先に起きるのは わたしだから

朝食を作るのは
わたしの仕事

家の中に
太陽の光を入れるのも

彼のためにと
新聞を取りに行くのも

そして
その彼を起こすのも

わたしの…仕事




正しい彼の起こし方





頭上で鳴り響いたものを、手探りで止めて。
わたしは小さく、「うー」と、うつ伏せになりながら、唸ってみる。
もちろんそれは、真っ白シーツに吸い込まれて。
隣りで眠っている彼の耳に、直接届くことは、ないけれど。
勢いを付けて起きるわけにもいかないから、いつものように、ベッドから転がり落ちるように、出て。
着地に失敗して、ほんの少しだけ、バランスを崩しちゃって。
「痛っ」
なんて小さく、声を上げたりしちゃったけど。
彼はそれで、起きるようなことはなくて。
「あとで、起こしに来るからね」
彼の耳元で、そう囁けば。
彼は小さく、寝返りを打って。
わたしはその、頬に。
短く、唇を押し当てた。

リビングのカーテンを引いて。
その場で一度、大きく伸びをした。
今日もいい天気。
太陽を仰ぎ見て、手を下ろす。
ふっと笑みを浮かべれば。
わたしの一日は、動き出すわけで。
「本日の朝食は、洋食で行きましょー!」
気合いを入れるように、声を発して。
わたしはくるりと、太陽に背を向けた。
エプロンもしないまま、パジャマでキッチンに立って。
鍋にとりあえず、水を張る。
電気コンロのスイッチを入れて。
その上に鍋を置いて、蓋をして。
わたしは冷蔵庫の前へと、歩を進める。
卵と、野菜。
それから、ハムも出して。
卵を転がらない場所に置いてから、まな板を出して。
包丁も出して。
野菜を水で洗ってから、切っていく。
フライパンを出して、もう一つ、コンロを点けて。
油を張ってから、ハムを敷いて、卵を落とした。
目玉焼き。
というより、ハムエッグか。
蓋をしたのは、ふっくらさせたいからに、他ならなくて。
お湯が沸騰したのも確認してから、野菜を入れる。
お皿を出して。
ハムエッグの様子を見ながら、まな板を洗っていく。
笊を用意して。
ハムエッグをお皿に取ってから、笊に、野菜を入れて。
お湯を切って。
その湯気に、「あっつー」と、片目を瞑ってしまった。
水分をしっかりと切って。
ハムエッグの脇に、並べていく。
色彩はちょっと乏しいけど。
まぁ、気にしないことにして。
それを、ダイニングのテーブルの上に並べてから。
パンを、オーブントースターの中に、放り込んだ。
スイッチを入れて。
あとを機械に任せてから、玄関へと向かう。
途中でカーディガンを羽織って、運動靴を引っかけて。
踵を踏んだままで、家を出て。
ポストへと歩いた。
入っていた新聞を抜き取って。
今日はちょっと、肌寒いかも。
思いながら、また、玄関へと引き返す。
カーディガンを脱いで、向かったのは、寝室で。
「けーいー! 朝だよー!!」
声を上げつつ、ドアを開けたら。
彼は煩そうに、声を上げて。
枕を抱えて、わたしに背を向けた。
そう言えば今日は、わたしが起きる時、彼は起きなかったな。
思い出して。
疲れてるのかな? なんて、考える。
いつもなら、小さな揺れに気づいて。
居なくなったわたしに気づいて。
どこに行くんだ? なんて、聞いてくるのに。
今日はなかった。
それを考えると、少し、起こすのを躊躇しちゃうけど。
でも、わたしは彼と、過ごしたいから。
「珪、起きてよ」
軽く揺すってみる。
それで起きたことなんて、今までは皆無で。
世間一般で言う、『正しい起こし方』は、わかってるけど。
でもそれは、彼には通用しないから。
布団に手を掛けて。
剥ぎ取ってもいいものかを考えて。
仕方なく、枕を彼の頭の下から、奪い取った。
抱えてたけど。
寝てる人間の力なんて、そんなでもないから。
枕はわたしの手に、すんなりと収まる。
急に、頭の高さが変わった彼は、わずかに目を開けて。
眉根を寄せて、わたしの方を見てくれた。
「朝です」
「……ああ」
「起きてください」
「…眠い」
「それはわかるけど。起きてください」
「………」
下からは、トースターが焼けたことを知らせて。
早く出さないと、焦げちゃうかな?
考えながらも、わたしは彼を見続ける。
仰向けになった彼は、そこで一度、瞼を閉じて。
「寝ないでよ? 朝ご飯、出来てるんだから」
「…わかってる」
答えてから、彼は瞼を上げて。
それから、上半身を起こした。
朝日を受けた彼は、本当に綺麗で。
衝動を押さえ切れなくて。
わたしはゆっくりと、目を細める。
そうして、気が付いたら。
わたしは彼を、抱き締めてた。
彼の頭を抱え込んで。
――時々、わたしがすることだから。
彼は特に、驚くこともなくて。
わたしの背中に、手を回してくれる。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
「パン、焦げちゃうかな?」
「だろうな」
「でも…もう少しだけ、いい?」
「…ああ」
彼の手が、わたしの腰を掴んで。
身体を、膝の上に降ろしてくれた。
彼の顔を見上げれば、唇が重ねられて。
「……今日、仕事でしょう?」
「ああ」
「わたし、家で執筆してるから」
「わかった」
今日のスケジュールを確認しあって。
腕に力を込めたあと。
「行くか」
彼の言葉に、大きく頷いた。

END

 

着替えるのは、ご飯を食べて、顔を洗ってからです。
っていうか。
このお題を見た瞬間。
いかに、裏にしないかを考えていたのでした(苦笑)。

二次創作書きさんにたった10のお題』より、お借りしました。
五つ目は、『正しい朝の起こし方』。
『甘』というそれに、合ってるような話だ…(甘すぎだけど)。

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