そう
それは突然の出来事

考えていたことだけれど
でも本当に
それは突然



exchange 〜 優菜 〜




朝起きた時は、変わらなかった。
同じ朝だと思った。
寝室だって、変わりはなくて。
なのに……。
「おまえ…誰だ?」
「え?」
その寝室に戻って。
彼を起こした時に、それははじまって。
「誰って……」
「玲じゃない」
あきら?
あきらって…誰?
上半身を起こした、険しい彼の表情に、わたしは泣きそうになって。
彼の口から、べつの人の名前が紡がれたことも、嫌で。
でも。
「見た目は同じ…なんだけどな」
小さく届けられた言葉に、わたしは首をひねる。
見た目は同じ?
そんな人が、いるの?
「珪くん…?」
「……玲はそんな風に、呼ばないし…」
困っているのは、彼も同じみたいで。
それから。
「もう一度聞く。おまえ、名前は?」
問われて。
「しの……、葉月…優菜、です」
結婚、したんだって。
だから苗字、変わったんだって。
思い出して、慌てて言い直せば。
彼はやっぱりと、呟いてた。
「?」
「俺まだ、結婚してない」
「え?」
「優菜か…。でも、俺の知ってるおまえは、田端玲って名前」
「……」
「でもって、そんな格好は絶対にしないやつ」
「………」
「起こし方も、こんなに優しくないし」
「……じゃぁ…」
「おまえが入れ替わったのか? それとも、俺が……ってことは、なさそうだな」
部屋を見回して、彼は言う。
それに倣って、わたしも周りを見回して。
それから、見たこともない調度品や、小物たちに、眉尻を下げた。
朝、わたしが起きた時は、同じだった。
よく見知った、生活してきた、寝室だった。
なのに、今はこんなにも、知らない場所。
だから……今、わかったことは。
わたしと、ここにいた、玲ちゃんっていう子が、入れ替わったということ。
ここがどこなのかは、わからないけれど。
そう考えていれば、彼はどこかへ電話をかけていて。
わたしはそれを、じっと待つ。
珪くんなんだけど、珪くんじゃない、彼。
あんまり、優しい印象を受けない。
わたしの知ってる、『彼』は。
すごく、優しい人だから。
「…俺。……ああ、おはよう。それよりちょっと…困ったことになって……。これから来られないか? ………。…ああ。できれば、藤井たちも連れてきてもらえると、助かる……。……じゃあ」
通話を終えて。
彼は小さく、息を吐いて。
通話を切ったけれど。
また、べつの場所へ、番号を押してた。
途端、小さく音が鳴り響いて。
「…無理か」
そう、彼が零す。
そのあとで。
「尽が来る。これから」
そう、教えてくれた。


「…姉ちゃん?」
声をかけられて、わたしは戸惑う。
困惑気味の表情が、目の前に三つあって。
わたしは、泣きそうに、心細くて。
「……玲じゃない」
「せやな。玲ちゃんとは、違うな」
「…言っただろ? だから」
壁際に詰め寄られて。
ますますわたしは、どうしたらいいのか、わからなくて。
胸に、固めた手を、当てる…だけ。
彼が尽に電話をして。
それから約、三十分後に、尽は二人を伴って、やってきた。
リビングに入る前に、少し、彼から説明を受けたみたいなんだけど。
信じられなかったのか、三人同時に、入ってきて。
わたしは、お茶を用意してた手を止めて、おろおろしちゃって。
「とりあえず、どういうこと?」
今、三人に囲まれてしまっている状態。
「多分、入れ替わったって考えるのが、普通かな?」
「入れ替わったって……」
「もしもの世界と、この世界が、何かの拍子でくっついて。で、姉ちゃんだけが、入れ替わった」
「…もしもの世界?」
「よく言うじゃない。あの時、ああしていたらどうなってたんだろう? とか。その一つでしょ?」
「えーと…、優菜ちゃん、言うたっけ?」
ニィやん――たぶん、中身はわたしが知っている人とは、違うのだろうけれど――に聞かれて。
わたしはこくんと、首を縦に振る。
「優菜ちゃんの友達には、俺とか…奈津実とか、おるんか?」
それにも、縦に。
「……友達の名前、あげてってもらっていい?」
なっちん――彼女も、きっと、違うんだろうけど――に、言われて。
わたしはゆっくりと、名前を挙げていく。
親しいと言える友人に、限ってだけれど。
「…志穂と珠美、瑞希はアタシも親しい」
知っている名前があったのか、彼女は考え込むように、しながら、そう呟く。
わたしは少し、ほっとして。
「いつ、瑞希ちゃんと仲ようなったん?」
「結構仲よかったの! で、ようやくこの前、名前で呼ぶの、許してもらったのよ」
そんなことより、この子でしょ?
言われて。
指を指されて。
どうしたらいいのか、わからなくて。
わたしはことの成り行きを、見守ってるだけ。
「それよりさ、姉ちゃんの知ってる葉月は、こんな風に、俺に電話してきたりするのか?」
尽――この子もやっぱり、違うのかもしれない――に、問われて。
わたしは考え込む。
連絡…するかな?
するような気も、するけど。
そう、思っていれば。
「玲は一人でやるだろうな」
そう、彼が。
ポツリと言葉を紡いだ。
「実は俺も、同意見」
「やっぱり? アタシもそうじゃないかなーって、思ってた」
「玲ちゃん、行動派やしなぁ……」
わたしに背を向けて。
みんなで息を吐き出して。
「抱え込まないように、祈るだけね」
「ちゃんと、食ってくれるといいんだけどな……、飯」
「帰ってきた途端に倒れられても、困るし」
「アフターケアってやつ、せえへんとなぁ」
また、みんなで吐息。
心配、してるんだ。
あたりまえだよね?
思って。
考えて。
わたしは窓の向こうの空を、振り仰いだ。

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