もちろん とか
当たり前じゃん とか

あいつはずっと
口にし続けて

そうして最後には
笑うんだろうな





大地の上で





「玲ちゃん」
「玲」
二人に、ほぼ同時に呼び止められて。
彼女は「ん?」と言いながら、振り返る。
学校までは、もう少し。
そこまでの坂の途中で、彼女は二人に、呼び止められて。
「あ、タマちゃん、和馬。おはよう」
ひらひらと片手を上げて、後ろを向いた。
そして器用に、歩みは止めないでいるから。
俺は彼女の分も、前方を見ながら、歩いていく。
「おはよう」
「おう」
二人もそう、言葉を返して。
けれど。
「玲ちゃんに聞きたいことがあって…」
「うん。何? 報告、ではないの?」
「わかってたんだろ? おまえ」
彼女の左隣り――と言っても、彼女は後ろを向いているから、右隣り、なのかもしれないけれど――に、紺野が立って。
その隣りに、鈴鹿が並んで、歩き出す。
そうすれば、彼女もきちんと、前を向いて。
「わかってたかと言われれば、わかってました」
そう、言葉を綴ってた。
「やっぱりな」
「何で?」
「何が?」
「何で、和馬くんがわたしのことを…って、知ってたの?」
小さな声で、そう問われて。
俺は彼女の横顔を、見続ける。
彼女はその問いを、予想していたらしく、特に驚くこともなく。
「僕は何度も、言ったはずですが?」
そう、答えてた。
「言った?」
「言った」
「?」
「んじゃ、ちゃんとわかるように、言おうか?」
彼女が言えば。
もちろん、二人は、首を縦に振って。
それに彼女は、腕を組む。
彼女が持ち歩いているのは、学生鞄ではなくて、リュック型のものだから。
両手が開いているから、そうできるのだろうけれど。
「僕、言ったよね? 和馬はタマちゃんを呼びに来るって」
「…うん」
「ほかにもマネージャーはいるのに、タマちゃんを呼びに来るって」
「……それが?」
紺野はわからない様子で、先を促すけれど。
その向こうで、鈴鹿は視線を逸らしてた。
「もう一回言うよ? ほかにもマネージャーはいるのに、タマちゃんを呼びに来るんだよ?」
「だから…!」
「タマちゃんのクラスに、ほかにもマネージャーがいたこと、あったでしょ?」
休み時間とか。
言われて、紺野は大きく目を見開いて。
鈴鹿は頭を抱えて、立ち止まる。
その場にうずくまって。
あの時か…なんて、ぼやいてた。
それに合わせて、俺が歩みを止めれば。
彼女と紺野も、足を止めた。
「そ、それって……」
「一年の時」
「………」
「ねー? 和馬」
「…るせぇ……」
彼女はにこにこと笑って。
紺野はちらりと、鈴鹿を振り返って。
鈴鹿はいまだに、背を向けたまま。
「ちょうど、タマちゃんがいない時に、和馬が教室に来てさ。いつもの調子で、『マネージャー!』って呼びながら。でも、タマちゃんはいなくて。ほかの子がそばに行って。別のクラスの子だけど、マネージャーなら、誰でもいいのかなーって具合で、用件聞きに行ったら。『紺野がいないなら、いい』って、追い返してんの」
「………」
「和馬の中で、『マネージャー=タマちゃん』なんだって、それでわかったわけ。つまりだ。タマちゃんじゃないなら、和馬は無茶は言わない。わがままは言わない。つまり?」
「わたし…だから?」
「正解。和馬にとって、タマちゃんは特別なの。わがまま言える、存在。言ってしまえば、甘えてるんですよ」
「………」
「…それだけでわかったのかよ?」
「もちろん、だけじゃないけど。でも、観察のきっかけは、それだね」
「………」
言葉を聞いて、鈴鹿は立ち上がって。
それを合図に、また歩き出して。
「ほかに質問はー?」
彼女がそう、言葉を発する。
鈴鹿はもう、打ちのめされているのに、近くて。
言葉を発することは、できないみたいで。
そして、紺野は。
「あと、もう一個、いい?」
「はいはい?」
「どうして和馬くんに、わたしが告白するって教えたの?」
眉尻を下げての問いに、彼女はにっこりと笑って。
それから。
「簡単でしょ」
そう、紡ぐ。
「簡単?」
「そう」
「?」
「タマちゃんと同じ。急かすために」
「……」
「だってそうしないと、絶対二人とも、後回しにするもん。でもって、タマちゃんから告白させたら、和馬に怒られそうだもん。僕が」
「何で?」
「『おまえ、アイツの気持ち知ってたんなら、何で俺に言わねぇんだよ!』とか?」
「………」
「だから、和馬から告白させれば、僕も怒られないし、タマちゃんは嬉しいし? いいことだらけじゃん?」
なるほどな。
小さく零せば、彼女は俺を見て、くすくすと笑う。
と。
「葉月くんも、知ってたの?」
そんな問いが、俺に向けられて。
俺はどう答えようか、少しの間、考えていたけれど。
「そりゃ、色々手伝ってもらってたんだから」
そう、彼女が代わりに答えてた。
学校の門が、見えはじめて。
俺はそれに、息を吐く。
彼女がそれに気づいて、俺の顔を見てから、視線の先を追って、前方を見て。
「よかったね?」
そう、誰に言うともなく、呟いてた。

END

 

オフで出した、鈴珠本『レンズ越しの宇宙の下で』の、後日談。
珪くん視点の話を、本の中で書いてないので、書いてみました。
こういう話って、書いてて楽しいんだよねー…。

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