彼女が呼んでくれるから。
彼女が綴ってくれるから。
俺の名前は、特別になる。
いつも。
いつも。




過ごす時間





うーん、なんて声を上げて、彼女は窓際で伸びをする。
組んだ両手を天井へと向けて。
伸ばして。
それから、手は下へと下りたのに、爪先立ちのまま、彼女は窓枠を掴んだ。
俺からは後ろ姿しか見えないから、彼女が何をしているのかはわからないのだけれど。
きっと、何かを見つけたんだろうと思う。
もうすぐ、俺に知らせてくれるんだろう。
そんなことを考えながら、手を動かし続けて。
「ね?
珪」
顔をこちらへと向けた彼女に、予想した通りだ、と、笑みを零した。
いい意味で裏切ってくれたりもするけれど。
彼女はいつも、俺の想像通りに動いていて。
「どうした?」
「向かいの家の中庭にね?
大きなツリーが飾ってあるの」
「へぇー……」
「いいなぁ。電飾いっぱいかなぁ?
夜にもう一回覗いてみよう。きっと綺麗だろうし」
うん、なんて頷いて、勝手に結論づけて。
それでも彼女は、そこから動こうとはしなくて。
また、彼女の瞳は窓の外へと向いてしまった。
「玲」
「なぁにー?」
呼んでも、戻っては来ない。
苦笑を零しても、それに気づいた様子はなくて。
「やらなくていいのか?」
「何をー?」
「このツリーの飾り付け」
言えば、彼女ははっとした顔で振り返って。
「やらないなら、俺もべつのことするけど」
「するの!
やる! やります!」
一気に捲し立てて、彼女は俺の目の前へと戻ってくる。
くすくすと笑うと、彼女は頬を膨らませて。
でも、何も言いはしなかった。
自分が悪いのだと、彼女自身、気づいているから。
ツリーは大きくはないけれど、それでも、俺の身長と同じぐらいの高さはあって。
「これは、一番最後ね?」
そう言って、彼女が避けたそれは、天辺に飾られるんだろう、星で。
金色の、大きな星で。
俺は「わかった」と、頷いた。
「で、わたしが付けるからね?」
「……届くか?」
「椅子持ってくるから平気です」
「なるほどな」
「とにかく、珪はやっちゃダメだからね?」
「………」
「何?」
黙り込んだ俺に、彼女の瞳が向けられる。
小さく首を傾げられて、俺はふっと笑みを浮かべた。
「倒すなよ?」
「……そこまでバカじゃないもん」
「どうだかな」
「…やっぱり珪って、意地悪だ」
呟いて、彼女は顔を逸らす。
くすくすと笑い続けていると、額を叩かれた。
わずかな痛みに、そこを押さえる。
と、今度は彼女が笑い出す。
けれどすぐに、彼女はツリーを見上げて。
「あと何回、一緒に過ごせるかなぁ?」
そう、小さく。
でも、はっきりと、紡いだ。
その姿に、目を細めて。
俺も、ツリーを見る。
「おまえが望むだけ…だろ?」
「本当?」
「本当。俺は離れる気、ないからな」
「そっか」
「ああ」
にっこりと笑って、彼女はまた、手を動かし始めた。
と思ったら、すぐに止めて。
「あと五十回は、とりあえず一緒ね?」
なんて、言ってくる。
俺の返答を聞くこともせずに、言っただけで満足して。
嬉しそうな表情を浮かべたまま、飾り付けを続けていた。
濃い緑だけだったそこに。
作り物の、樹のそこに。
たくさんの色を、付けていく。
「そう言えばさ。ドイツ語でクリスマスって、なんて言うの?」
「?
どうして?」
「知りたいから」
「………」
「フランス語は『ノエル』じゃん?
瑞希さんに教えてもらったんだ」
「…そうか」
「うん!
で?」
期待に満ちた瞳に、笑みが浮かぶ。
本当に、顔に出るな。
思いながら、それは俺が、彼女が気を許している存在だからなのだと、確信して。
俺は口を開いた。
「Weihnachten」
「は?」
少し早めに言えば、彼女からは思った通りの声と言葉。
小さく笑みを零しながら、俺はそれを繰り返す。
「Weihnachten」
「え?」
「だから、Weihnachten」
「ヴァイ…何?」
「Weihnachten」
「わかんないって!」
大きく声を発した彼女に笑い出す。
彼女はまた、「笑うなー!」って、声を上げて。
「無理」
「無理って何ー!?」
彼女が上げた手を躱して。
躱し切れなくて、掴んで。
それでも笑っていると、彼女の口からは、俺の名前が零れ出る。
何でもないと思っていた、それが。
特別な響きと。
特別な意味を持って、俺の耳へと届けられて。
「あと五十回…な」
「最低ね」
「了解」
綴れば、彼女は笑って。
俺に口付けをくれた。
俺がひとりにならないために、彼女をひとりにしない。
とりあえず、あと、クリスマス五十回分は。
約束のような、誓いのようなそれは、きっと祈りへと変わっていく。
暖かさに浸りながら、そう、思っていた。

END

 

『ヴァイナハテン』というそうです(笑)。
とにかく、20031228のイベントで配っていたペーパーのSSです。
こっちはお笑い。やっぱりお笑い。
……何で?(聞くな)

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