| 与えられ過ぎると、麻痺する。 わたしはこんなことをされて、いい人間だったっけ?
そんなに大きな人間だったっけ?
わからなくなって。
そして、それでもすぐに、思い知らされる。
わたしは、ものすごく。
小さな――人間。
ハプニング! 3
あー、びっくりした。
肩を落として、そう思う。
受け取っちゃったけど……返した方がよかったんだろうか?
というか、返事はいりませんからって、言われたし……。
いいんだろうな。
結論づけて、ドアを開ける。
昨日とは逆に、彼がボーッと、空を眺めてた。
そこに近づいて。
仕返しとばかりに、彼の頭の上に、手を置いた。
それに、くるりと振り返られる。
「遅かったな」
「ごめん」
手を下ろしつつ謝ると、彼は目を細めて。
そのあとで、眉根を寄せた。
どうしたんだ? それ。
って、聞きたげに。
「もらっちゃった」
「誰から?」
「タマちゃん、なっちん、有沢さん、瑞希さん。それから、後輩ちゃん達」
「………」
「わかってるのは、そうなんだけど」
「?」
「三時限目とSHRのわずかな時間、教室を出たでしょう?」
「ああ」
「帰ってきたら、机の上に置いてあった。約十個」
「………」
「それを入れようと思って、鞄開けたら。そこにも入ってた」
「………」
「二時限目、移動教室だったから、その時かなー?
とは思う」
「いくつ?」
「数えてない。でも多分、十個はない」
「それは…?」
持ってた袋を指差して、彼は聞いてくる。
少しだけ持ち上げて、わたしは口を開いた。
「美術部の一年生から。女子全員、くれたみたい。で、ご丁寧に、袋に入れて持ってきてくれたので、鞄の中に入ってたのとか、全部、こっちに入れた」
「……物好きがいるんだな」
「そのようで」
答えると、彼が腰を上げる。
「チョコレートケーキにしようかなー」
「作り替えるのか?」
「だって、飽きない?」
「食べ切れないから、事務所に持ってく…。仕事の時とか」
「差し入れ?」
「ああ」
「んじゃ、僕もそうしようかな?
とりあえず、全部開けることはするけど」
「どうして?」
「僕宛てにカードとか入ってたら嫌だし。それに、小分けされてるなら、一つずつぐらいは食べときたいし」
短く息を吐いて、足を進め続ける。
教室を出て、廊下を歩いて。
階段を降りて――学校を出た。
彼の家に着いたら、鞄の中に入れてある、残った一つを渡して。
「カッコイイんだって」
「誰が?」
「僕」
「………」
「それに、優しいんだって」
「…どこが?」
「………」
無言で彼の背中を叩く。
思いっきりやって。
仕返しをされる前にと、逃げ出した。
わたしは――こんな人間なのに。
特定の人間にしか、こうして自分自身を晒せない。
だからきっと。
何かを期待されたとしても、それに応えられるかどうかは、わからないし。
というか、むしろ。
応えられないと、わたしは思う。
近いものは、何とか。
そしてそれを、わたしは偽るんだ。
出来たよ。応えたよ。
って。
わたしに期待を寄せてくれた人を、うまく裏切る。
うまく欺いて。
けれど彼は。
欺かれてはくれないから。
本当に、ほっと出来る。
捕まって、額を叩かれて。
そうされながら、わたし自身を見てくれている人がいることが、嬉しくて。
偽らなくていいのだと、教えてくれるから。
「今、本気でやったでしょー!?」
「おまえだってそうだろ?」
本当の自分。
自分でも、子供だと思える、そんな自分。
それを曝け出せる場所が、本当に少ないって思えるけれど。
そこはきちんと、わたしのそばにはあるから。
「そういうこと言うと、あげないよ?」
「……おまえ」
「何? 葉月くん、本当に欲しいんだ?」
「………」
「いっぱいもらったんでしょ?」
「おまえのはおもしろいから」
「まぁ、ほとんど創作だしねぇ」
「だから」
それに、美味いし。
呟かれた言葉に驚いて。
でもすぐに、笑ってた。
そばにいられる理由が与えられているなら――わたしはそれに、縋り付く。
無条件でそばに置いてくれる人なんて、絶対にいないもん。
利用されて、利用して。
だから人は、ひとりではいられない。
わたしはそう、信じているから。
彼から視線を逸らして、小さく自嘲う。
わたしはこんなにも、現実しか見られない。
そんな人間に、夢を見てしまう人たちがいる。
いかに上辺しか見ていないかってことだよね?
思いつつ、両手を上へと伸ばした。
隣りで彼は、くすくすと笑っていて。
わたしはそんな彼を睨めつけたあとで、笑顔を浮かべてた。
「何か今月、忙しい?」
「かもな」
「このあとはゆっくり過ぎていってほしいなー」
「だな」
「君、そんな返答ばっかりだね?」
言えば彼は、くすくすと笑って。
返答をくれなかったから、彼の腕を引っ張って、強要してみた。
けど、効果はなし。
その代わりに、彼はずるずると、わたしを引っ張っていく。
それがなぜだか嬉しくて。
わたしは知られないように、小さく笑ってた。
END
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