知っているはずなのに。
わかっている――はずなのに。
どうしてこんなにも、不安なんだろう?



イマドコ




満天の星空を仰ぎ見て、わたしはほぅと息を吐き出した。
ほんの少し…と思って出てきたはずなのに。
とてもとても、家に帰る気には、なれなくて。
携帯でさっき、自宅に何となく電話してみたら。
弟の尽が出て、「適当にうまく言っておいてやるから」と、すべてを察したように言ってくれた。
どうしてこんなにも、不安なんだろう?
公園の真ん中、立ち尽くしたままで、考えてみる。
瞳には空。
星が綺麗に瞬く、空。
彼はわたしを好きだと言ってくれたのに。
愛していると、言ってくれたのに。
同じ気持ちを、言葉に乗せて。
わたしだって――言ったはずなのに。
彼はわたしのもの。
わたしは彼のもの。
その証でさえ、ここにはあるのに。
ボーッと、空を見つめたままで考える。
彼の周りには、たくさんの――女の人がいる。
綺麗だったり、かわいかったり。
そんな人よりも、わたしを選んでくれたことが、何よりも……嬉しかったのに。
そばにいていいと言われて、嬉しくて。
重ねられた唇も、きちんと受け止めたのに。
彼の想いは、ここにあるのに。
瞼を閉じる。
何が不安なんだろう?
先のこと?
そんなの、見えないんだから、誰だって不安だよ。
そんなことじゃない。
でも、そうなのかもしれない。
証がほしい?
目に見えるものじゃなくて。
見えないのに、確かなもの。
たくさんもらっているはずなのに、それでも?
思い、考えて。
わたしは手にしたままの携帯に視線を移した。
わがまま……言ってもいい?
心の中で、呟いて。
じっと、ディスプレイを眺め続ける。
今、どこにいるの?
聞いたらきっと、家にいるって言ってくれる。
だって今日は、仕事じゃないって言ってたし。
だから……わがまま、言ってもいい?
公園のそばを、一台の自動車が走り去っていった。
もうすぐ、春も終わりを告げる。
暑い、夏が来る。
寒くはないはずなのに…なぜか、ほんの少し。
ほんの少しだけ…寒く感じる。
ひとりきりのような感覚に襲われる。
怖い…のかな?
否定されたらどうしよう、とか。
受け入れられなかったら、どうしよう…なんて考えて。
ぎゅっと、携帯を握った。
彼はわたしに優しいけれど。
今日はさすがに…そう思う。
もう、遅い時間だし。
明日だって、大学で授業、あるんだし。
早く帰った方がいい、なんて……言われるかもしれない。
昼間、あんなに一緒にいたのに。
それでも、夜になると不安で。
そばにいたいと思うのは、わたしだけなのかな?
考えて、考えて。
わたしは行動に出た。

『優菜?』
すぐに出てくれた声に、ほっとする。
「珪くん」
『ん?』
「今、どこにいるの?」
わかり切っているのに、聞いてみる。
『家。俺の部屋』
「やっぱり?」
『ああ』
予想していた答えに、微笑が浮かんだ。
俯かせたままのわたしの視線。
小さな足跡が、目に映った。
『おまえは?』
「……公園。散歩しに、出たんだけど」
そこで、言葉を切った。
わがままを、口にしてもいい?
受け入れてくれる?
思いながら、少しだけ、考えて。
「あの……」
『あの、公園か?』
口を開いた瞬間、彼がそう、聞いてくる。
それにわたしは、うん、と頷いた。
「珪くん家の、そばの公園」
『そうか』
「うん」
だから…。
言おうとして、言えなくて。
わたしは唇を噛む。
そっちに行っていい?
とは、聞けなくて。
迎えに来て。
なんて…言えなくて。
わかっているのに、不安。
いつだって、繋がっている。
それはわかっているのに。
ものすごく……不安で。
どうしようもなくて。
わがままになっていく自分を止められなくて。
どうしようも――なくて。
わたしは涙を零す。
電話口の向こうで、わたしの言葉を待っている彼に、知られたくなくて。
わたしはすぐに、それを拭った。
「今、何してるとこ?」
涙声にならないように、精一杯、明るく、そう言った。
『………』
帰ってきたのは、沈黙。
「珪くん?」
『…ああ、何だ?』
「考え事?」
『いや…携帯、落としそうになって』
「そっか」
くすくす笑って、溢れてきた涙を拭う。
足で、地面を軽く蹴った。
小さな足跡は、わずかに爪先の部分だけを残して、消えた。
「何、してるの?」
見えないから、会いたいから。
少しでも、知りたくて。
もう一度、そう届ける。
『……歩いてる』
「え?」
どこかに行くの?
それとも、家の中を移動してるだけ?
聞けなくて、わたしは少し、うろたえる。
思い付いたことに、それはないと…唇を固く、引き結んだ。
「……どこかに行くの?」
のに、言葉に出てしまう。
出かける直前だったのかな?
だとしたら…電話して、ごめんね?
答えによっては、そう紡ぐつもりでいたのに。
答えてほしくない、と…そう思ったら、瞼を硬く閉ざしてた。
どこにも行かないで、ここに来て。
今すぐに迎えに来て。
言えなくて、胸に手を当てる。
苦しくて、どうにかなってしまいそうで。
こんな自分……知らなくて。
それでもすぐに、彼から答えは出された。
『公園』
「…え?」
そう、一言。
「公園って……」
『見えた』
通話が切られて、わたしはしばし、呆然とする。
見えたって、何が?
思うと同時。
出入り口の方から、足音がして。
すごく…急いでいるような、足音で。
振り返ると、わたしは暖かな場所にいた。
「どうした?」
耳元で、今一番、直に聞きたい人の声が聞こえて。
その暖かさでさえ、わたしはよく、知っていて。
「優菜?」
紡がれたわたしの名前に、ほっとして。
わたしは、珪くんの背に、手を回した。
彼の肩にあごを乗せて、嬉しくて、泣いて。
「珪くん」
「ん?」
「ありがとう」
「ああ」
腕の力が強まって。
わたしは、泣きながら笑った。
わかっていたのに。
彼はこういう人だってこと。
何も言わなくても、わかってくれる人だってこと。
わかっていたのに…どうしてだろう?
とてもとても、不安だった。
でも今は、そんな不安なんか、吹き飛んでて。
欠片さえも、見えなくて。
「珪くんって、すごいね」
そう、言ってみた。
「何が?」
「珪くんが来たら、不安とか、どっか行っちゃった」
「そうか」
「うん」
腕が解かれて、自然に身体を離す。
頬に、手が添えられて。
上を向かされて…瞼を閉じた。
何が不安?
重なった唇は、暖かくて。
優しくて。
何がほしいの?
腰が抱き寄せられて、わたしも答えるように、珪くんの首へと、腕を回す。
どう、したいの?
答えなんかなくて。
わからなくて。
消えてしまったものを手繰り寄せてみても、わからないことばかりが増えていって。
わたしは、考えることを止めた。

 

続き、裏です。
決定。

考えはじめたら、止まらなくて、またもや主人公ちゃん視点。
珪くん視点の方が、樹的にはいいんですけどねー。
で、三人称で書く方が、書きやすいんですが。
今回も最初は三人称で書こうと思っていたのに!
うまくいきませんでした…(精進しなさい、自分)。

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