俺自身は気づかないのに
彼女はすぐに気づくそばを通っただけで
すぐに声が飛ぶ
頬をいつも膨らませて
それにいつも
俺は笑ってた
definition
おかえりーの声が響いて。
俺は家の中へと、足を踏み入れる。
と同時に、彼女がキッチンから、顔を出してくれて。
「夕食、出来てるよ」
そう、笑顔で綴ってくれたから。
ほっとして、俺は真っ直ぐに、リビングへと、歩を進めた。
開けられていた扉をくぐって、ソファのそばまで行って。
肩から提げていたリュックを下ろしてから、腰を下ろす。
テーブルの上には、すでにいくつかの皿が置かれていて。
「これで最後ー」
なんて言いながら、彼女が両手に持ってきた茶碗を受け取れば。
彼女も俺の隣りに、座った。
……けど。
「…煙草臭い」
「…え?」
「珪、今日、煙草吸う人のそばにいた?」
眉根を寄せて、そう言って。
服を脱ぐように、言われたことがあったと思い出して、立ち上がる。
「相手の、広報の人が……吸ってた」
「今日、打ち合わせだったの?」
「ああ」
答えて、リビングを出ようとすれば。
「まだ片付けてなかったから」
なんて言葉と共に、それは押しつけられた。
洗濯したての、服。
「…着替えていいのか? ここで」
「別にいいよ? わたし、食べてるから」
「………」
「珪の方、見ないでも平気だし」
言いながら笑った彼女に、俺は息を吐いて。
ゆっくりと、リビングをあとにする。
「お風呂、入っちゃう?」
声はすぐに後方からで。
足音もぺたぺたと、近づいてきた。
「まだいい」
「うん。じゃあ、服、洗濯機に放り込んどいて」
「ああ」
洗面所に入ってからは、さすがに、彼女も入ってはこなくて。
俺はひとりで、髪の臭いを、気にし続けていた。
「煙草の臭いも、ある種残り香なのかな?」
言われたことに、首を傾げれば。
彼女は「だってさぁ」なんて、続きを口にする。
「コーヒーの匂いとかも、そうだと思わない?
わたしが有沢さんのお店に行った時、必ず君、言うでしょう?」
「あれは…紅茶だろ?」
「うん。有沢さんのとこに行くと、必ずお茶するからね。お花の中で。で、守村くんの話、聞くんだけど。どうしてわかったの?
って聞くと、君必ず、紅茶の匂いがするって言うじゃない」
「……まぁな」
「だからさ。その人がどんな風に過ごしたのか、わかっちゃうわけでしょう?
その人の行動範囲が狭ければ。どこでどんな人と過ごしたのか、わかっちゃうわけだし。それが残り香の定義なら、コーヒーとか、紅茶とか。煙草もそうだよね?」
「……確かに」
説明に、こくんと頷けば。
彼女は嬉しそうに、笑みを浮かべた。
そうしながら、食事を進めて。
「香水だけじゃ、ないんだよ」
「……?」
「気をつけてね?」
「ありえない」
即答して。
おまえもな、なんて落とせば。
「それこそ、ありえない」
って、彼女はくすくすと笑う。
知ってるけど、一応。
思いながら、笑みを浮かべて。
はしを置いて、彼女を抱き寄せた。
END
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