うーんなんて唸りながら
彼を見るそれから
鏡に視線を向けて
わたしは小さく
嘆息してた
染められる色
まだ、ブラシを通しただけの髪を見ながら、考える。
髪型をどうするかと聞かれたから。
いつも通り、一つに縛っていくと言ったら。
彼が眉根を寄せた。
その所為で、わたしはこんなにも、考えてる。
他人の髪を弄ることはあっても。
自分の髪は、あまり弄ったことがない。
だから、どんなのがいいんだか、わからなくて。
彼がどういうのを求めてるのかが、わからなくて。
わたしはまた、考えはじめる。
いつ買ってきたのか。
花火大会のある、今日。
その日の朝、「おまえはこれ」って、見せられた浴衣。
それに固まったのは、言うまでもなくて。
行くというのは、もう。
暗黙の了解だったから。
ただ、服装でさえ、いつもと同じでいいと思ってた。
……のに。
壁に掛けられているそれを見て、わたしは嘆息。
そう思っていたのは、わたしだけ。
それを知らされたから、わたしはこんなにも、考えているわけで。
浴衣を着た時の基本とでも言うように。
人に勧める髪型は、アップなんだけど。
わたしのこの長さじゃ、ちょっと辛いかもしれない。
……どうするよ?
考えて考えて。
いろいろ、やってみたりして。
「………」
それでも、口から漏れるのは、ため息ばかりで、どうしようもなくて。
ちらりと彼を見れば。
大きな欠伸を零しながら、廊下を横切っていった。
いっそのこと、彼にやってもらおうか?
考えて。
そうしようと、わたしは動きはじめる。
彼がして欲しい髪型は、わたしには全然、予想も付かないし。
というより、あれかなーっていうのはあるけど、やったこともないから、この長さで出来るのかどうか、わからないし。
わたしが出来ないって思ってても、彼も手先は器用だから、出来るかもしれない。
「珪!」
ブラシとゴムと、ヘアピン。
それを持って、彼のそばへ。
そうすれば彼は、わたしが何を言いたいのかわかってたらしくて。
テーブルを押して、座っていた自分の前に、スペースを作ってくれた。
だからそこに、わたしは座る。
手に持っていた物を、テーブルの上に置いて。
それに降ったのは、苦笑。
「何ー?」
「…いや」
「珪が言ったんでしょー? 髪型変えるようにって」
「……言ったか?」
「言ってはいないけど、いつもと一緒って言ったら、嫌そうな顔してた」
「……ああ」
わかったらしい彼に、ブラシを手渡して、わたしは前を向く。
遊ぶように、一度、彼はわたしの髪に指を通して。
そのあとで、まとめるために、彼の手が動いた。
時折梳いてくれる、その手が気持ちよくて。
わたしは目を細める。
寄り掛かりそうになるのを堪えて。
肩越しに差し伸べられる手に、要求されたものを置いて。
そうしながら、自分の髪がまとめられていくのを、感じてた。
引っ張られる痛みなんて、全然と言っていいほど、なくて。
でも、彼が立ち上がったことには、驚いて。
「珪?」
なんて、声を上げちゃったけど。
そのまま彼は、リビングを出て。
階段を上がっていくのが、音でわかった。
それに、首を傾げる。
恐る恐る触れた髪は。
まだ途中のような状態を保っていたし。
彼のことだから、終わったら「終わった」と声を掛けてくれるはず。
でも――その言葉はなかった。
じゃあ、何かを取りに行ったのかな?
考えて。
何かって言ったら…飾り?
そう、答えを出す。
あんまり派手じゃない方がいいなー、って考えてたけど。
どうして彼が持ってるんだろう?
っていうのも、思ってた。
だいたいさ。
彼のブランドの中には、そういうものはなかったはずだし。
うーん、なんて声を上げていれば。
彼が戻ってきて、同じ位置に腰掛けた。
「玲」
「ん?」
「触っただろ?」
「……うん」
素直に答えて、「ごめん」と頭を下げる。
それからまた、彼の手が髪に触れて。
わたしはおとなしくなるしかなくて。
「何持ってきたの?」
「…秘密」
「?」
首を傾げることなんて出来ないから、渋面を作ることで、彼に届ける。
……って言っても、彼からは見えないんだけど。
わたしからも、彼が何をしているのはわからない。
でも、すごく楽しそうなのは、何となくだけど、わかる。
それから少し経ってから。
彼の手が、わたしのうなじを撫で上げて。
「終わった」
ようやく、そう声が上がった。
後れ毛を気にしてるのはわかるけど。
短いんだから、仕方ないでしょ? なんて思う。
「どうだ?」
そうして見せられた鏡に映っていた自分に、正直びっくりした。
どうやってやったのかは知ってる。
細い束を作って、捩じって。
それを二本作って。
二本をまた捩じって。
途中でこれを通して、また捩じって。
そうしてから、上で留めたんだろうけど。
うまい具合にアップにはなってるけど。
「これってさ…」
「リング」
「だよね…」
確かにまとまってます。
人目は引くでしょう。ものすごく。
「この前、モデルがやってた」
「そうですか」
「ああ。いいなって、思った」
「で、わたしに?」
「ああ」
「………」
彼が取りに行ったのは、リング。
試作品なのか、商品化してるのか。
それはちょっと、よく見てないからわかんないんだけど。
「解けたら大変?」
「ほどけない」
「……すごい自信…」
「まあな」
うなじをまた、彼は撫でて。
そうしてから、立ち上がった。
わたしに手を差し伸べて。
立ち上がることを、促して。
「着替えよう、そろそろ」
「……」
「手伝ってやるから」
首を振りたかったけど、そう出来ないことを、彼はわかり切っていて。
わたしはコクンと、頷いた。
END
|