届けられていなくても。
それでも。
『彼』の言葉だと思えるから。
だから。
嬉しい。
『朝、起こせなくてごめんね?』
『べつにいい。それより、本当に平気か?』
『大丈夫だよ。みんな、優しいから』
打ち込んで、嬉しくて。
わたしは小さく、息を吐いてた。
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