| 時々
わからなくなる わかっているけれど
わかりたくないと言うか
彼女が時々使う言葉を
今は俺が 使ってしまうほど
届け切れない
『君には
わからないと思う
ううん
わかるとは 思うけど
ただやっぱり
同じものは 理解出来ないと思う』
携帯に入っていた、そんなメールを読んで。
俺は固まってた。
差出人は、彼女。
本当に時々、こうして意味のわからないメールを、彼女は送ってくることがあるけれど。
その度に俺は。
言葉から視線を外すことはできなくて。
そして意味を、ただただ、考えるだけ。
「………」
彼女がいつも、こんなメールを送ってくるのは。
俺が必ず、彼女のそばにいない時。
俺が必ず、撮影だとか、そんなもので、すぐに彼女に、会いに行けない時。
だからこそ、彼女の想いや、彼女が求めるもの。
それは…わかるのだけれど。
けれど、わかってしまったとしても。
俺はやっぱり、彼女のそばへは、いけなくて。
どうしようかと考えながら、腰かけていたいすを、半回転させた。
身体を、鏡に向かっていたのを、部屋の中央へと向けて。
膝に肘を突いて、なおも考える。
彼女に何を、返すべきか。
言葉の方がいいのか、声の方がいいのか。
考えて、考えて。
押したのは、返信へとディスプレイを変える、ボタン。
言葉には、言葉で。
今回ぐらいは…、なんて。
そんなことを、考えたから。
『おまえには
わからないと思う
いや
わかるとは…思うけど
ただやっぱり
同じものは 理解できないと思う』
「………」
ずるい…か?
考えながらも、送信ボタンを押して。
それでもやっぱり、落ち着かなくて。
変わらないディスプレイを、見続ける。
ゆっくりと、色を落としていく、その四角い、小さな画面を。
「!」
真っ暗になった頃。
急に、画面は明るくなって。
新しいメールが入ったことを、教えてくれる。
少し遅れて、音楽が響いて。
それを止めて、メールを開ければ。
案の定、それは、彼女からのもの。
『確かに
君のものは
わたしにはわからない
だから
わたしのものは
君にはわからない
似たようなものは
わかってもらえるとは 思うけど
だけど
わかってほしいと
願ってしまう』
「………」
また俺は、固まって。
それから、大きく息を吐き出した。
彼女のわがままだと、わかっている。
彼女自身、わがままだと、わかっている。
だからこそ、彼女は遠回しに、言葉を――想いを――届けてくる。
俺だって、想いは同じ。
けれど、仕事なのだから、仕方がない。
彼女だって、それはわかっている。
だから彼女は、間接的に、届けてくる。
直接的な、その言葉を使わずに。
何をどう、届ければいいんだろう?
考えて。
けれど、文字を操る彼女には、勝てないような気もして。
それでもきっと。
こうして、同じような言葉を綴っていくことが。
彼女の空白を埋めることができるのだと、信じたいから。
『俺だって
わかりたいと
願っている
俺と同じならいい
そう 願ってる
けどおまえは
何も言っては くれないから
少しだけ……不安にもなる』
打ち終えて、送信して。
そうしてから、らしくないかもしれないと、そわそわし出す。
それでも、彼女はきっと、返事をくれるだろうから。
送ってしまったものは、戻らないし。
そう、考えていれば。
すぐに、手の中で、音楽は奏でられた。
慌てて、届いたものを開けば。
『会いたいの! バカ!』
なんて、短い言葉。
「………」
言葉を失っていれば、また新しいメールが入ってきて。
『でも、無理だってわかってるし。出来るだけ、早く帰ってきてくれればいいです』
そこにはそう、書かれていた。
それに、俺は微笑を浮かべる。
俺だって、同じ。
早く会いたい。
早く触れたくて。
早く、この腕に閉じ込めてしまいたい。
不安にさせてしまったことを、謝って。
彼女の機嫌が直るまで、抱き締めて。
『仕事、放り出していいなら、すぐにでも帰るけど』
思いながら。
そう、短く、言葉を綴って。
彼女の元へと、送り出した。
END
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