はじまりのこの日。
その日に、あなたといられていることが、とても嬉しく思う。本当…だよ?
流れ行くもの
ボーッと、毎年恒例の歌番組を見続けて。
どうしてこういう日って、眠くならないのかなー?
なんて、思ったりもして。
そうしていたら、冷蔵庫が閉まる音と共に、小さく発された笑い声を、わたしの耳が拾ってた。
振り返れば、彼はキッチンにいて。
彼も同じように、眠る気にはなれないみたいで。
ミネラルウォーターの小さなペットボトルに、口を付けていた。
もちろん、笑顔のままで。
「何ー?」
「つまらなそうだな」
「…その通りです」
紅白もそろそろ終盤で。
はっきり言って、面白くなくなってきてて。
でも、別の番組も、同じような感想しか思えなかったから、どうしようもない。
クッションをきつく抱き締めて、その端に顎を埋めつつ、彼を見続ける。
彼はくすくすと笑って。
ペットボトルをテーブルの上に落ち着けた。
「二年参り、行くか?」
「神社で年を越して、そのまま初詣?」
「ああ」
「行きたい!」
声を返して、用意をしはじめる。
と、彼はまた笑い出して。
ペットボトルを、冷蔵庫へと仕舞ってた。
着いて、すごい人にびっくりして。
同じことを考える人はいっぱいいるんだー、なんて零したら。
彼はまた、笑ってた。
手を引かれながら、人込みを掻き分けて。
少し離れたところで、息を吐く。
あまり、人がいない場所。
息は真っ白く、わずかな間、宙を漂って。
それを見上げた途端に、瞳に飛び込んできたものに、わたしは笑みを浮かべてた。
どうした? って、彼が覗き込んでくる。
答えずにいると、彼も空を見上げて。
「綺麗だな」
そう、零してた。
腕を絡めて、彼の肩口に、頭を落ち着かせる。
「綺麗だねー」
「ああ」
「すっごいねー」
「だな」
「天然のプラネタリウムだ」
言えば、彼は笑って。
「こっちが本家」
そう、言ってた。
あ、そっか。
あれはよく似せた物だったっけ。
思い出して、もう一度息を吐く。
空から――星から目を離さないわたしに、彼は笑みを浮かべたまま、携帯で時間を確認して。
そうしたら、どこからか、カウントダウンが聞こえて。
「少し…遅れてるな」
彼がそう、ポツリと呟いた瞬間。
太鼓が鳴り響いた。
ドンッ、ドンッて。
「明けたね」
「ああ。おめでとう」
彼の声に、顔を見る。
それに微笑って。
「あけまして、おめでとうございます」
そう、頭を下げた。
お参りして、おみくじで末吉を引いて。
彼はやっぱり大吉で、頬を膨らませた。
わかってはいたけど。
彼が何を引くか、なんて。
「何、お願いした?」
忘れるために、結びながらそれを聞く。
彼は去年のくじを探し出していて。
「今が続くように」
そう、答えてくれた。
「ふぅーん」
「おまえは?」
「珪と一緒」
「そうか」
「うん。それと、仕事が上手く行きますようにって」
「……」
「もちろん、わたしと珪の」
「お願い…し過ぎじゃないか?」
「やっぱり?」
10円だけなのに、多い?
思いながらも手を離す。
と、それは彼の手に収まった。
「燃やしに行くの?」
「行く」
人が多いなぁ、なんて、周りを見つつ思う。
屋台も多いし。
別に……何か食べたいとか、思わないけど。
くじで一喜一憂している人がいて。
それでも二人で、炎の方へと向かう。
電気は晧々と点いているけれど。
暗闇の方が、勝っているように思える、この時に。
炎の赤は、とてつもなく、綺麗に見えて。
そばにいても、熱いとか思わなかった。
そんなことを考えながら、神社を出る。
車への道の途中、やっぱりわたしは、視線を上へと上げていて。
「空気、澄んでるんだね? この辺」
「そうだな」
「夜中だから、周りの電気も、あんまりないし」
「よく見えるな。本当に」
車に着いても、わたしは見上げていて。
中に入る直前、急に流れたものに、わたしは目を見開いてた。
あって声を上げたけど、彼はすでに車の中で。
わたしは急いで、今見たものを告げるべく、中へと入った。
「今ね、流れ星が見えたの! すーって」
窓を指でなぞって、教えて。
「願い事、したか?」
「…あ」
「ばか」
「だ、だって、見た時にはもう、流れ星だーって……」
「はいはい」
「…むー……」
エンジンがかかって。
慌てて、わたしはシートベルトをする。
けどやっぱり、視線は窓の向こうで。
「玲」
「ん?」
「高校、行くか?」
言われたことに、わたしは彼へと視線を戻した。
理由が全然、わからない。
「? 何で?」
「グラウンドなら…もっとよく見えるんじゃないか?」
「はば学の?」
「ああ」
「行っていいの?」
「見たいんだろ?」
「…見たいです」
車は進んでいたけど、まだ、方向転換は可能で。
彼ははば学へのその道を選んで、走らせてくれる。
あとでどうせ、いっぱい見られるんだから、と。
わたしは進む方向だけを見ていた。
降り注ぐ、その光の中。
わたしは両手を広げて、真ん中に立ってた。
「キレーイ!」
声を上げれば、後方から笑い声。
門は閉まっていたけど。
警備員さんに声を掛けたら、いいって言われたから、わたしたちは敷地内にいる。
今日という日に、寒いけど、綺麗なものが見られて。
でもって、大好きな、彼と一緒で。
嬉しいこと、極まりない。
「何かさ、こういうの見ちゃうと、プラネタリウム、行けなくなっちゃうね?」
「……だな」
「貸し切り! って感じ」
「大袈裟」
「……」
「でも、その通りだな」
見上げて、彼もそう言ってくれて。
そんな彼をちらりと見てから、わたしはまた、空へと視線を戻す。
足音がわずかにして。
砂を踏む、その音がわずかにして。
わたしは彼に、抱き締められてた。
背中からの暖かさに、ほっとする。
「…して欲しかったんだろ?」
「そう」
きゅっと抱き締められて。
首のそばの、彼の腕に触れる。
嬉しいのに、悲しくなったりするのは、どうしてなんだろう?
一人じゃなくて、二人――なのに。
彼はこんなにも、そばにいてくれてるのに。
「玲」
「ん?」
「そばにいるから、俺…」
欲しかった言葉と、暖かさと。
それに、あーもう、なんて思う。
何でわかるかなー?
嬉しくてどうしようもなくて。
視線を俯けた。
「玲?」
「今、顔を覗き込んじゃ、ダメです」
「……わかった」
手に力を込めて、彼がここにいることを確認する。
わたしもここにいるよ?
そばにいるよ?
間近で聞こえ続ける、彼の吐息。
それに、どうにか自分を落ち着かせて。
わたしはまた、視線を上へと押し上げた。
今度、星が流れたら。
そんなことを、ずっと考えて。
END
|