朝 起きて
昼 仕事して
夜 帰ってきてあいつらの相手をして
眠る
そんな日常が
いかに幸せか
こいつらはわかってるんだろうか?
Engel 6
ふわりと。
隣りからなくなったあたたかさに、俺はぼんやりとまぶたを上げる。
額に、左腕を置いて。
ぼんやりと、『白』とわかる天井を見続けていれば。
「おはよう、珪」
そんな言葉と共に、彼女が視界の中に飛び込んできた。
朝だということはわかっていたから。
「…おはよう」
俺はすぐに、そう返す。
左腕を下ろして。
右手を伸ばして、彼女の頬に触れた。
彼女はそれに、少しくすぐったそうにしながらも、擦り寄ってくれて。
それから、笑みを零してくれる。
「今日は何の日か、わかってるよね?」
「もちろん」
「じゃあ、早く帰ってきてね?」
「ああ。午前中だけで終わるから、仕事。遅くても、一時過ぎには……帰ってくる」
届ければ、彼女はにっこりと微笑んでから、視界の中からいなくなって。
俺はゆっくりと、上半身を起こした。
カーテンを引くと、部屋に朝の光が充満して。
それが眩しくて、目を細めてから、彼女を見れば。
そばの、小さなベッドを、覗き込んでいた。
頬を突ついているのか、くすくすと声が上がって。
俺もベッドから降りる。
「玲」
「んー?」
「あんまりやり過ぎると、泣くぞ」
「…だね」
身体を起こして。
彼女は俺に、笑みを見せてくれる。
「さーて、朝ご飯の用意でもしてきますか」
伸びをして。
彼女はそばに置いてあったカーディガンを羽織って、寝室を出ていった。
代わりのように、彼女がいた場所へと近づけば。
二人は変わらずに、眠り続けていた。
二人一緒で寝かせるのは、理由があって。
簡単な話。
離すと、颯が泣くから、なのだけれど。
「もう一年、か」
小さく零して。
触れ合っている二人の、小さな手に触れれば。
小さいなりに、きちんとあたたかくて。
俺はふっと、一人で笑ってた。
仕事が終わって。
控え室から出れば。
「葉月さん!」
そう、呼び止められた。
振り返れば、そこにはスタッフの何人かがいて。
「?」
「今日ですよね? 朝くんと颯ちゃんの誕生日」
「そうだけど……?」
「これ、二人にあげてください!」
差し出されたのは、大きな袋で。
受け取ってから、中を覗き見れば。
そこには、二つの、ラッピングされた、箱。
「誕生日プレゼントです」
「青い方が朝くんので。ピンク色の方が、颯ちゃん」
「…ああ」
「まぁ、おもちゃなんですけど。遊んでくれると嬉しいなーって、話ながら、決めたんですけど」
「あと、靴!」
「そうそう、可愛いのがあったから、つい買っちゃったんだよねー?」
話を聞きながら、くすくすと笑う。
近いうちに連れてこないとな。
そんなことを考えながら。
「それでは」
「? ああ」
「「お疲れさまでした!」」
その声に、手を挙げて。
踵を返す。
靴…サイズ、平気か?
考えながら、思い出しながら。
俺は帰路を選んでいく。
駐車場に着いて。
もらった物を、後部座席に置いて、運転席に、乗り込んで。
俺からのプレゼントは、すでに用意してあるから。
もう今日は、帰るだけ。
家に帰れば、彼女がケーキを作っているはずで。
たぶんまだ、作っているはずで。
俺が二人の相手をしている間に、彼女はすべてを、用意していくはずで。
エンジンをかけて、緩やかに帰路へと車を乗せる。
家に帰れば、彼女がいて。
かわいらしい声で、俺のことを呼んでくれる、颯がいて。
抱き着いてくる、朝がいて。
そんな些細なことが、どんなに幸せか。
たぶん、あいつらはわかってないだろうし。
すぐにはわからないだろう。
俺だって、父さんに言われても、子供の頃は、ふーんって感じだったし。
でも今は、本当によくわかるから。
二人もきっと、同じ状況に陥ってから、わかるのかもしれない。
それが、何年先になるかは、わからないけれど。
「………」
まだまだずっと先のことを考えて。
苦笑を浮かべた。
まだ、二人は赤ん坊で。
朝は好奇心いっぱいだけれど、誰かよりも、ものの方にだし。
颯は人見知りが強いから。
二人が輪を広げていくのは、まだまだ先。
――そう、きっと。
こんなことを考えるから、彼女に子離れって単語を、出されるのかもしれない。
とりあえず。
「早く帰るか」
ぽつりと零して。
俺はアクセルを踏み込んだ。
END
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